33話 次に向かうのは……
無事Cランクに上がった姉弟は、適度に依頼をこなしつつ、途中、ギルド長に捕まったりナストの昇格祝いをしたりしながら出立の準備を始めていた。
「湧きも経験出来たし、ポーションの安定生産も出来るようになったし、人脈もそれなりに作れたし。次は港町のアムニスへ行くか、ロウラでダンジョンに潜るか、ヴィーゼで馬を調達するのもいいかしら?」
「馬か……でも世話の仕方とか知らないしな」
「ヴィーゼで聞けばいいじゃない。それに、移動中はともかく宿に泊まれば世話を頼めるから」
「まあたしかに徒歩での移動は目立つしな……一度ヴィーゼに行ってみようか」
「決定ね」
カリカリと手元の紙に羽ペンで文字を綴るヒメカ。王都への手紙である。ギルドに依頼すればわざわざ王都まで転移せずとも手紙のやりとりは出来る。前回は王都に用があったために手渡しだったが、基本的にはギルド経由で、ということにしていた。
「ヴィーゼは王都とは逆なの?」
「王都からの距離で言えばこことあまりかわらないわ」
「なるほど。じゃあ、また馬車で移動か」
「そうね。途中、いくつか町や村を経由するルートで行こうと思うけど大丈夫?」
「直通もあるのか?」
「あるわよ。でもせっかくの旅だし、地点登録もしちゃえばいつでも行き来できるし」
ちゃっかり途中の町や村の情報も手に入れているらしく、観光情報も豊富だった。立ち寄る気満々である。
(大きな街もいいけど、小さな町や村でゆったりするのもいいよなぁ)
出来れば風呂があれば最高だ、とユウトは思う。この世界の風呂は貴族くらいなもので、宿暮らしの2人は井戸で水を汲んで行水するか、魔法で綺麗にするか位しか出来なかった。
「温泉はないの?」
「ヴィーゼから少し先に行けばあるらしい」
「行こう」
即決である。風呂は偉大だ。
新作魔法陣でポーションの補充を終えると、王都と同様、この街でも世話になった人に挨拶をして出発した。
ガタガタと馬車に揺られながら進むこと3日。一つ町を飛ばして目的の村に到着した。運賃は前払い制のため、馬車を下りると、すぐさま宿屋を探す。
「兄ちゃんたち、宿を探してんのか?」
ふらっと歩いていると、地元民らしき少年が声を掛けてきた。
「そうだけど」
「じゃあこっち」
案内されるままついていくと、一件の建物。多少古さはあるものの、宿の看板が出ていた。
「ん」
手を突き出す少年に銅貨を握らせると、少年は満足そうにそれを握ってどこかへ駆けて行った。
「すみません」
「あらお客さん? 珍しいわね。こんなとこに来るなんて」
「この近くに精霊の泉と呼ばれる綺麗な泉があると聞きまして。2泊お願いしていいですか?」
「1部屋でいいかしら?」
「はい」
聞くところによると、2人組の冒険者はたとえ性別が違っていも1部屋に泊まる事が多いらしい。普段命を預けている相方は信頼に足るというのもあるが、一番はやはり治安の問題だろう。よくよく注意するようにと色んな冒険者に言われた2人は、これからも一緒の部屋を取ることに決めたのだった。
宿の娘に部屋へと案内される。やはり、今まで泊まっていた宿よりランクは落ちるが、これはこれで冒険者らしくていい、と前向きな姉弟。
「食事はないから3軒先の酒場で食べてね」
「わかりました」
鍵を渡され、あっさりと去る従業員。こんなものかとベッドに座ると、少し埃っぽかった。
「……『洗浄』」
いかに今までの宿が上等だったのかを知り、2泊にしたのを少しだけ後悔したのだった。馬車の関係で仕方がないので諦めるしかないのだが。
夕方、教えてもらった酒場に出向くと、なかなかに賑わっていた。
「おや? あんたら旅人かい?」
「旅人といえば旅人ですかね。一応、冒険者です」
「冒険者!? ……見えねえな」
「良く言われます」
訪れる人が少ないせいか、好奇心で話しかける村人は多かった。よほど娯楽がないのだろうか。ヒメカは適度に相槌を打ちながら、この村の情報を聞き出していた。
2人が宿へ戻ったのは夜が更けてしばらくした後だった。
「姉さんが王都や街で酒を大量に購入していた理由が分かったよ」
「ここはまだマシな方だけど、田舎になればなるほど手に入りにくい物は多いから」
この世界では飲酒に関する法はないので購入はたやすい。飲むとなれば、自分で稼げるようになってから、というのが多いので、大体15~6歳から飲み始める人が多いだろうか。
ヒメカは全く飲まないため、何故そんなにも購入しているのかとユウトが不思議に思うのも無理はないだろう。
「お店にもいくつか譲ってたけど大丈夫なのか?」
「問題になる程じゃないから大丈夫よ。定期的に商売をしに来るわけでもないし、路銀が尽きて手持ちの酒を売る冒険者もいるから商人に睨まれることはないわ」
「それならいいけど」
翌日は、その方が綺麗そう、という理由で早朝に泉へ向かうことになったため、手早く『洗浄』で臭いや汚れを落とし、すぐに就寝した。




