41話 依頼主は冒険者好きでした。
翌朝。ナストは姉弟が泊まる宿に合流し、馬を引き連れて集合場所へと向かった。
「結局夜の見回りは免除されなかったけど大丈夫か?」
「3交代制なので大丈夫ですよ。マナポーションも多めに用意しましたし、アムニスに着けば2日はゆっくり出来るので問題ありません」
すべてパーティ毎に、ということになってしまったため、広範囲の索敵が可能なヒメカも参加せざるを得なくなってしまった。さすがに2人で7台の馬車と同行者達を護衛するのはキツイ。他のパーティ、特に魔法士のいない『炎の槍』が大丈夫なのか心配なところだ。
「『炎の槍』が担当の時間も索敵魔法は発動させておきますから安心してください。悠も気配には敏感な方ですし、何とかなりますよ」
「いや、それだと2人がほとんど眠れないことになるんだけど……」
魔法が精密なコントロールを要するのは魔法を使えない者でも知っている。特に、ウルプス出身の冒険者は、ギルドマスターの影響で魔法士にそれなりに詳しくなってしまうのだ。ギルドマスターは連日徹夜で魔法の研究に勤しみ、結果を試そうとしてギルドの訓練場を何度か壊したことがあるのは街出身の冒険者ならば知らない者はいない。勿論、修理費は自腹である。
「索敵魔法を発動しながら眠る事は可能」
「少しコツはいるけれど、慣れれば平気ですよ」
「その言い分だとユウトも出来るのか……?」
「勿論」
護衛される側だった時に試しておいた。と事もなげにのたまう姉弟。ナストはこの姉弟ならば可能なのだろうと納得し、自身が大分毒されてきたことに気付いて頭を抱えた。傍から見れば百面相しているようにしか見えない。
「いいから行くぞ」
呆れたような声でナストを促すユウト。ナストは解せぬといいたげな顔をするが、それに取り合う2人ではなかった。
「あらぁ、ダメですよ? こんなに遅く来るなんて」
「なんだその荷物のなさは。よもやアムニスまでの距離を知らないというわけではないだろうな」
集合場所に一番に来ていたのは『深紅のはばたき』。外見にも気を遣っている女性が2人いるせいか、荷物は多めである。明らかに必要のない荷物も混ざっているだろう量にナストは呆れる。昨日の言い争いの際にも言われていたにも関わらずコレとは頭が痛い。
(お前らは多過ぎだろ……)
ナスト達の荷物の少なさはマジックポーチに入れているから。日帰り気分で来たわけではない。さらに言えば、荷物を収納できる魔道具を持っている冒険者はいないわけではない。稼ぎの良いCランクならば、運が良ければ持てないことはない。
(何よりこいつらだしな)
「おい! 聞いてんのか!?」
「あ゛!? ……っと、悪い」
つい昔の癖で威圧してしまったナストは、すぐに引っこめる。人より短気な性格は直さなければと思うが、この場合は話を長引かせなくて済んだので良しとしよう、と、自分で自分を納得させた。ナストも昨日の一件で若干相手にするのが面倒になっている。
(あ、思い出したら腹が立ってきた……)
「俺達の荷物は気にしなくていい。商会が用意してくれる馬車は好きにしてくれ」
「わ、分かった……」
先輩風を吹かせたかったのだろうが、ナストの睨みに気圧されて声が小さくなっている。ナストも、それ以上何を言うでもなかったので(いつの間にか)離れていたユウトとヒメカの方へと近づいて行った。
「あ、そっちの話は終わった?」
「出発前に一度話をしたいそうです。先程ヒューズさんが呼びに来ました」
「すぐ向かう」
「いやぁ! まさか街の英雄殿3人に護衛をしていただけるとは光栄ですな!」
昨日の、笑顔ながらも淡々とした様子とは打って変わり、全身で歓迎する意を示すポリティス商会の会頭。その変貌にビックリするのはナストだけである。
「昨日は失礼な態度を取ってしまって申し訳ない。言い訳をさせてもらえるならば、あの場で1つのパーティに肩入れするのはいささか不味いかと思いましてな」
