45話 護衛依頼(4)
翌日。予想以上に順調に進んだために時間調整も兼ねてゆっくりと昼休憩を取ることになった一行。御者やヒメカとユウトは馬の手入れを。他の者も、昼食作りのために釜戸を組んだり、周囲を警戒したりしながらも、心持ちゆったりとしていた。
「スイ、セキトバ、ありがとな。疲れてないか?」
魔法で汗を洗い流し、ブラッシング、マッサージをしながら回復魔法もかけるユウト。肉体的な疲労は鑑定で分かるが、精神面は分からないので言葉をかけるが、2頭の馬は「何が?」と言わんばかりに純粋な目で首を傾げていた。問題ないようだ。
「スイー、セキトバ、ご飯だよー」
ケアが終わったのを見計らったかのように、鑑定スキル総動員で微調整しながら配合したエサを持って現れたヒメカ。ヒメカ配合のエサは2頭も大変好んでいる。実は飲み水にもこだわっており、ヴィーゼで研究した光と水の魔素を込めた水を飲ませている。最初は1種類の魔素しか込められなかったが、時間をやりくりしながら実験し、2種の魔素を配合することに成功していた。定着はまだ出来ていないが時間は長くなっている。
嬉しそうにエサを食む2頭の様子を見つつ、今度は人間の食事を作りに行ったヒメカ。気が付けば依頼主の許可を貰って手を出すので、寝る時以外は忙しなく動いている。
「休める時に休むのも大事なんだけどなぁ」
「食事を取って睡眠を確保してるから大丈夫だ。あの人、凄く頑丈だから」
「……やったことがあるのか」
「家の事を完璧にやってたから気付かなかった。いきなり倒れた時は肝が冷えた」
緊急搬送された本人は点滴を受けたらケロッとしていた。しかも理由が「うっかり」。あの時は家族総出で説教したのを思い出してユウトは眉間を押さえた。ナストはドン引きしているが事実なのだから仕方がない。
ヒメカの為に追記しておくと、その一件以来はやっていない。ちゃんと学習できる子なのです。
用意が出来たとヒメカが呼びに来て昼食となった。
ヒメカが料理を作るから毎回出来立てを食べられるナストとユウト。この日は『深紅のはばたき』が周辺警戒に立ち、『炎の槍』と『ヴェルメリオ』が先に食事を取ることになったが、また『炎の槍』の3人が口を滑らせた。
昼食自体は美味いと食べていたパテル、アルヴィー、ギリアンだったが、3人の会話の中でヒメカを給仕扱いする発言が出たのだ。
丁度、交代をするために『深紅のはばたき』もいる時で、キャトラとヴィヴィの女性2人も何故かヒメカに矛先を向けた。冒険者なのに食事係なんて、と。
おそらく自身が料理をできないことや、依頼主に気に入られていることが気に喰わなかったのだろう。一度堰を切ってしまえばどんどん不満が出てきた。料理などは任務外なのだから毎回先に食事を取るのはズルい、だとか、一人だけ馬車移動なんてズルい、魔法士が気安く魔法を使うなんてプライドがない、等々。ボスウェルとジェムは2人を止めようとするが、それ以上機嫌を損ねないように気を遣っているので強制力が弱く、無意味だった。
商会の人間は旅を快適に保ってくれたヴェルメリオ贔屓なのでどんどん視線が冷たくなっていく。ユウトは『炎の槍』の時から絶対零度の視線を向けている。ナストも即席とはいえパーティメンバーを貶され、憤然として席を立つがヒメカに止められた。
「ナストさん、交代しないとですよ」
「でも……」
「でもじゃないです。いいからお仕事しましょうね」
好き勝手言われているヒメカは平静そのもので、まるで駄々をこねる子どもに言い聞かせるような声でナストを引きずっていった。
「悠ー?」
「今行く」
ユウトはもう一度だけ冷めた視線を向けたが、一つ息を吐くと仲間の元へ足を向けただけだった。
「なあ、あいつらに言い返さなくて良かったのか? 馬車に乗っているのは依頼主指示だし、料理をしていても『探知』は常に発動しているから任務放棄はしていない。あの人達だって恩恵を受けているんだから非難される謂れはないだろ」
ムッとした顔のナスト。ユウトは表情にこそあまり出ていないがいつもより少しだけ目が険しい。
(これは割と怒っているわね……)
