43話 護衛依頼(2)
「ヒメカさん、そちらは非売品とのことでしたが、どちらで手に入れられたのですか?」
風呂上りのヒメカにそう声を掛けるのはハリソン。ハリソンもまた湯上りである。男性用の風呂もきちんと用意して真っ先に会頭を案内していたヒメカだった。護衛はさすがに男性に任せたが。
「申し訳ありませんが数がご用意できません。そのため出所は秘密にさせてください」
今までにも何度か聞かれたこともあり、ヒメカの返答もお決まりである。勿論NO。
何度か問答をするが、全て丁重にお断りしたからか、それ以上の追及はなかった。だが、大人しく引くわけでもない。
「ではせめて旅の間だけでも使わせていただくわけですからその分をお支払いたします」
(手元に残った物を研究するのかしら?)
ヒメカとしても手軽に自作以上の物が手に入れば嬉しい。しかし、自身の作っている方法では魔法と調合の知識、それに一部危険物もあるのでレシピを渡すわけにもいかない。
「……では1つ分だけ」
「いやいや。それでは皆が気安く使えません。ヒメカさんが手放せるギリギリをお支払しますぞ」
さも、遠慮はいりません。という体でぐいぐい交渉をするハリソン。
「……それもそうですね。ですがここで話していると湯冷めしてしまいますし、テントでお話いたしませんか?」
「おお! それもそうですな。では早速」
魔法を使えば一瞬で乾かすことも出来るが、もっともらしい理由をつけるのにもってこいの言い訳で場所を移すことにした。
「なあ、ヒメカさんって商売の才能もあるのか? というかお前はついて行かなくて良かったのか?」
「交渉事は姉さんの得意分野。王都とウルプスの物価はある程度把握してるから材料費に少し上乗せした位で落ち着くだろ」
そう言いつつ、自分達のテントへと入っていくユウト。消耗品の予備をいくつか作っておこうと器材の用意をする。
「何するんだ?」
「調合。ニオイはもれないようにするから先に寝ていてくれていい」
「お、おう」
ユウトは『防音』と『消臭』の魔法を展開し、黙々と計量を始める。その背中は職人のようで、邪魔をするのも憚られるので交代時間まで仮眠を取ることにしたナスト。結局、ナストが起きるまでユウトの調合は続いたのだった。
夜の見回り中。ナストはヒメカと一緒に行動し、ユウトは別行動で手分けしていた。基本的にナストの出番はなく、魔物が近づけばヒメカの魔法でサーチ&デストロイ。
「商談は上手くいったんですか?」
「商談?」
「依頼主と」
「ああ。上手くいくも何も、渡すことは問題ないので数と値段を相談しただけですよ。利益を出すつもりもないのでサクッと決まりましたしね。精々手間賃をいくらか乗せた程度です」
あくまで使う人が気にしないように場所を移動しただけなので、ヒメカはナストが寝てすぐにテントに戻って来ていた。商会側はあまりに低価格設定に驚いていたくらいだ。一応、値段設定の理由も伝えたので、互いに損がないこともあってヒメカの言う値段で決定した。ただし、次回がないことも釘を指しておいた。
「ユウトの言ってた通りだ……」
「? それよりナストさん。別に私に敬語を使わなくてもいいですよ。冒険者歴も年齢も下なわけですし」
喧嘩を売られても困るが、素直に疑問である。むしろユウトにするような気軽な対応の方がヒメカもありがたい。しかし、ナストの表情は曇る。何故なら、ヒメカに敬語を使うのはナストの意思ではないからだ。
(街の人やギルドの人にも失礼が無いようにって言われてるんだよな……)
ユウトはもう今更だからと砕けた口調で話しているが、ヒメカとはあまり直接接点がなかったために、現状に至る。
「……ナストさん、顔に出過ぎです。敬語の練習、くらい言ってもらえれば私もそれ以上ツッコみませんから……」
ナストの表情で大体を察したらしいヒメカは苦笑。ナストも小さな声で「悪い……」と返した。
「でも、いざという時はそういうの要りませんから」
「それは助かるけど……」
「それに私はあのユウトの姉ですよ?」
ナストが年上と判明しても微塵も態度は変わらなかったユウト。その姉なので口調くらい気にしない、というヒメカ。そんなヒメカの言にナストは納得した。
「見回り終了」
「眠い」
「私も寝ます。おやすみなさい」
「おー」
見回りを交代してテントに入ると即就寝。全員寝つきが良いので朝までぐっすりだった。
「おはようございます。早いですね、ハリソンさん」
「これはこれはヒメカさん。おはようございます」
「差し出がましいようですが、護衛もつけずに出歩くのは危険ですよ?」
「ははは。申し訳ない」
さりげなくヒューズの居場所を探すと、馬車の点検をしているようだった。
「ヒメカさんこそこんな朝早くに起きていかがされましたか?」
「私は朝食を作ろうかと思いまして。何かご希望はありますか?」
「おお! 昨日のスープも絶品でしたからな。おまかせした方がいい気がしますな」
「ふふふ。では私が決めさせていただきますね」
和やかな空気で別れると、ヒメカは手早く朝食を作り始めた。今日は簡単にサンドイッチ。ただし、中身は何種類か用意しておく。あとは、これにスープを作って終わりである。
しばらくして見張り以外の全員が揃ったところで朝食を食べる。昨日、ある程度良い空気になっていた冒険者達。ただし、その空気をぶち壊す人間というのはやはりいるのだった。
「……なんかあっち空気悪くないか?」
こそっとナストが姉弟に聞く。ナストが指す方向には、やたらと距離を開けて座る『深紅のはばたき』と『炎の槍』が。
夜の見回りはナスト達が間だったので、おそらく夜に何かあったというわけではないだろうが、やけにピリピリしている。特に女性陣。
「『炎の槍』の方々が余計な事を言ったからかと」
ナストとすればその余計な事が何か聞きたかったが、言葉を濁されて終わりだった。
(この空気どうにか出来ないか?)
(がんばれりーだー(棒読み))
関わる気ゼロのユウト。ナストもまた直感で下手に口を出してはいけないのを察しているが、またふりだしに戻された気分である。
(あーもう、好きにしてくれ!)




