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多元世界治安維持組織【アルゴナウタエ】  作者: 浮雲士
四章 雷刃、新生
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三十三話








「ハハハハハハッッ!! 死ねぇ! 砕けろ! 粉微塵となれ!」


 哄笑と共に放たれるイグナティオスの攻撃。巨大な竜巻を、炎を、閃光をかわしながら雄斗は自身の魔力の回復に集中する。

 【神殺士しんさつし】となって魔力の再充電速度も驚くほどに向上した。だがそれ以上に【神殺士】の力を使用した場合の魔力消費量は多い。

 現状でもイグナティオスを倒せる神威絶技を放つことはできる。だがそうした場合魔力がすっからかんとなってしまいカルロスなど他の脅威が襲来した時、戦えなくなってしまう。

 故に今、万が一に備えて回避に徹していた。


(まさかこの土壇場で【雲耀うんよう】が壊れるとは。

 ……いや、まぁ不思議でもないか)


 ジルメルにカルロス。並々ならぬ強者と間を置かず連戦した上、今イグナティオスたちとも戦っている。

 疑似神具である【雲耀】としてはよくったと言えるだろう。

 そろそろ魔力も回復してきた。【|神威を貫く覇雷(エクスプグナティオ・アートレータ・トニトルス)】でも放ち決着をつけるか──。そう雄斗が思ったその時だ、


「!」


 東から何かが来る気配を雄斗は感じ取り、目を向ける。

 そして驚く。雷光と共にやってきたのは己が死んだときに離れたはずの【万雷ばんらい閃刀せんとう】だ。

 こちらに刃を向け、突き刺すかのような勢いで飛来する【万雷の閃刀】。一瞬慌てるも雄斗は体を横に逸らし柄を握る。

 それと同時、【万雷の閃刀】から膨大な雷光が放たれ、周囲が変化する。


(これは……【対話の場】か?)


 無数の雷名が絶え間なく降り注ぎ、そして世界を支える柱のように巨大な雷の剣が立ち並ぶ空間。おそらく【万雷の閃刀】の無意識領域に引っ張り込まれたのだ。

 体があるようで無いような不思議な感覚。突如変化した周囲に雄斗が目を丸くしていると、目の前に閃光が煌めく。

 そこには刃を下に向けた、直立する【万雷の閃刀】の姿があった。


「よう、数日ぶりだな。しかしいきなりやってきてどうしたんだ?」

「……一つ問いに答えろ。我は必要か」

「……。”今は”って言う話じゃないんだよな。それ」


 いつになく真剣で重々しい問いに雄斗は息を吐き、改めて【万雷の閃刀】に視線を向ける。


「そうだな。正直に言えば必要だな。

 不本意ながら俺は【神殺士】なんてものになってしまった。と言うことはもう俺が考えてる人生を歩むことは至難だろう。

 これからは数多の難敵、強敵との戦いが数多くあるだろうな」


 この一年弱の間、様々なことを【アルゴナウタエ】で学んだ。その中には当然【神殺士】についてもだ。

 不可解なところも数多くはあったが、語られる逸話ではどれも驚くべきものばかりだった。たった一人で複数の【異形王フェノメノ】や敵対した神を殺めただの、神代の時代に張られた破壊不可能な結界を破壊しただの、世界一つを消滅させるような暴走した神威を消滅させただの。