困ったように頬に手を当てながらも、どことなく嬉しそうに口元を緩ませるヒメカ。どうでもいい相手にどうでもいいことで好き勝手言われても相手にする気が起きなかったが、弟がここまで腹を立ててくれているのだからと、重い腰を上げることにした。
「そうねぇ……じゃあ今度から食事は作れる時だけにして、あとは出来合いのものを私達と商会の方々の分のみにするわ」
「それだけでいいのか?」
「お風呂は私も入りたいし、備品は商会が買い取った分を使っているわけだから私達が何かを言う権利はありませんから」
若干不服そうにするナスト。結局、相手の言う通りにした結果になるし、自分に非がないのに言い返さないのは弱者だから、というのがこの世界の常識だからだ。たしかに年は若いが冒険者は皆平等。歴よりも実力主義なので、(ランク的に)同等か(実力的に)上なのだからヒメカの対応の意味が分からない。
だが、ユウトはそれに満足したようなのでそれ以上は言えなくなってしまった。
あとでこっそりユウトに理由を聞くと、
「姉さんの料理をいきなり取り上げられて黒パンと干し肉になるんだから充分罰になる。そして姉さんは一貫するだろうから謝罪しても意味がない。帰りも護衛続行をするなら大変だな」
割とえげつない、と思ったナストだった。
「問題は明日だな」
「盗賊ですね?」
「ああ」
今日、わざわざ時間調整をしたのはそのためである。このペースだと日が沈む少し前くらいに盗賊の目撃情報が多い場所を通過することになってしまうため、それくらいならば日程を遅らせてでも日が昇ってから一気に通過する方がいい。今回の場合は、少し遅らせても予定通りアムニスに到着できるので全く問題ない。
「いざという時の行動は覚えているな?」
「俺とセキトバが先導しつつ前方の障害を排除、ナストとスイが後方で追っ手を牽制、排除。姉さんが中央の馬車の上から魔法で広範囲をカバー、場合によっては攻撃」
「ヒメカさんもユウトも索敵範囲が広いから余程の事がなければ近寄らせないだろうけど、反応があったら即報告。『拡声』で全体報告も忘れないようにな。伝令に走る場合はユウトが前方、俺が後方担当だ」
しつこい位に確認。馬車が多いので列が長いし、馬車を挟んで左右に分かれているので指示も通りにくい。ちなみに、盗賊が張っている場所というのは比較的魔物が少ないので『拡声』魔法を使える。いざとなればヒメカとユウトからの声は聞こえるし、暗号も決めている。夜に一度全体確認をするだろう。
夜、有言実行でヒメカはポリティス商会とヴェルメリオにしか食事を用意しなかった。その対応に、ポリティス商会は納得を示し、昼間の事もあってか『深紅のはばたき』から文句は出なかった。『炎の槍』は言ったが無視された。
「面倒をかけてしまい申し訳ない」
「いえいえ。こちらもある程度分かったうえでの依頼なので」
風呂の前に、『ヴェルメリオ』を代表としてナストがポリティス商会に謝罪をする。勿論、ヒメカとユウトも同行して頭を下げた。馬車の中でもヒメカが個人的に謝罪したが、今回はパーティとしての正式な謝罪である。本来なら護衛対象に気を遣わせるなどあっていいことではないので必要な事である。ハリソンは全く気にしていない様子で、謝罪は不要、と頭を上げさせた。
「……ところで、他のパーティは謝罪に来られましたか?」
「…………」
ナストの問いに帰ってきたのは苦笑。その時点で把握は簡単だった。ナスト達はため息を吐いて頭を押さえたくなる。
「重ね重ね申し訳ない」
「こうしてわざわざ謝罪に来られた貴方達に非はありません。臨時で複数パーティが共同依頼を受ける時はままあることです。今回は癖の強い者達が集まってしまっただけのこと」
さすが冒険者の大先輩だけあってヒューズの言葉には重みがあった。小さな声で、この程度可愛いものです、と聞こえたのは全員聞かなかったことにした。昼間、馬車の中でその話を聞いているハリソンとヒメカはヒューズから目を逸らした。
「とにかく気にしないでください」
「ありがとうございます」
せめてものお詫びにと、今日の風呂はユウト特製の入浴剤入り。こちらも小分けにしたものを数種類お買い上げいただいた。頑張って研究してください。




