二十五話
【オリュンポス】王城にある大広間の一つ。そこでは世界会議に参加した、またはその付き添いでやってきた各世界の要人たちの姿がある。
豪奢で品のいい服装をする彼ら彼女ら。笑顔で会話をかわす彼らをマリアはぼんやりとした眼差しで見つめている。
「ふぅ……」
挨拶回りを一通り終えたマリアは壁に背を預け小さく息をつく。
賑やかでにこやかな様子の周囲とは違う、憂鬱な表情。その理由は初めて参加した世界会議で疲れたのもあるが四日前、タルタロスに降下しながらも全くの無駄足に終わったことに対するものだ。
息まいて雪菜やシンシア、アイシャと共に半ば強引にタルタロスに降りた四人。しかし降りた直後、【瞬嵐】が発生。
少しの間は留まっていたが【瞬嵐】で吹き飛ばされてきた【異形種】たちに囲まれてしまい、帰還を余儀なくされたのだ。
しかも戻った後は無断でタルタロスに降下したことが発覚し、四人は【アヴェスター】や【高天原】など、各々と関係の深い世界の面々に説教を受け調査を禁じられた。
用意されている各世界の美味な料理の数々。いつもならそれを見てマリアはひっそりと目を輝かせるが今は到底そんな気分に離れない。適度に口にした後会場を抜け出る。
やってきたのは王城にある庭園だ。今は夜の帳が降りかけている夕暮れ時の時間だが、庭園各所に設置されている無数の電灯のおかげで庭園に咲き誇る無数の花々は良く見える。
調和と美麗の言葉が具現化したような見事な庭園。【オリュンポス】の様々な草花が見事に咲き誇っており見る者の心を落ち着かせる。
しばらく観賞しよう。そうマリアが思った時だ、背後に複数の人の気配を感じる。
振り向いて目を丸くする。庭園の入り口に見えたのはドレス姿のアイシャとシンシア、そして二人に連れられているような雪菜だったからだ。
マリアと同じく着飾っている三人。雪菜は淡いピンク色の振袖を、アイシャは鮮やかな紅色のサリーを、そしてシンシアはパフスリーブのロングスカート型の純白のドレスを身にまとっている。
「シンシア姫にアイシャ。雪菜ちゃんを連れてどうしたんですか?」
「姉様共々色目を使ってくる奴らが鬱陶しくてね。抜け出してきたのよ。
雪菜は家族とちょっと揉めてたから、頭を冷やさせようと思ってね」
「舞香さんと晴之さんと?」
アイシャの言葉にマリアは目を丸くする。
視線を向けると雪菜は気まずそうな顔になり、
「……揉めるといっても大したことじゃありません。
ただ姉様も兄様も雄斗さんが死んだと決めつけて慰めるようなことばかり言うので」
「ああ……」
マリアは苦笑し、その光景がありありと脳裏に浮かぶ。
おそらく晴之は優しく慰めたのだろうが、雪菜を溺愛する舞香は過剰な反応を見せて周囲がドン引くほど雪菜に慰めの言葉をかけたのだろう。
舞香はただ純粋に気遣っていることは雪菜の顔を見る限り分かっているのだろう。ただ何度も雄斗の死を強調されてカチンと来てしまったというところか。
「わたくし、少しびっくりしましたわ。雪菜さんが戦いの時以外であんな勇ましく怖い顔をするんですもの。
だたあとでお姉さまには謝っておいたほうがいいわ」
「そうね。雪菜に怒られて舞香さん、魂が抜けたような顔をしていたわよ。
放っておけば数日はあのままでしょうね」
「……はい。後で謝っておきます」
項垂れる雪菜の頭をシンシアが優しく撫でる。
それを見てマリアが小さく微笑んだ時だ、少し強い風が吹き庭園の花びらが散らばる。
様々な色彩の花弁が宙を舞う。中でも闇の中だというのに淡い光を発する桜の花びらに似た花弁は他のと比べて一段と美しい。
「綺麗……」
「ニュンペ―の花びらね。確かこの庭園にあるのは姉様の樹だったわよね」
「シンシア姫の?」
「はい。花と植物の女神ニンフ様からわたくしが生まれた日に頂戴したものです
雄斗さんを助け出したらぜひ見てほしいですわ」
淡く輝く花弁を散らせる樹木に手を当ててシンシアは言う、
一方マリアは彼女の言葉はドキリとする。ニュンペ―の樹。生命を司る女神ニンフが遥かな昔に造り出したとされる樹だ。
薄い桃色や淡く輝く白の花を咲かせる姿は優美の一言。【永遠の愛】、【不変の契り】と言った花言葉があり、それ故に【オリュンポス】ではプロポーズする時にプレゼントするものとしても有名だ。