 そんな【神殺士】は例外なくどの世界においても多くの戦い、数多の強敵や神と戦っては様々な事──善行悪行の違いはあれど──をなし、その名を歴史に残した。


「だがそれにお前をつき合わせたいとは思ってない。

 勘違いするなよ、お前は素晴らしい武器であり相棒だ。共に戦えれば嬉しいし助かる。

 だが俺はお前を正式に継承したわけではないし、つい先日までお前と離れることを心の底から願っていた使い手だからな」


 だから、これから雄斗が歩む修羅の生涯に【万雷の閃刀】をつき合わせようとは思わない。

 かの剣は世界を救った聖剣の中の聖剣。世界を守護するべき勇者が扱うべき救世の一振り。

 ただ強いだけの無力な己ではなく、自他ともに認める英雄が手にするべき至高の一刀なのだから。


「そうだな。剣としては非常に腹が立つし正直、我はそれが気に入らなかった。

 ──だが、今は、それはどうでもいい。貴様の意見もな」

「は?」


 眩い雷光を発する【万雷の閃刀】。そして切っ先を雄斗に向ける。


「我が求めるのは今も昔も、激烈なる戦い。かつての【異形種大戦キメラ・ウォー】や【崑崙大戦こんろんたいせん】。

 そして先日の貴様と【戦帝せんてい】グラディウスとの戦いのような、生と死の境界線上でしのぎ削り合う闘争。

 三代目の使い手よ。鳴神雄斗よ。今後ともそれを、我に思う存分、味合わせろ……!」


 そして雄斗の体に【万雷の閃刀】が突き刺さる。

 痛みはない。音もなく入り込んでいく──自分に再融合されていく【万雷の閃刀】を見て、思わず雄斗は頬を引きつらせる。


「ご、強引だなオイ。俺の意思は無視か!?」

「貴様とてそうだっただろう。我を非難はできまい。

 これを以て貴様への不信、不満を切り捨てる。いわば禊の儀式、大人しく受け入れよ……!」


 何故か八つ当たりのような口調で言う【万雷の閃刀】。まるで強引な訪問販売員──というよりもそのものだ。

 だが彼の言うことも一理はあるし、何より戻ってきてくれたことを喜ぶ自分がいるのも事実。

 内にある【万雷の閃刀】に対する戸惑い、罪悪感、謝意。それらをひとまず脇にやって、雄斗は言う。


「……わかった。なら【万雷の閃刀】、いや万。

 俺が剣を置くまで、それとも戦場で果てるまでとことん付き合ってもらうぞ!」

「応!!」


 体に刀身が飲み込まれたのと同時、再び眩く輝く世界。

 そして次の瞬間、雄斗は戦場──蒼穹に戻ってきていた。


「さて──」


 眼前にいるイグナティオス達が乗っている魔導人形を見て、雄斗は改めて【万雷の閃刀】を喚び出す。

 今まで通り右手に姿を現す相棒。柄を握る懐かしい、馴染む感触を感じ小さく笑みながら、雄斗は横に剣を振るう。


「おお!?」


 魔導人形に飛ぶ剣戟を見て、雄斗は思わず驚きの声を出す。

 今までのそれよりも大きく太く纏う放電の輝きも煌びやかだ。圧も比べ物にならない。

 そして何より放った瞬間分かった。己と【万雷の閃刀】の魔力が見事に融和している一撃。素晴らしい。

 イグナティオス達も迎撃の雷を放つが、雄斗の剣戟はそれをあっさり粉砕し、魔導人形の巨体を揺るがし吹き飛ばす。


(ただ試しに軽く振っただけなのだが……。神威絶技に匹敵する威力があるんじゃないか)

(当然だ馬鹿者。【神殺士】となった貴様と我の力が融和した一撃だぞ。あれぐらいの威力は出せて当然だ)


 早速のきつい物言い。しかし【万雷の閃刀】らしい言葉に自然と頬が緩む。


(雄斗君!)

(雄斗さん!)


 唐突に聞こえた念話。

 周りを見渡せば本島からマリアと雪菜の二人が飛んできていた。


(二人とも、どうしたんだ?)

(【叢雲】が折れたのを見て救援に来たのだけど──)

(やっぱり、その必要はなかったようですね)


 微笑む──というよりも可笑しそうな笑顔を見せる二人。

 そして特に雪菜は生暖かい眼差しを雄斗の右腕──【万雷の閃刀】に向けている。


(雪菜? どうした?)

(いいえ、何も。私たちは下がっていますね。

 万、雄斗さんを願いしますね)

(言われるまでもない。さっさと下がれ)


 威嚇するような物言いの【万雷の閃刀】。

 しかし二人は気分を害するどころか微苦笑して雄斗から離れていく。


(……雪菜と何かあったのか? というか呼び方が)

(気にするな。些細なことだ。

 あれが明の血筋であること。陽司の娘であることを再認識させられただけだ)

(その言い方すごく気になるが……。ま、いいか)

 

