42話 護衛依頼(1)
馬車に乗り込むヒメカを見送り、ユウトとナストは馬具の最終チェックをして乗る。
相変わらずセキトバはユウトに乗ってもらってご機嫌だし、スイは人を乗せていてもいなくてものほほんとしている。
「最終確認。俺達の配置は真ん中。側面からの急襲の対処と前後の伝令役が主になる」
「(コクリ)」
「馬車を挟む形になるから声を聞き逃さないように」
「(コクリ)」
「……お前もちゃんと声出せよ?」
「わかってる」
(本当かよ……)
若干不安が残るが、ユウトはやることはやるだろうと信じることにしたナスト。
「いざとなればヒメカさんが馬車から攻撃してくれるからいつでも扉を開けられるように位置注意な」
「ああ」
その他細々とした意思確認をし、馬車の右にユウト、左にナストで配置する。
他のパーティや商会が用意した護衛とは、全員揃った時点で一度確認したため、問題ない。ヒメカが依頼主の馬車に乗ると聞いて一瞬問題になりかけたが、ヒューズが説明をしたために騒ぎには発展しなかった。
(まあ、何気に一番良い配置になったけど)
探知の魔法は馬車の中だろうが外だろうが問題なく、馬車の上に乗ってもいいという許可まで取ったので、いざとなれば見晴らしのいい場所から遠距離魔法攻撃が放たれることだろう。ようは馬車の上に大砲が設置されているようなものだ。馬車を襲う魔物にしろ、盗賊にしろ、脅威になることは間違いない。
(ナストも何気に良い腕してるし、他のパーティが足を引っ張らなければ問題なく成功するだろう)
例え足を引っ張ったとしても、あまり問題ないと思っているユウト。
商会側が用意した護衛は全員腕が立つし、馬車の御者も護衛とそれなりに腕が立つ(ステータスチェック済)。他の2パーティが担当することになった前と後ろに、特に強い人が配置されていたが、それに気づいたのはヒメカとユウトだけだった。ナストも商会関係者が強いのは感じ取っていたので、ユウトはちらりと他の冒険者を確認するが、溜息を吐く結果だった、とだけ。とりあえず、馬車を捨てて逃げるということにはならなさそうだ。
(彼らに仕事をさせないことが仕事、だな)
ユウトは順に馬車が進むのを見ながら、自身もセキトバを走らせる。馬車に合わせるので速さはそこまでないが、速すぎたり遅すぎたりしないようペースを調整しつつ、セキトバに指示する。
(何事も経験)
油断はしないが気負い過ぎない。ユウト達の初護衛任務が始まった。
「……と、こんな感じでした」
「ほー……やはり英雄は伊達ではありませんね。ヒューズならばどうする?」
「会頭、私はただの近接職ですので彼らのような大規模戦闘は……」
「あら、でも、あの場にヒューズさんがいてくださったなら、もっと早く終わっていたかもしれません。弟も指揮官よりも一兵として好き勝手する方が得意ですから」
「そうなのですか?」
「はい。私もですが、どちらかといえば自ら戦線に飛び込むタイプなので」
馬車の中では例の湧きの話で盛り上がっていた。ヒメカは臨場感を出しながらも差支えのない範囲でその時の様子を話し、ハリソンが興味深そうにしながらヒューズに話を振る。ヒューズもまた、ハリソン程ではないが、元冒険者としてヒメカの話には興味があるようだった。
「ヒューズさんの冒険者時代のお話も是非お聞かせ願いたいです」
「おお! それはいい! ヒューズは私が冒険者に興味を持たないようにとなかなか冒険者時代の事を話してくれないのだ。最近ようやくその手の話をしてくれるようになった」
「先代に申し付けられておりましたので」
「父め……!」
拗ねたように顔を歪めるハリソン。しかし、すぐに興味はヒューズに向く。
「で、ヒューズは昔どんな大冒険をしたんだ?」