「あのー……シンシア姫。ちょっとお聞きしたいのですけれど」
「何かしら?」
「勘違いだったら謝りますけど。その、もしかして、シンシア姫は雄斗君のことが好きだったりします?」
「ええ。好意を抱いております」
ハッキリと言われ、思わずマリアは固まってしまう。シンシアの隣にいる雪菜は「えっ」と声を上げる。
「うーん、やっぱりそうだったのね。
でも姉様。一体いつの間に? 雄斗と知り合ったのは【東京事変】と事件が起きる数日前よね。その短い時間で好きになったの?」
「それと再会してからの彼を見たからね。
昔と同じぶっきらぼうだけど優しくて、仲間のために躊躇なく体を張れる。好意を抱くとしては十分すぎるわ。
──アイシャ、あなたもなのでしょう?」
切り返すように言うシンシアに褐色の美姫は目を丸くし、
「まあね。好きと言ったら好きよ。雄斗の子供を産んでもいいと思うぐらいは」
「ええええっ!??」
驚愕する雪菜の横で、アイシャは色香に満ちた笑みを浮かべ指で右頬──確か雄斗に切り付けられたところ──をなぞる。
「あたしが好きになった理由は単純明快。あいつが強いから。
それと文句を言いつつもあたしに付き合ってくれる懐の大きさかしらね」
「自分が迷惑をかけている自覚はあったの……?」
マリアが思わず突っ込むがアイシャはスルー。
彼女は勝ち誇った笑みをマリアと雪菜に向けて、言う。
「と、いうわけでマリア、雪菜。悪いけど雄斗はあたしがもらうわね。
心配しなくてもお爺さまには話を通してあるから問題は何もないわ。あたしたち二人の幸せの門出を祝ってちょうだい」
「そうかしら? 【ヴェーダ】にいるあなたへの熱狂的な信者や【トリムールティ】の方々は必ず騒ぐと思うのだけれど。
わたくしも全く問題がないとは言わないけどそれらの解決方法はわかっているから、きっとあなたより楽よ」
邪気を感じさせない笑顔を浮かべる【オリュンポス】の姫君と【ヴェーダ】の女神。
表面上穏やかな二人だが、余人には近寄りがたい圧を放つ。
「お二人とも。勝手に話を勧めないでください」
「そ、そうですよ!」
「あーら、フラれた二人は引っ込んでいてほしいわね。
それに消息を絶った程度で雄斗が死んだと思うような意気地のないあんた達に負ける気はさらさらないわよ」
それに対してマリアが反論しようとした時だ、アイシャの隣にいる雪菜が眉を吊り上げ、棘のある声で言う。
「……アイシャ様はすっかりその気ですけど、雄斗さんが断ると思いますよ。
前にちょっと聞きましたけど、雄斗さんはあなたのことが苦手だと言っていましたし、【ヴェーダ】の権威にも屈するようには見えませんから」
「……へぇ、可愛い顔して結構言うわね」
「だったら、何だって言うんですか?」
火花を散らし、今にも剣を抜きかねない雰囲気を放つ二人。
意外な雪菜の姿を見てマリアは目を丸くするも、すぐにシンシアと無言で視線をかわし、二人の肩を掴んで引き離す。
「雄斗さんの将来について話すのはこのぐらいにしておきましょう」
「そうですね。今はとにかく彼を一刻も早く助けなければいけませんし」
「だが流石に今日は止めてくれよ。
各世界の厳重な警備に監視、警戒の目もある。行動を起こせばすぐにばれるしこの間のような説教だけじゃすまないからな」
突如聞こえてきた男性の声。マリアを除く三人ははっとして周囲を警戒するが、マリアは左にある花壇に止まっている鳥の方を振り向き、言う。
「ラフシャーン様、乙女の話を盗み聞きするのは流石に悪趣味ですよ」
「そう言うな。お前が先日のような問題を起こさないよう、使い魔で監視しているだけだ。
お前たち四人の鳴神雄斗争奪戦の話を聞いたのは完全な偶然だ。今は吹聴はしないから安心しろ」
笑いを含んだその声は欠片も信用が置けない。
マリアは止まっている鳥に顔を近づけて、低い声で言う。
「絶対に誰にも言わないでくださいね。もし口を滑らせたら怖いですよ」
「ほほう。俺を脅すとはいい度胸だ。この俺に、【アヴェスター】最強であり全ての神々の中でも最上位の強さを持つ俺が何を怖がると──」
「ライラ様にラフシャーン様に虐められたと言いつけます」
「おおっと! 新たなデザートの追加が来やがった! これぐらいにしておくとするか!