 飛んできた業火を振り向きもせず雄斗は【万雷の閃刀】を振るって両断。

 そして右手の方に体を向け、ヒビだらけの魔導人形を見据え、


「いい加減疲れてきたことだし、さっさと目の前のお人形を壊して終わりにするか」












 虹色の雷が雄斗の体を煌かせ、蓄積されていく。既に神威絶技を放つだけの魔力は得ているが、構わず雄斗は続ける。

 破壊するべき対象は巨大だ。それを確実に、木っ端みじんに粉砕するため雷を蓄積しているのだ。

 蒼穹を染め上げる虹色の輝き。それに向けてイグナティオスは攻撃を放ってくるが雄斗には少しのダメージも与えられない。

 巨人からの攻撃はすべて雄斗に当たってはいる。しかしその全ては命中すると同時に霧散する。すでに発動している【剣躰】によるものだ。


「──よし。もういいな」


 呟くと同時、雄斗は【万雷の閃刀】を構える。そして体に纏わりついていた虹色の放電も小さくなっていく。

 先程まで周囲に吹いていた風が止まる。まるで雄斗の【覇神力】に従うように。

 そしてイグナティオスもいつの間にか攻撃を止めていた。しかし観念した、降伏するという感じは微塵もしない。

 先程の雄斗と同じく魔力を機体の内部に蓄積している。おそらく雄斗と同じく、止めの一撃を放つためだ。

 凪となった大空。 しかしすぐに風が吹き始める。

 そして体を揺らすような強風が吹いた時、雄斗は雷を纏って魔導人形に向けて突撃。それと同時に魔導人形からも嵐のような砲火が放たれる。


(無駄だ)


 魔導人形に直進する雄斗へ巨大な炎、雷、竜巻が向かって行く。先程見たラメオドンやロマノスの神威絶技もあったが身にまとう雷がそれらを全て切り裂く。

 天下る稲妻となった雄斗が魔導人形の頭部正面に到達し剣を振るおうとした時だ、眼前の空間が割れ、景色が切り替わる。

 瞬く間に漆黒──いや、星が煌めく夜空となる。そして雄斗の頭上から何かが落ちてくる気配がある。


「……!」


 見上げた視界に移ったのは、無数の巨大な隕石と槍を構えた魔導人形だ。


「【終末を導くエスカテロス・天空王の星槍ウーラノス】!

 押し潰されるがいい、鳴神雄斗ォォォォッ!!」


 宙から槍を構えこちらに落ちてくる魔導人形の突撃。そして空を埋め尽くす膨大な量の隕石。

 くらえば今の自分であってもどうなるかわからない、死の予感を感じさせるイグナティオスの強大で強力な──そしておそらく最後の一撃。

 そんな攻撃を前に雄斗は改めて【万雷の閃刀】を握る。そして落下してくる魔導人形と隕石群に向けて剣を振るった。


「【閃煌剣せんこうけん】」


 虹の煌きを纏う雷光が空を割る巨大な斬撃として放たれる。

 極大の閃刃は瞬く間に魔導人形の巨体を、そして空間を埋め尽くしていた隕石群を切り裂き呑み込み、天地を揺るがすような大爆発を起こす。

 それを見て仕留めたという確信を雄斗が抱くのと同時、周囲は鮮やかな蒼穹に戻る。

 そして空に生まれた巨大な爆発雲から粉砕された魔導人形の残骸が姿を見せ、落下していくのを雄斗は見た。


「ふぅ……」


 今まで感じていた敵意が無くなり、雄斗は大きく息を突く。

 とはいえまだイグナティオスたちを確保できていない。気を入れ直し念話でマリアたちに言う。


(二人とも、済まないが一緒にイグナティオス達を探してくれ。

 手応えはあったがこの残骸を見るに、さすがに三柱全員消し飛ばされてはいないだろうからな)


