38話 街中依頼≒情報収集です。
「なーこれ、俺達いらないだろ!?」
「黙って手を動かせ」
「いやいや! お前のねーちゃんやってないじゃん!」
街中依頼の草むしり中。ナストとユウトが草を抜いているが、ヒメカは何故か家事をしていた。
「姉さんが言ってただろ。ご婦人が足を悪くしてるから代わりにやる、って。どうせ依頼時間内は作業しないといけないんだから。それともナストが家事をするか?」
「それは嫌だけど……」
ヒメカ1人の時ならば、魔法でさっさと草むしりを終えて家事をするだろうことは黙っておいたユウト。
「それに安心しろ。草むしりが終わったら美味しい物が食べられる」
依頼主に、昼食を作る代わりに自分達の昼食も一緒に作っていいか交渉していたのを知っているユウトは、愚痴るナストを宥める。ナストもBランク昇級祝いでヒメカの料理を食べたことがあるのでそれ以上は黙った。
昼食を食べ終え、午後はパン屋の店番に、食堂の給仕と下働き、雑貨屋の店番をこなした。
「つ……疲れた……」
一つ一つは大したことがないが、慣れない仕事に一日中従事して、精神的に疲労したナストはギルドのテーブルに突っ伏した。
「欲しい情報は得られた?」
「まあね」
ユウトが問うと、ヒメカは頷いた。ナストは顔だけ上げて傍聴の姿勢を取る。
「情報って?」
「午後の依頼は全てポリティス商店から買い付けをしているお店です」
「つまり?」
「……護衛依頼の依頼人は?」
「ポリティス……ああ!」
やっと気づいたか、と呆れ顔のユウト。
「それより、よく取引先を知ってたな」
「働いている時に何度か商会の名前を聞いたことがあったのよ。魚介類のほとんどはポリティス商会が仕入れているらしいわよ。アムニスまでの距離を考えると、時間停止機能付きの魔道具か、氷魔法が使えるお抱え魔法士がいるんじゃないかしら」
街中依頼をこなしていたからこそ知ることのできる情報である。
ポリティス商会自体の評判としては、可もなく不可もなく。それなりに大きな商店なので、多少の薄暗い部分はあれど、問題はなさそうだというのがヒメカの見解だ。
「おまえのねーちゃん怖いな……」
「敵に回さなきゃ害はない」
身内には甘いため、余程バカなことをしない限り安全圏が約束されているユウトは余裕の表情である。
「やっぱお前も怖いわ」
「何でだよ」
敵に回した時の予想までしながらも全幅の信頼を寄せるユウトにドン引きである。たとえ身内だろうが裏切られるのがこの世界。特に、孤児院育ちで見たくないものまで見てきたナストにとっては、ユウトもまた異端に感じてしまう。世間離れしているといえばそれまでだが、そこまで甘くもない。感情で繋がっているというよりは実利で繋がっていると感じてしまった。
(この2人だけは敵に回さないようにしよう……)
実際の姉弟がどうかは別にして、ナストは心の底からそう決めた瞬間だった。
「明日はどうする? 顔合わせは夕方だけど」
「そうですね……顔合わせ前に、ある程度道具を揃えておきたいです」
「旅道具はあるけど護衛で必要な物って何があるんだ?」
「予備の武器は絶対だな。出来れば防具の予備も。ポーション系はいつもより多めに持っておいた方が良い。馬を連れて行くならそれ関係は全部自分で用意するつもりの方が良いな。これは依頼主によるけど」
「武器の予備はあるけど防具がないな。ポーションは問題ないが材料はいくらか買っておくか」
「防具は既製品を買っておく?」
「それしかないだろ」
マジックポーチがあるので持ち物は多くなっても問題ない。
「あとはセキトバとスイにナストを紹介だな。馬には乗れるか?」
「乗れるけど……」
「じゃあ明日スイに乗ってみてください。私と悠は乗るとしたらセキトバに乗るので」
ほぼ素人の自分達が乗れるからとまったく心配していない2人は、まだセキトバが気難しい馬とは知らなかった。
翌日、防具屋で防具を新調する姉弟。今日もナスト同伴である。
「姉さん、ナスト、俺の方は調整に時間がかかるから先にセキトバ達と外を走って来てくれ」
「了解。ナストさん、行きましょう」
魔法士であるヒメカはローブを新調したくらいでサイズ合わせは必要なかったが、ユウトはこの際ハーフ・アーマーをということで調整に時間がかかるようだ。
ユウトを店に置いて、宿へと戻り、馬具の調整を済ませてからセキトバとスイを引き連れて街の外へ行く。
「ナストさん、どうですか?」
ご機嫌に走るセキトバの上から少し後ろを走るスイに乗っているナストに声を掛ける。
「こいつなら大丈夫そうだ」
そういってスイを操るナスト。スイも、苦も無く走っているので相性も悪くないようだ。
ナストが若干苦笑気味なのは、ほんの少し前、一度セキトバにも乗ってみようとして振り落とされたからだ。ナストが上手く受け身を取ったので怪我こそしていないが、まさかあんなにも暴れるとは。ヒメカが手綱を引くとすぐに落ち着いたため、相性が悪かったのかな? と首を傾げた。違う馬にも乗ったことがあるナストだけは、セキトバが相当気難しい馬なことに気付いたが、セキトバの威圧に口を噤んだ。
「ではもう少し走ってから戻りましょうか」




