第31話 異世界リアル3
動画サイト 異世界リアル
通称、“ビリアル”。
映像は、岩場の奥へ進むところから始まった。
背の低い岩がいくつも突き出し、その隙間に黒い石が顔を覗かせている。
風は止み、音が妙に少ない。
前を歩く三人組の少し後ろを、赤みがかった黒髪の少女と、白髪の青年が進んでいた。
<岩場きた>
<ブラックオニキス回収っぽいな>
<この静かな感じ、何か出るやつ>
<勇者の真宮寺ちゃん、やっぱ歩いてるだけで絵になる>
地図を見ていた後衛の少年が、少し得意げに前を指した。
「やっぱりこっちに行こう」
<またこいつか>
<昨日もこいつの言葉で岩場来たんだっけ>
<お笑い師、警戒してる顔してるな>
その時だった。
足元の岩の隙間で、かすかに土が動く。
ゴゴッ――。
鈍い音。
「……止まってください」
少女の声で、全員の足が止まる。
<おっ>
<空気変わった>
<察知はやい>
さっきまでなかったはずの亀裂。
砂が、そこへ吸い込まれていく。
<下か?>
<来るぞ>
次の瞬間。
ドガッ!
地面が弾けた。
「うおっ!?」
戦士の足元から、黒っぽい塊が勢いよく飛び出す。後ろへ跳んだ戦士のいた場所を、長い爪が抉った。
<出たあああ>
<ロックモールだ>
<ロックモール、意外と早いな>
地中から現れたのは、モグラみたいなモンスターだった。
中型犬ほどの大きさ。黒と灰色のまだらの胴体。硬そうな鼻先。長い前脚の爪。
「ロックモールです!」
その直後、右の岩陰と後方の地面も盛り上がる。
<三体かよ>
<新人でもなんとかなる>
<ただ、潜るタイプは面倒なんだよな>
「散ってください! 固まると危ないです!」
少女が素早く指示を飛ばす。
「太野川さん、正面! 脛比さんは左! 骨田さん、地面ごと狙ってください!」
<仕切りが自然>
<勇者、指示うまいな>
<お笑い師だけ何も振られてない>
戦士が正面へ踏み込む。
だがロックモールは低く滑って、そのまま地面へ潜るように斬撃をかわした。
「逃げられた!」
武闘家の蹴りは横腹に入る。しかしロックモールは爪を地面に突き立てて勢いを殺す。
「硬っ!」
後衛のストーンバレットが背中に当たる。
甲高く鳴いて、また潜る。
<めんどくさすぎる>
<ちゃんと連携しても普通に厄介だな>
<こいつら、すぐ潜るから狙いづらい>
その瞬間、地面がまた盛り上がる。
今度は勇者の足元だ。
「下!」
お笑い師の叫び。
勇者がすぐ後ろへ跳ぶ。
ロックモールが飛び出し、さっきまでいた場所を抉る。
着地と同時に剣が走り、一体が黒い砂になって消えた。
<さすが勇者>
<反応も速いな>
だが、残る一体がお笑い師の左後方から飛び出す。爪がジャージの裾をかすめる。
そのあと、ロックモールはまた勇者の方を見る。
<また勇者狙いか>
<他のモンスターの時と同じだな>
<真宮寺だけヘイト高すぎ>
「羽賀登野さん、下がって!」
<お笑い師、名指しで止められてる>
<でも多分また前出るんだろ>
<フリなのか>
その時だった。お笑い師の足元の地面が、ぐにゃりと膨らむ。
「うぉ……!」
ズルッ!
そのまま地中へ引きずり込まれた。
<あっ>
<飲まれた>
<終わったか?>
「羽賀登野さん!?」
真っ暗な地中。
引きずられる音だけが続く。
そして――。
もこっ。
少し離れた地面から、お笑い師の顔だけがにゅっと出た。
「うわっ、出た!」
「夏だ!」
<顔だけwww>
<何だこれ>
<ロックモールじゃなくて、お笑い師が先に出てくるの何>
助けを求める前に、またズルッと引き戻される。
「うわあああっ!」
<消えたw>
<ハハハハハ>
<笑うなって言われても無理>
次は少し離れた場所。
頭と肩まで出る。
「ぷはっ! た、助け――」
「どこから出てくんだよお前!」
<大変そうだな>
<出る場所ランダムなのかよ>
<本体まだ見えてないぞ>
その直後。
ドガッ!
お笑い師が出た場所のさらに後ろから、ロックモール本体が飛び出した。
「本体そっちかよ!」
戦士の剣が当たる。浅い。
ロックモールはまた潜る。
お笑い師は、また引きずり込まれる。
<やりづらすぎる>
<お笑い師と本体の出現ズレてるの最悪だな>
<完全に巻き込まれ事故>
次は、勇者の靴のすぐ前からお笑い師の顔だけが出た。
「……羽賀登野さん」
「真宮寺さ――」
また消える。
<シュールすぎる>
<勇者の足元から顔だけ出るの反則>
<でも本人は必死なんだよな>
右。
左。
前。
岩陰の横。
もこっ。
もこっ。
もこっ。
そのたびに、お笑い師の顔だけが地面から出る。
「また出た!」
「次あっち!」
「いや本体どこだよ!」
<完全にモグラ叩き>
<叩く側が困惑してて草>
「……次です」
声が鋭く飛ぶ。
「羽賀登野さんが先に出ます。その直後、左後方!」
<分かるのかよ>
<すげえ>
<勇者だけ冷静だな>
もこっ。
先にお笑い師の顔が出る。
「うわっ、切るなよ」
<本人も分かってきたの草>
<顔だけ出て即命乞い>
そして一拍遅れて。
ドガッ!
左斜め前の地面が弾け、ロックモール本体が飛び出した。
「マジかよ!」
戦士の剣。
浅いが当たる。
「そこです!」
勇者が踏み込む。
低く、無駄のない一歩。
斜めに走る剣。
首元へ一閃。
ロックモールは震え、そのまま黒い砂になって崩れた。
<うおお>
<終わった>
<最後きれいすぎる>
静寂。
「……終わった?」
「終わりました」
「ごめん。助けてもらっていい」
「……はい」
勇者が少し屈み、掴んで引っ張り上げる。
ようやく地面の外に抜けたお笑い師は、その場にへたり込んだ。
<救出まで含めて絵面が強い>
<顔だけ何回も出るのは反則だろ>
「アイツらより先に何回も顔だけ出てくるの、マジでモグラ叩きだったぞ」
「切られなくて良かった……」
<本人もそこ心配してるの草>
<いや正論だわ>
<笑うけど無事でよかったな>
その時、掘り返された地面の奥で鈍い黒い光が覗いた。
「でも……これ、掘った跡の近くにブラックオニキスありそうじゃない?」
全員の視線が向く。
岩の割れ目の間に、黒い鉱石。
「……あった」
<報酬きた>
<ロックモール、だいぶ穴あけたからな>
<このパーティ、運はあるな>
動画はそこで止まった。
コメントだけが、まだ流れ続けている。
<お笑い師、戦えないのに毎回前線いるの何なんだ>
<ロックモールより先に顔出すの今年一笑った>