「今ならば護衛の配置などの話を聞かせてもらう、という言い訳も立ちますからお声かけさせていただきました」
どうやら『深紅のはばたき』も到着したばかりで報告をしていなかったらしい。そのことに呆れながらも、3人は昨日決まったことを伝えた。
「ふむ。やはりそうなりましたか」
ヒューズには御見通しだったようで、あっさり了承された。
「いいんですか?」
「はい。商会にも何人か雇いの者がいますので。それに英雄殿が3人もついていただけるのです。過剰戦力というものですよ」
「…………」
唖然とするナスト。しかし、その後ろに立つ姉弟はさらに言葉の続きを待つようにしてヒューズを見ている。
「……参りましたな。どうやらそちらのお二方には御見通しだったようだ」
しばし見つめ合いが続いたが、ヒューズはさほど置かずにあっさり折れた。元々、そこまで引き延ばすつもりはなかったようだ。ただ、流れについていけてない者も1人。
「え? え? どういうことだ?」
「ポリティス商会は冒険者を雇わなくても充分な戦力を持っている、ということです」
「ナストはもう少し腹芸が出来るようになっておいた方がいいぞ」
「そうですね。老婆心ながら、もっと上に上がりたいならばこの位は出来た方がいいかと」
親切心からの言葉がナストに刺さる。良く言えば素直、悪く言えば単純バカと呼ばれるナストのもっとも苦手なものである。よくこれで世間を渡って来られたものだと感心すらするが、おそらくミランダや先輩冒険者達のおかげだろう。
「それはそうと、やはりヒューズ様は冒険者でしたか」
「元、ですが。40代で引退してすぐに先代に拾われましてそれからはポリティス商会に骨を埋めるつもりで頑張らせていただいております。それと私のことはヒューズで構いません。ヒメカ様こそ、魔法士で在りながらもなかなかの武人で在らせられるようで」
「私こそ様付けは必要ありません。それにしても、武芸に関して気取られるとは思いませんでした。大抵の方は実際に目にするまで信用されないのですが……」
「経験故でしょうか。それに私も細身なので現役時代はよく斥候に間違われたものです」
「ヒューズ、私にも彼らと話をさせて欲しいのだが」
外見で侮られる同盟が結ばれそうになるのを止めたのは依頼主のハリソンだった。彼は純粋に英雄にあこがれる少年のような瞳でソワソワと待っていたのだが、まさかヒューズに先手を取られるとは。
「失礼しました。ですが、陣形の確認は言い訳の為にも必要な事かと」
「それは分かっておる。それよりも英雄殿、ぜひとも当事者から話を聞きたいのだが」
「ポリティス様は冒険者に憧れるあまり、家に内緒で冒険者登録をされたこともあるのです」
「すぐ連れ戻されたがな」
「当たり前です」
「とまあ、こんな感じなので冒険者は諦めたのだ。ヒューズの目をかいくぐれるほどの腕もないしな」
「ははは……」
それはほとんどの人が難しいのでは、と思ったが言わないでおいたヒメカ。
「そういうわけなので冒険者の話はいくらでも聞きたいのだよ」
「よろしければ御一人だけでも我々の馬車に乗って会頭にお付き合いいただけませんか?」
「おお! それはいい! いかがかな?」
すっかり乗り気の会頭に、3人はどうしようかと目配せする。
(この場合誰が適任なんだ?)
(俺は無理。姉さんかナスト頼んだ)
(俺もちょっと……)
おそらくあの湧きで一番状況を把握出来ていたのはヒメカだろう。ユウトも指示を出していただけに状況把握は出来ていただろうが、あまり口が上手くない。結果、ヒメカが同乗することになった。
「では僭越ながら私が同乗させていただきますがよろしいでしょうか?」
「勿論だとも! なんだったら私の我侭だと通してくれても構わんぞ!」
「会頭、またそのような……」
「事実なのだから構わんだろう。まあ色ボケジジイの悪評で英雄の話が聞けるのだから安いものだ」
「はぁ……」
ハリソンの言動に溜息を吐くヒューズだが、反対することはなく、そのままヒメカが話し相手を務めることに決定した。




