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第二十一環 うまい飯

時刻は昼を少し過ぎていた。

タベレル環のドアを開くと、外にふわっと漂っていたものよりも、一段と食欲をそそる匂いがした。


「クッキーン!」


ダイクさんがおそらく娘さんの名前を大きな声で呼んだ。

環内にまばらにいた人が、ちょっとこっちをチラッと見た。


ダイクさん・・・声がでかい・・・。

ちょっと待っていると、厨房から元気な声が聞こえてきた。


「はぁーい!あ!お父さん」


きっちりと調理帽をし、白い割烹着を着た、ちょっとふっくらした女性が現れた。


「クッキーン!今日も元気に飯作ってるかぁ?」

「うん!元気に作ってるよぉ!今日もきてくれたんだねぇありがとう!」

「そりゃあ可愛い娘の作る飯が食えるとあっちゃあ、来るしかないだろう?」

「えへへーありがとう!」


ダイクさんと似た笑顔だな。

俺のクッキンさんへの第一印象はそれだった。


「クッキン!こいつが前に話した野菜作ってるジンだ!」

「ああ!あのジンさん!」

「初めまして!クッキンです!良かったら気軽に、クッキンちゃんって呼んでくださいね!」

「ああ、ジンだ、よろしく」


俺とクッキンちゃんは軽く挨拶を交わした。

すると、ダイクさんが何か閃いたようで、ポンと手を叩いた。


「そうだ!なあジン、ここに野菜を卸すことってできないかぁ?」

「クッキンもジンの野菜に興味があってな!是非とも使わせてほしいんだとよ!」

「ちょっとお父さん!」

「ジンさんごめんなさい!でも、私からもよかったらお願いできませんかぁ?」


クッキンちゃんは勝手に話をつけようとしたダイクさんにちょっと怒っていた。

そしてダイクさんは少ししょんぼりしていた。

もしかしたら、ダイクさんはクッキンちゃんに弱いのかもしれない。

ただ、この取引の持ちかけは正直嬉しい。


「ああ、少なくてもいいなら・・・」

「本当ですかぁ!やったあ!魔力野菜とかも評判を聞いて気になってたんです!」

「ジンさんの野菜、楽しみです!」


ニコニコとクッキンちゃんは笑顔でそう言ってくれた。

俺が育てた野菜を、料理人であるクッキンちゃんも気になってくれている。

そのことに、俺はつい口元が緩んだ。


「あぁ、俺にとってもありがたい話だよ」

「おぉお!良かったなクッキン!」

「うん!あ!そうだぁ!今日よければ何か食べていってください!」

「おう!ジン、俺も腹減ったし何か頼もう!あ、いや!クッキン今日のおすすめ2つ頼む!」

「わかったぁ、待ってて―!」


口をはさむ間もなく、注文が決まってしまった。

ダイクさんに背中を押され、席に着く。

今日のおすすめか。

何が出てくるか楽しみだ。


…


ダイクさんとしばらく話しながら、料理の出来上がりを待っていると、厨房の奥からクッキンちゃんがワゴンを押しながら出てきた。


「お待たせしましたぁ!黄の季節定食ですー!」


俺の前にお膳がドーンと置かれた・・・その時。

俺には目の前の料理が輝いているように見える。


定食、だと?

そういったきちんとした料理はいつぶりだ?

俺はなぜか神々しさすら感じる料理に目を細めた。


「こちらから、豚汁、かぼちゃの煮物、鮭のホイル焼き、きのこの炊き込みご飯です!」


1つ1つ丁寧に指し示しながら、クッキンちゃんはメニューを紹介してくれた。

どれもうまそうだ、早く食べたい。


「おぉ、悪いなぁクッキン!」

「ジン!早く食べよう!俺はもう腹ペコだぁ!」


ダイクさんが眉を下げ、腹をさすりながら訴えてきた。


「ああ、そうだな」

「よっし!いただきます!」

「いただきます」


俺たちはきちんと手を合わせ、食べ始めた。


「どうぞ!ゆっくり食べてってくださいねぇ!」


そういってクッキンちゃんは厨房に帰っていった。


では早速。

まずはホイル焼きの包みを開ける。

じゅわっとしたバターが、まるで計算されたかのように美しく溶けている。

湯気からは濃厚な香りが鼻をくすぐる。

野菜たちに囲まれ、つやつやとした鮭がこちらにさあどうぞ!と言わんばかりに存在感を示している。

俺は鮭が崩れないよう、慎重に割いて1口分を取る。

ほろっと綺麗に取れた1口に驚きながらも口に運んだ。


「―――――うまい・・・!」


もうそうとしか表現できないほどうまい。

久しぶりに魚を食べたのもあるかもしれないが、こんなにうまいものだっただろうか。

もう1口もう1口とどんどん口に運んでしまった。


そうしてペロリと平らげ、次は炊き込みご飯。

きのこの香ばしい香りがする。

食べるとじわっと、噛めば噛むほどきのこの旨味が出てくる。

ああ、これもうまい!


その勢いのままかぼちゃの煮物もしっかりと平らげ、豚汁に手を伸ばす。

味噌の香りが、どこかホッとする。


「お父さん!ご飯もう3杯目!これで最後にしてね!」


ダイクさんいつの間にそんなに食べてたんだ・・・。


「えぇええクッキンもうちょっといいだろぅ?」

「だめだよぉ!もう!これで最後!ゆっくり食べてね!」


ダイクさんがしょんぼりしている。

クッキンちゃんに言われた通り、ゆっくりと・・・いや、ゆっくりなんだろうか?

まあさっきよりゆっくりなんだろうな。

・・・俺も食べよう。


…


「ごちそうさまでした!」

「ごちそうさん!いやぁ今日もうまかったぁ!」


本当にうまかった。

これはまた来たくなる味だった。

腹も満たされ、少しの幸福感に浸りつつ、お会計を済ませ、俺はクッキンちゃんとダイクさんにお礼を言う。


「すごくおいしかった、ありがとう」

「また来るよ」


クッキンちゃんはにっこりと笑顔になった。


「そう言ってもらえると嬉しいです!」

「お野菜の件も、よろしくお願いしますね!」


ニコニコと笑うクッキンちゃんと、それを見て満足気に笑うダイクさん。

そんな2人を見ながら、俺もなんだか温かい気持ちになった。


ダイクさんとも別れ、俺は足取り軽く小屋へと帰る。

俺はまだ明るい空を見上げながら、今度はハカリも連れて行こうと思ったのだった。


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