「ヒメカ殿の話を聞いた後に話すのはいささか恐縮ですが、そうですね……」
一方その頃、護衛組は邪魔になる魔物を退けながらも問題なく道程を駆ける。天気も晴れていて、道も乾いているので問題ない。
ユウトとナストは本当に馬を走らせるだけの任務である。
(今日は平和そう……)
ユウトも探知魔法は使えるので展開しているが、主だった反応はない。2パーティの様子も確認するが、少なくともCランクになるだけあって魔物を馬車に近寄らせていない。
(姉さんは楽しそうだからいいとして、ナストも問題ないし、セキトバはご機嫌だし今日は大丈夫だな)
ユウトの予想通り、一日目の道程は問題なく終わった。夜の監視は初めてだったが、魔物避けの香を焚いているためか、そうそう近寄ってくるものもなかった。
「なあ、めっちゃ睨まれてるんだが」
「姉さんが依頼主に気に入られたからな。日中もそうだけど、食事も。まあ、でも大丈夫だろ」
初日の食事は黒パンと乾燥肉が用意されていたが、主婦力(女子力ではない)を遺憾なく発揮したヒメカは、それだけでは寂しいだろうと、ささっとおいしいスープを用意した。
すでに胃袋を掴まれているナストは確信する。一口でも口に含めば陥落する、と。
ナストの予想通り、商会の人間と、男共は陥落、ないし、軟化した。面白くなかったのは女性陣である。
「なによ。この位私だって作れるわよ」
「女は料理だけじゃないです」
ふてくされるキャトラとヴィヴィに、ボスウェルとジェムは宥めようとするが収まりそうにない。
「ヒメカさん、大丈夫なんですか?」
「何がですか?」
「いや……アレですよアレ」
体で隠すようにしながらもキャトラとヴィヴィを指差すナスト。それを見てヒメカは「ああ」と暢気な声。
「大丈夫ですよ。というわけでちょっと行ってきます」
どこに、と聞く前にヒメカは女性陣の方へ。慌てるのはナストとボスウェルとジェム。これ以上事を荒立てないでくれ、と顔に書いてある。
「お風呂の用意が出来たのでいかがですか?」
「「お風呂?」」
「はい。ゆったり浸かれる浴槽もご用意しました。洗髪用洗剤と髪のお手入れ用の薬剤、香りの良い石鹸もあります。私が使っている物で良ければ化粧水や乳液も」
近づいてきた時は明らかに敵意。しかし、それが暴言になる前にヒメカが口を開き、お風呂で少し軟化、シャンプーとトリートメントに興味を持ち、香りの良い石鹸で目を輝かせた。後は簡単で、すぐにでも風呂に入る、とヒメカが入浴スペースに案内した。
「ヒメカさん凄ぇ……」
女性の美への執着は、まだナストには分からなかった。
女性陣が入浴を終えて戻ってくると、その顔はすっかり晴れやかになっていた。
「このトリートメントっていうの凄いわね! 髪がさらさらになったわ!」
「化粧水と乳液も!」
「「それに石鹸!」」
「凄く良い香り!」
「汚れもすっきり落ちるし凄いわ!」
「気に入って貰えてよかったです」
興奮気味にまくしたてるキャトラとヴィヴィに、ヒメカは微笑みを浮かべている。
「ねえ、これどこで買えるのかしら? 是非欲しいわ」
「残念ながら非売品なんです。自分達で調合しているので数がなくて」
「え~」
「でも護衛依頼の間は存分に使っていただいて結構ですよ」
「「やったー!」」
魔物を呼び寄せない程度に、けれど最大の幸福を表現するように喜ぶ女性陣。ナストはその様子を見てもう一度思った。ヒメカさん凄ぇ、と。
「この場合、姉さんというより美容用品効果だけど」
「なんだそりゃ」
「女性は女性ってこと」
「???」
その内分かる。と意味深な言葉を残すユウト。ナストは結局分からなかったようだが、『深紅のはばたき』の2人は物凄く頷いていたので、この世界でもそうなのだと確認できたユウトだった。




