1鬱
人とは地球上の生物で唯一自分自身で死を起こす生き物だと、どこかの偉い学者は言っていた。
人間の寿命は年々長くなっている傾向にあり、人生生きている内壁にぶつかったりするなんて事は多々あるだろう。
壁を越えようと登っては谷底へと落とされる。
俺は今、人生正にそんな所にぶち当たってんじゃないかと思う。
身内の不幸から始め職場での虐め。彼女には先月愛想を尽かされた。
この世は生き地獄とはよく言ったもんだ。
そんな俺は今、鉄橋の上にいる。
ここから飛び降りてしまえば楽になるんじゃないか、若しくは良くある漫画やゲームの様に異世界へとトリップ出来るのではないか。そんな非、現実を想像してしまう程に、精神は摩耗しきっていたのだと思う。
大丈夫。痛いのなんてきっと一瞬に決まっている。
俺は橋桁に足を掛けた。
「あああああ危ないですよおぉぉぉ!!」
ムギュッと胴体に回る手と背中に感じた柔らかさ。
俺は一人の女の子に抱き留められていた。
俺は何処かで頭でも打ったのだろうか。今目の前にいる女の子は、先程まで語っていた非、現実そのものの容姿なのだ。
「コスプレ?」
「第一声がそれですかヒドイ!!」
実際にそうとしか見えない。例えるならそう、皆大好きネズミーランドのキャラクター達のようなのだ。
俺の一言に間髪ツッコミを入れた女の子は一つ咳払いをした。
「まだまだ若いというのに、命を粗末にしようなどとあなたはバカですか!?生きたくても生きれない人だっているっていうのに!」
そんなの知ったもんか。そいつはそういう運命だし、俺は俺だ。自分の命位好きにしたっていいじゃないか。大体なんだこいつは、初対面の癖に説教臭くつらつらと。
「初対面のあんたにバカ呼ばわりされるなんて心外だな。大体、俺の事なんも知らない癖に。」
何にも知らないやつにとやかく言われる事が、凄く嫌いだった。俺の気持ちなんて知らない癖に。
<可哀想に、通り魔だってよ>
<子供を庇ったらしいわね>
<困った事があったらいつでも頼ってね>
<休む?自己管理も出来て無いなんて仕事なめてんのかよ>
<そんなのお前の都合だろう>
あぁ、煩い。
もう誰にも関わりたくないし、誰も信じられねぇよ。
「知ってますよ。」
良く通る声が響く
「何をだよ。」
「あなたの事です。トウマさん。私はあなたをみていました、ずっと。」
目をそらす事なく言う女の子は何故か俺の名前を知っていた。