37話 再び第二の都市ウルブスへ。
翌日、朝一度温泉へ入り、昼間は町を観光、そして夜にまた温泉へ入るとあっという間に一日が過ぎてしまった。
「やっぱり温泉はいいわ~」
「温泉まではいかなくとも風呂は必須」
「毎回家を借りるわけにもいかないし、そもそも元貴族の家ぐらいしかお風呂がないし」
「魔法で解決できる分、野宿の方が良い生活してる。宿は場所がない」
「知ってる? 生活魔法を使えない冒険者は1週間以上水浴びすらできないこともザラにあるらしいわよ。そうなると水も貴重だから清拭すら出来ない日々。洗濯も出来ない、体も拭けない」
「それ以上聞きたくないんだけど……」
怪談でも聞いているかのように顔を青くするユウト。ちなみに、そういう理由で宿泊を断られる冒険者もいる。
「……出張風呂屋とかすれば儲けられそうね」
「(そっちにいくか)まあ、儲けられるだろうけど。というか、馬車の旅の間やってたし。お金は取ってないけど」
「自分達だけお風呂に入るわけにはね。それに旅は道連れっていうじゃない」
「石鹸を売ってくれっていう人もいたな」
自分達の分のみの生産のためお断りさせてもらった。
「まあ、それは良いわ。それよりも次はどこへ行くかよ」
「明日出発しないといけないしな。ウルブス(第二の都市)で言ってた港とダンジョンは? アムニスとロウラだっけ」
「ロウラはここから南下した場所にあるわ。アムニスはウルブスを挟んだ反対側。まあ、どちらに行くにせよ一度ウルブスに戻った方が道は整っているけれど」
乗馬初級者の2人なので、道は出来るだけ整備された方がいい。となると、ウルブスに戻るのが最良だろう。
「じゃあ魔法でさくっと戻る?」
「そうね」
「その後はウルブスに着いてから考えたんでいいんじゃないか? どうせ何泊かはするだろ?」
「……それもそうね。ついでに依頼もいくつかやりましょう。馬車の旅で結構日数が経っているし」
あまり意見の食い違いがない姉弟なため、行動方針は「○○しよう」「OK」で済んでしまう。
馬車の旅と借家引き篭もりと温泉で忘れそうになっているが、一応、職業:冒険者である。資金にはまだ余裕があるが、勘が鈍らない程度には仕事をしておいた方がいいだろうという結論に落ち着き、明日は朝一で温泉に入ってから出発することになった。
「じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
翌日。朝風呂を終えた2人は相変わらず身軽な格好でセキトバとスイに跨り、温泉街を出発した。
いきなり『地点移動』で飛ぶのは衆目があるので、ひと気のない場所まで少し走らせてからウルブスの近くに転移する。セキトバは初めての体験に少し驚いていたがすぐに落ち着き、スイは全く問題なかった。
そのままヒメカ&スイの先導でウルブスに到着した。
「さて。まずは宿ね」
「湧きの季節は外れたし、今度は大丈夫だろう」
「厩とキッチンがある宿はこっちよ」
しれっと自分の希望を盛り込んだヒメカ。だが、ユウトも調合でキッチンを使うことがあるので反対する理由はなかった。キッチンがあるということはニオイ対策もしていることが多いのでむしろ利点の方が多い。
宿は問題なく宿泊できたので、2人はまず冒険者ギルドへ。所在地を知らせる意味もある。
「こんにちは」
「あら、ヒメカさん、ユウトさん。お久しぶりです」
街を出る時に挨拶をしていたので、こんなに早く戻ってくるとは思っていなかった受付嬢は驚いているが、どこか嬉しそうでもある。
「ヴィーゼで馬を手に入れたので戻って来たんです」
「なるほど。たしかにヴィーゼの馬は有名ですからね」
「はい。凄くいい子達で嬉しい限りです。ところで最近の依頼はどうですか?」
適度に世間話を挟み、最近の依頼に関して聞いてみると、受付嬢は苦笑いしながら「湧き程ではありませんが相変わらず街中の依頼が滞っています」と答える。
「また何日間かはここに留まるつもりなので適当に引き受けますね」
