34話 好奇心には勝てませんでした。
朝露に光が反射してキラキラと輝く様は目に潤いをもたらし、豊かな木々の香りと鳥のさえずりが柔らかく五感を刺激する。
「やはり朝に来て正解だったわね」
「そうだな」
普段ならば、森といえば狩りと答える2人だが、風情を感じる心も持ち合わせているようだ。
しばらく森を進むと、噂の泉が姿を見せた。森の中に佇む泉というだけで美しく、そこに朝という時間による変化がプラスされて絵画の中の光景のようだ。妖精の泉と言われるのも納得である。
「光と水の魔素?」
「あら、属性も分かるようになったの?」
魔力感知が出来るようになって以来、ユウトの感覚はどんどん鋭敏になっていった。何となく感じられる、くらいだったものが、今や意識すれば視認できるほどになった。そして視認できるようになると、偶にそれらに色がついていることに気付く。
「淡く色が見えるから。それにしてもここは色付きが多いな」
属性を含んだ魔素を「色付き」、と、ヒメカが呼んでいたのでユウトもそれにならって使っている。初め、何のことか分からなかったが、ユウトも見えるようになって成程と思った。
「光の魔素が濃い場所は魔物が寄ってこないから野生動物も多いわね」
対岸には、水を飲みに来た鹿や鳥の姿。泉は透明度が高く、魚の姿も見える。
「姉さん」
「そうね」
コクリと頷き合う姉弟。
「「採取しよう」」
「水袋、もっと買っておけば良かった」
「凍らせてポーチに入れておけばいいじゃない」
「それいいな。じゃあもう少しだけ」
「こっちはキノコも木の実も薬草類も大量よ。いくらか残して光魔法で成長促進させておいたわ」
「……よし。こっちも色々採取出来たし、そろそろ村に戻ろうか」
「そうね」
動物も狩ろうかと考えたが、この場所を血で汚すのも憚られたのでやめておいた。
2人が採取を終えて村へ戻ると、すでに村人達は畑仕事に精を出していた。それを横目に宿へ戻り、それぞれ、採取した物を見せ合う。
「この水自体、魔素が豊富ね。料理に使ったらもっと美味しくなりそう」
差はあれどすべての人が魔力を持っているせいか、魔素を含んだ食材を美味しく感じるようで、野生動物よりも魔物の肉の方が人気があるのだ。それは異世界からきた2人も同じらしく、ヒメカは泉の水をコップに注いで観察したり、飲んでみたりしてみる。
「レア素材がこんなに……姉さん、調合用にいくらか使っていい?」
「どうぞー」
ユウトはユウトで調合にも使えるレア素材に夢中である。食用の物をある程度残しておけばヒメカは基本何も言わない。
ユウトは手持ちの素材を確認しながら、今すぐ調合出来るレシピを思い浮かべながら、手早く機材を用意する。
(悠は『消臭』さえしておけば部屋で出来ていいなぁ……移動式のキッチンってないのかな?)
野営の時の様に外で釜戸を作ってもいいが、そこまでして、と思ったヒメカはとりあえず思いついた料理のレシピを書き出すにとどめた。
一度始めると集中は途切れることなく、いつの間にか一日が過ぎたのだった。
翌日、時間に間に合うように宿を出て馬車へ乗り込む。
また数日馬車の旅になるのだが、途中、立ち寄る予定だった場所はスルーしてヴィーゼまで行くことに決めた。途中、馬車が止まった時に地点登録だけしておいて、また後日ということにしたのだ。
それよりも2人は早くヴィーゼで馬を探しつつ、調べものや研究をしたくなっていた。なので、家を借りてそれぞれやりたいことに没頭しようという話を昨夜したのだった。
ヴィーゼへの道中は特筆することはなく、順調に到着。居ても立っても居られない2人は早速商業ギルドで貸家を探し、何軒か見て家を決定した。
「念願のキッチン……!」
「やっと落ち着いて研究が出来る」
「私も。家事をしないといけないけど、やっぱりキッチンがないとね」
「すっかり料理好きキャラに……」
「別に料理に限ったことじゃないけど、知らない物や事は楽しい。でも家事はそこまで好きじゃないから分担ね」
「了解」
どちらも知的好奇心旺盛なため、家事は分担しながらも、家に籠る日々を送った。