 粉砕された魔導人形だが欠片は大きいものも無数にある。恐らくそのどれかに彼らがいるはずだ。

 アリアたちと共に落下する破片を探る。するとひときわ大きい頑丈そうな──それでも半分ほど破壊された──球体からかすかな生命反応が感じられた。

 そこに駆け付けるとコクピットと思わしき場所で白目をむいているイグナティオスの姿があった。なにやらうわ言でジョンや雄斗の名前、罵詈雑言を言っている様子だ。


「腐っても【オリュンポス】を代々統治してきたミディカス王家の末裔ってわけか。

 さて他の二人は──」


 魔力で生成した紐でイグナティオスを縛り上げ雄斗が再び気配を探ろうとした時だ、二つの光が左右から姿を見せる。

 そしてそれは真っすぐ雄斗に向かってきた。ラメオドン達の攻撃だろうかと思い反射的に雷撃を放つと、稲妻に撃ち抜かれた光は同化するように音もなく消えてしまう。 

 その現象を見て雄斗が眉根を潜めた時だ、自身の心臓がかっと熱くなる。そして己の力がより強く、大きくなったと理由もなく確信した。


「なんだったんだ、あの光。そして今の感触は……」

「あの輝きは貴様が斃した二柱の神々の神器だ。貴様の力が増したのはそれを取り込んだからよ」

「取り込んだって……さっき雷撃で撃墜した時の事か」


 然りと答える【万雷の閃刀】。


「これが【神殺士】が数多の世界で最大に恐れ、敬われる理由よ。

 【神殺士】はその膨大な魔力と【覇神力】の行使もだが、それ以上に殺めた神の力を無尽蔵に取り込めるのだ。

 どれだけ資質に溢れたものでもその身に神を、その神威を宿すのは一柱分。それ以外の方法となると神具や神財を保持するのみ。

 もっともそのような真似ができる存在はごく少数だが」


 相棒の言う通り、神でありながら神具や神財を保持するものは少ない。

 神具や神財を多く所有すれば、それだけ維持し続ける魔力を必要とされることや、また保持した神具と宿す神格との相性という問題もあるからだ。

 例えば水の神を宿したものが炎の神具を使えば神器と神具同士の異なる力が反発し、使い手か神具かどちらかに良くない事象を起こす。

 では宿した神と同じ属性や相性のいい神具を使うというのも良いとは言えない。力や魔力は高まるがその分消耗の度合いが激しくなる。

 かつてとある炎の神が同じ炎の神具や神財を無数に扱って無類の強さを誇ったが、その消耗の激しさを敵に利用されて自滅させられたという話もある。


「しかし今言った通り【神殺士】にその制限はない。

 我が見た【神殺士】の中では、十柱の神の権能を所持している【神殺士】もいたからな」

「【異形種大戦】の時のか」

「そうだ。あ奴は我が知りうる【神殺士】の中では五指に入る強者の中の強者だった」

「……。そうか。

 しかし万。ラメオドンとロマノス──ヘパイストスとアポロンの神器が俺の体に取り込まれたということは」

「ああ。当代は生きてはいないだろう。亡骸も無事かどうか怪しいな」


 【万雷の閃刀】の言葉を二人に伝え、それでも念のために捜索を再開する雄斗たち。

 そして相棒の言う通り、ラメオドン達の死亡を確認する。ラメオドンは右半身が消し飛んだ状態でイグナティオスと似たようなもの──こちらはより損壊が激しい──に乗っており、ロマノスは下半身が消し飛んだ姿で地表に向けて落下しているのを雪菜が発見した。

 テロ首謀者を発見、転移魔術でエドガー達の元へ転送した後はマリアの提案で落下する残骸の中でも一際大きなものは破砕する。

 本来なら首都の防空迎撃システムがやるだろうが今は【神雷を制する天空スフラギーダ・ケラウノス】の襲撃から立ち直ることで精一杯なことを聞いたからだ。


「これで、最後かな」


 マリアが放った水の刃が魔導人形が持っていた槍の穂先を粉砕する。

 そして改めて周囲を見渡し彼女の言葉が間違いないことを確認し、雄斗は大きく体を伸ばす。


「やれやれ。とうとう終わったか。……本当、疲れたぜ」

「お疲れ様雄斗君。肩貸そうか?」

「いや、そこまでしてもらう必要はない。さぁ戻るとするか──」


 と言ったその時、雄斗は彼の視線を感じ、動きを止める。

 今までも密かに感じていた、観察するような眼差し。しかし今、それから強い興味と戦意が感じられ雄斗は小さく息を突く。


「? 雄斗君。どうしたの?」

「……全く、まだ何か用事があるのかよ。グラディウス」


 雄斗の言葉にマリアと雪菜が大きく目を見開く、そして身を翻す。

 直後、雄斗の正面に漆黒の渦が発生。そこから数日前に別れた【異形王フェノメノ】──【戦帝せんてい】グラディウスが姿を見せた。








次回更新は1月24日 夜7時です。 

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