「助かります」
「じゃあ、また」
「はい。いつでもお待ちしております」
社交辞令じゃなく本当に待っているだろう受付嬢に苦笑しつつも、依頼ボードの方へと向かった。今回はユウトも街中の依頼を受けようかと話しているところで、ナストが話しかけてきた。
「ユウト!」
「ナスト。相変わらず元気だな」
「そっちこそ相変わらずクールなことで。いつこっちに戻って来たんだ?」
「今さっき」
出会ったばかりの頃は考えられない程仲良くなったものである。
「ちょうどいいや。なあ、こっちにいる間だけでもパーティ組まねえ?」
「リックさん達は?」
「あー……Aランク試験に落ちたから一度ダンジョンで修行してくるってさ。たぶん何か月かは戻って来ないだろ」
「もしかして全員……?」
「……Aランクの壁は厚いみたいだな」
この街の英雄とはいえ、試験は試験。見事に砕け散ったらしい。ユウト達はナストの結果が出た後すぐに出発したので知らなかった。
とはいえユウト達はAランクに上がる気がさらさらないので完全に他人事であるが。
「で、返答は?」
「俺達、街中の依頼中心で討伐は腕が鈍らない程度にしかしない予定」
「マジか……護衛依頼があったからどうかと思ったんだけど……」
「「護衛依頼?」」
会話に入らずに眺めているだけだったヒメカまでもが反応する。そろそろ護衛の経験を積んでもいいかと思ったのだ。
「お、おう。お前ら護衛依頼したことないっていってただろ? 俺は何度かあるけど今ソロだし一緒にどうかと思って。出発は3日後で行先はアムニス」
「「アムニス」」
さらに興味を持った姉弟は二つ返事で臨時パーティを組むことにした。
「ちなみにお前らパーティ名は?」
「一応『メラン』で登録してる」
「ソロ活動が多いし、個人名でしか呼ばれないですけど」
「というか、俺達も忘れそうになるしな」
パーティ名を決める時に面倒になったため、適当につけたパーティ名。最初は分かり易く『黒』だったのだが、担当した受付嬢が微妙な顔をしたのでギリシャ語にしただけである。意味は通じていないだろうが、「音が綺麗ですね、ではそれで登録しますね」ということでそれになった。
「じゃあ臨時パーティもそれでいくか」
「いいのか? この3人ならナストがリーダーになるだろ?」
「唯一のBランクだし、護衛依頼ならなおさらランクが高い人がリーダーの方がいいでしょう?」
「あー……じゃあどうすっか」
ナストも名付けは苦手らしく、困ったように頭を掻く。
「ヴェルメリオとか?」
「じゃあそれで」
自分達の時同様、ナストの髪色から。赤を意味するポルトガル語だ。ヒメカが提案すると即決で決まった。
「早速パーティ登録しようぜ」
サクサクっとパーティ登録して護衛依頼を受けた。他に2パーティ参加するとのことで、前日に顔合わせがあると説明された。顔合わせの時間を確認し、ギルドのテーブルへ移動し、ナストに護衛任務についてある程度レクチャーを受けた。
「まあ、あとは臨機応変にってところだな。2人とも状況判断は的確だし、魔法も使えるから大分楽だろ」
「初任務なのに……」
ナストは湧きの時の様子を加味して簡単そうに言う。愚痴を言いつつも異論はない様子のヒメカ。
「その分夜営は優遇されるらしいから。ちなみに俺は剣士扱い? 魔法士扱い?」
「攻撃魔法は?」
「出来なくはないけど実戦で使ったことはほぼない」
「じゃあ、剣士ってことで。つーか、3人中魔法士2人って豪華すぎるだろ。しかも剣まで使えて剣士か魔法士か選ぶとか贅沢な悩みだよ。生活魔法が使えるだけでも充分恵まれてるのに」
付与魔法が使えるのは知っているため、戦力確認。冒険者歴3年で臨時パーティをよく組むだけあってこういうことはスムーズだ。
他にもいくらか打ち合わせをして解散した。明日からの街中依頼も、パーティ内交流目的で一緒にすることに。それを聞いたギルド側は表面上取り繕いながらも大喜びだった。




