44話 護衛依頼(3)
好きにしろとは思ったものの、一応、出立前にヒメカに声を掛けてみるナスト。基本的に放っておけない気質なのだろう。
「昨夜は物で釣る形で意識を逸らしましたけど、根本的に『深紅のはばたき』が専属を狙っていて隙あらば出し抜こうとしているのも、『炎の槍』が女性蔑視+無駄に高い自尊心を有していることにも代わりはないので衝突は避けられません。『深紅のはばたき』の場合は彼ら自身に頑張ってもらう他ないですし、『炎の槍』の場合は性格矯正するしかないので却下です。せめてランクの高いナストさんが冒険者の中で一番年上だったら、と仮定するのも意味がありません。それに、現状、任務上の遣り取りは一応しているので問題ないかと」
理屈を捏ね回しているが、結局結論はユウトと同じである。
「もし任務上で問題が起きそうだったら?」
「その時は片道だけは維持しつつ、帰りは依頼主の判断に委ねます。若い私達が出張るよりも角が立ちませんから」
「その結果下ろされてもいいのか?」
「彼らを御せないのは事実ですから。私、一度はフォローしようとしましたよ? 最初は物で釣って警戒を少しずつ解いて、段階的に良い空気に持って行こうとしようとしていたのに、その初手を台無しにされたんですから」
ナストは瞬時に理解した。ヒメカは怒っている。ユウトは知っていたのかとナストが振り返ると、肩を竦められた。どうやら知っていたようだ。向き直り、唇を突き出して拗ねるようなヒメカに、ナストは、これは無理だ、と諦めた。
(依頼主との関係が悪くない分マシだな)
その日も順調に進み、この調子ならばあと3日でアムニスに到着できる。
今日は夜営ではなく、途中の村に滞在するため、宿周辺の見回りが主な仕事である。会頭の部屋の前には商会が連れて来た護衛が立つことになっている。
「今日は最初に俺達が見回り、次が『深紅のはばたき』、最後に『炎の槍』だ」
「「了解」」
若干不安になる順番だが、事前に決めていたことだからと割り切る。宿の下見もして巡回ルートも決めたので、あとは『探知』を常時展開しながら交代時間まで見張るだけである。
そうしていると交代時間になったので、遅めの夕食にありつく。宿には話が通っているので、すぐに食べることが出来た。
「はー……魔法ってやっぱ凄ぇな」
さすがにここで風呂は用意出来なかったので『洗浄』で済ませ、部屋も少し埃っぽいからと綺麗にした。
「そうですね。旅をすると特に魔法が使えて良かった思います」
そう言いつつ、自分の寝床であるソファを快適に整えていくヒメカ。ベッドは2人分しかなく、部屋は一緒でいいがさすがにベッドまでは、と、公平にくじで決めようとしたが、ナストやユウトには小さいソファも、ヒメカにはあまり不都合がないからと。ユウトもナストも口でヒメカに敵わず、ありがたくベッドを使わせてもらうが、申し訳なさを感じさせないくらいにソファが整えられていた。
それもそのはず、姉弟の持つ寝具はやたら良い素材で作られているのだから。布は吟味して購入しているが、中の素材は自力調達しているのでわりと安く良い物が出来る。繕い物はヒメカが得意なので、作れるものは作ってまとめてマジックポーチに入れてある。
「姉さん、枕と掛け布団頂戴」
「はいはーい」
「ナストもほら」
ポイッとナストに投げて寄越すユウト。確かにこれを使うなら部屋の掃除をしないといけないな、と納得する。寝心地が最高だった。とはナストの言である。
翌朝、全員揃っての朝食を取ってから出立し、特筆するようなこともなく進み、2度目の夜営。今日の見回りの順番は『深紅のはばたき』→『炎の槍』→『ヴェルメリオ』である。
「さて、じゃあ交代まで寝るかー」
「ちょっと待ってください。ブラッディベアの反応が3つ、こちらに近づいてきます。まだ『深紅のはばたき』の索敵範囲の外ですが」
「!」
「ナスト、『深紅のはばたき』で対処できると思うか?」
「……1体ならともかく3体は無理だ」
自身達が異質な自覚がある姉弟はこういう判断にイマイチ自信がないのでナストの判断を仰ぐ。報告から冷静に判断するナストに、姉弟は頷いた。誰も慌てる様子はない。
「じゃあ俺が行ってくる。2人は先に寝てて」
「俺も行くぞ」
「いや、『深紅のはばたき』に気付かれずに片付けた方がいいと思う。俺なら気付かれずに1人で行って帰って来れる。ナストは姉さんを頼む」
「…………わかった」
「(別に私は平気だけど……)気を付けてね」
ヒメカは今から寝て回復するからと、若干過剰なほどに補助魔法をユウトにかけた。
「行ってくる」
そう言うや否や、そっとテントを抜け出したユウトは闇夜に紛れて魔物狩りに行った。
「さ、私達は寝ましょう」
「いや、一応ユウトが戻って来るまで起きておく。ヒメカさんは寝ててくれ」
「そういうことなら私も起きて待ちます。どうせすぐに戻ってくると思うので」
ヒメカの予言通り、ユウトはすぐに転移魔法で戻って来た。
「早っ」
「気付かれなかった?」
「たぶん」
「そう。じゃあ寝ましょうか」
その後は特に問題なく夜が更けて行った。




