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武門侯爵家の嫡男 ~二つの血を継ぐ貴族の一代記~  作者: HATENA 
第二章 侯爵家の子として

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第13話 岩の中の塩

 台の上に置かれた岩には、白い所と、茶色い所があった。割れた面の奥が少し透けている。


「これ、全部が塩なの?」

「若君、こちらの白い部分が塩になります」


 男の人は岩を回して、横の筋を見せた。爪の間まで白い粉が入っている。


「じゃあ、茶色い所は?」

「石や土の混じった所です。こちらへ分けてから、塩の部分を取り出します」


 片方の箱には白い塊が多く、もう片方には茶色いものがたまっていた。男の人は、岩にある細い筋も指してくれた。


 食事の塩には、こんなものは入っていない。


「いつもの塩は、もっと小さいよ」

「石や土を取り除いたあとで、細かくするのです。ここへ来たままでは、まだ食卓へは出せません」

「こっちの中も見たい。割ったら、白いのがある?」


 僕が別の塊を指すと、男の人は持ち上げ、すでに割れている面をこちらへ向けた。両手で抱え直す時に、腕へぐっと力が入る。


「ご、ございます。ただ、薄いので、こちらへ分けました」


 中には白い線が何本もあった。さっき見せてもらったものより、ずっと細い。


 僕は台の端へ手を掛けた。


「僕も持っていい?」

「おう。持ってみたいか」


 振り向くと、父上がすぐ後ろにいた。ラウルの横へ来て、台の上を見る。


「それならいい。角の下に手を入れろ。落とすなよ」

「うん!」


 男の人が台の端まで寄せた岩に、両手を掛けた。僕の頭くらいの大きさで、下の方が少し丸い。


 指を入れて、持ち上げる。


 岩はすっと持ち上がった。抱えると、上着に白い粉が付いた。


 右の掌で底を支え、岩を少し体から離してみた。そっと左手を離しても、そのまま持っていられる。


「父上、片手でも持てるよ」

「お前ならな。そこの者は両手で持っていただろう」

「僕の魔力が多いから?」

「そうだ。魔力が多けりゃ、意識して使わなくても体は強くなるんだ。今、剛躯は使ってないだろう」

「使ってない。まだ教わってないもん」


 男の人の手と、自分の手を見た。僕の方が小さくて、岩の向こうまで指が届かない。それでも、右の掌だけで岩を支えられていた。


「よし、もう下ろしていいぞ。元の所へ置いてみろ」


 左手を添え直して台へ戻そうとすると、父上が岩の横を指した。


「そこだ。その角を先に下ろせば、指を挟まん」


 言われた角を台に付けて、手を抜いた。岩は少し傾いてから、止まった。


「できた!」


 台の反対側では、小さな槌を持った人が塊を割っていた。


「父上、あっちも見たい」

「見るだけだぞ。割るのは、そこの者に任せろ」


 僕たちが離れると、男の人は岩を持ち直して、箱の近くへ戻した。僕が持つ前と同じように、両手を下へ入れている。


 ラウルと一緒に端へ回った。槌が落ちると、白い欠片が二つに分かれる。片方には、裏側まで茶色い筋が続いていた。


「あっ、そっちにもあった」

「割ると、こうして中から茶色い筋が出てくることもございます」


 男の人は茶色い方を別にして、白い欠片を並べた。僕が次の塊を見ている間にも、手は止まらない。


 小さいのなら、部屋のテーブルにも置けそうだ。


「父上、一つもらっていい? 母上にも見せたい」

「ああ。小さいのを分けてもらえ」


 もらった欠片は、掌に載った。片側だけ茶色くて、角の所が光っている。


 そのまま握ろうとしたら、マルタが紙を出した。


「お包みいたしましょう。こちらに載せてくださいませ」

「割れない?」

「握りつぶさなければ、大丈夫でございますよ」


 そっと載せた。マルタが紙を折り、僕の手へ戻してくれる。食事の時に、母上へ包みを開いて見せようと思った。


 父上の用事が終わって馬車へ戻る頃には、屋根の外がさっきより明るくなっていた。


 帰りの道で、店先の籠に赤い実が見えた。


「父上、リンゴ!」

「食いたくなったか」

「母上にも持って帰りたい。あっちの大きいのも」


 赤いものの横には、黄色い、大きなリンゴが並んでいた。妹が両手で持ったら、顔が半分くらい隠れそうだ。


 父上が窓から外を見た。


「いいぞ。少し寄っていくか」


 店の前へ下りると、店の人が慌てて頭を下げた。父上は籠を指して、赤いものと黄色いものを見せさせる。


 僕は、黄色い中でも一番大きいのを選んだ。赤い方は、自分で持って食べられそうなものにした。母上の分も選ぼうとして、二つの籠を見比べた。


「これは、甘いの?」

「はい、若君。赤い方も、黄色い方も、よく熟しております」

「母上には、どっちがいいかな」

「お母さんなら、どっちも食うぞ。大きいのを一つ、俺にも選んでくれ」


 母上の分を選んでから、黄色いリンゴの入った籠をもう一度のぞいた。父上にも大きいのを選ぶと、店の人がまとめて籠へ入れてくれた。


 代金はマルタが渡し、籠は店の人が馬車まで運んだ。岩塩の包みだけは、僕が膝に載せて帰った。


 城へ着くと、先に居間へ走りたかった。でも、マルタがリンゴの籠を持ってくるまで、玄関で待った。


 父上はオスカーに呼ばれて、廊下の奥へ歩いていった。


「俺の分も残しとけよ!」

「父上のは残しとくよ!」


 二階の居間には、母上と妹がいた。妹は僕を見るなり、椅子から下りてきた。


「にいさま、どこ行ったの」

「町に行ってたんだ。これ、買ってきたよ」


 マルタが籠をテーブルへ置く。僕は大きな黄色いリンゴを持ち上げた。


「ほら。これ、お前の」

「わたし、赤いの」

「こっちの方が大きいよ」

「赤いのがいい」


 妹が指したのは、僕が自分で選んだリンゴだった。


「それ、僕のだよ」

「わたしも、それがいい」

「ほかの赤いのじゃだめ?」


 籠を妹の方へ向けた。妹は一つずつ見てから、やっぱり同じものを指した。


 僕は自分のリンゴも取り、黄色い方と一緒にテーブルへ置いた。黄色い方が、ずっと大きい。


「……じゃあ、これ半分ずつにする?」

「赤いの?」

「うん。大きいのも切ってもらって、両方食べる」

「両方!」


 妹が母上の方へ走った。


「母上、赤いのと、おっきいの!」

「まあ。私にも一口くれるかしら」

「母上のもあるよ。こっち、選んだんだ」


 僕が籠を指すと、母上は身を乗り出してのぞいた。


「ありがとう。どちらから食べようか、迷うわね」

「赤いのから!」

「じゃあ、赤いのから切ってもらおう」


 僕が言うと、妹はマルタの方を向いた。僕はテーブルのリンゴを二つとも籠へ戻した。マルタが笑って、籠を持ち上げる。


「切ってお持ちいたしますね」

「父上のは、残してね。そっちの大きいの」


 僕はポケットへ手を入れた。馬車を下りる時に、マルタに入れてもらった包みがある。


「母上、これも見て! もらってきたんだ」


 紙を開くと、白い欠片が出てきた。


「あら、岩塩ね。見せてもらえたの?」

「うん! もっと大きいのも持ったよ。茶色い所は、分けるんだって」


 母上は欠片を裏返し、茶色い筋を見た。僕へ戻してくれると、妹もつま先で立って、手の中をのぞく。


「リンゴじゃないの?」

「石だよ。塩になるの」


 妹は欠片に顔を近づけたけれど、すぐにマルタの出ていった扉を見た。


 僕は欠片をテーブルへ置き、割った岩の中にも白い筋があったことを母上に話した。両手で大きさを作ってみせる。


「そんなに大きかったのね」

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