お前たち、休憩はほどほどにして戻って来いよ!」
逃げる様に飛び去って行くラフシャーンの使い魔。マリアは嘆息してそれを見送る。
「ライラって誰よ?」
「ラフシャーン様の奥方よ。この世で唯一、自由気ままなラフシャーン様を抑えておける御方。
しかし実際のところ、雄斗くんの救出いつ頃になるか不透明ではありますね」
【オリュンポス】においてはタルタロスに落ちる=死というイメージが強い。それが神であってもだ。
もちろん救出に向かい助け出せたことがないわけではないが、見るも無残な亡骸や遺品を発見した場合が圧倒的に多いのも事実だ。
マリアの言葉にシンシア、アイシャ、雪菜は眉を潜め、または眦を下げて言う。
「ええ。タルタロスが危険なことは【オリュンポス】の人間なら周知の事実。
先日の戦いで助けられたわたくしたちは捜索に乗り気ですが、事件から数日たった現在、オグマたちがすんなりと了承するとは限りませんし……」
「早くても世界会議が終わって数日後かしら。……あたしが参加するのは厳しいわね」
「わ、私も加われるのかはっきりしません。捜索するとしたら【アルゴナウタエ】からはマリアさんや【清浄なる黄金の聖盾】の皆さんになる可能性が高そうですし」
「それもどうかしら。いっそのこと未熟なわたしたちではなく【オリュンポス】に来られているエドガー様達【七英雄】がタルタロスに降下する可能性も──」
マリアがそう言ったとの時だ、王城がぐらりと大きく揺れる。
そして周囲からガラスが砕けたような音が聞こえる。視線を向ければ王城の周りに張られていた結界が消失しているではないか。
「これは!?」
「姉様! あれを!」
一瞬で戦装束に変わり、手元に神具を握るアイシャは彼方を指差す。
日が落ちてすっかり薄暗くなった空。そこに無数の魔方陣が出現する。大きな魔方陣から戦艦にディケオスィニが、小さな魔方陣からは戦闘用の魔導人形が姿を現す。
空に出現した大小の転移魔方陣の数はざっと百を超える。マリアも【召喚】の術でドレス姿から戦装束に着替え、【大河の聖盾剣】を手にするが、
「フン。たかが魔導人形風情。数百数千出現したところであたしたちの相手になるわけないでしょうが!」
迫る魔導人形の群れに少しも臆さないアイシャ。巨大な炎を吹き出す【千壊万死を齎す黒刃】を両手で握り大上段に構え、振り下ろす。
「【焦熱剛剣】!」
放たれる巨大な業火の斬撃。空を横に割るそれは一撃で空を埋め尽くしていた魔導人形たちを一掃してしまう。
「全く。無駄なことをするものね──」
「アイシャ、まだ来るようよ」
勝ち誇るアイシャにシンシアが言う。彼女の言う通り、出現した新たな魔方陣から再び魔導人形が姿を見せる。
アイシャは眉を潜め再びその身に宿る巨大な魔力を活性化させるが、それより早くマリアと雪菜が動く。
「【無垢なる龍王】!」
「【鳳砲華】!」
マリアの放った水の龍が、雪菜の傍に出現した巨大な花より放たれる桃色の光砲が魔導人形を打ち落とし、薙ぎ払う。
「アイシャさん。あなたばかりに働かせては【アルゴナウタエ】の名が泣きます!」
「というか。わたし達も苛立っているのよね。この数日で何度もテロを起こして、雄斗君を行方不明にして。本当、いい迷惑だわ!」
雄斗の一件でたまっていた鬱憤を晴らすようにマリアたちは空に向かって攻撃を放つ。
「そしてイグナティオス達幹部は姿を見せない。──ほんとに卑怯で姑息な方々です」
またそこにシンシアの攻撃も加わり、第二陣の魔導人形群はあっさりと全滅する。
それからも魔導人形による強襲は繰り返されるが結果は同じ。四人の放つ神威絶技と魔術の前にろくな抵抗も迎撃もできず粉砕されていくだけだ。
また別方面から迫っていた他の魔導人形たちも似たような結末を迎えていた。城を警備する者たちが放つ巨大な魔術や神威絶技により破壊され、城にたどり着いた個体は一つとしてない。
「──さて、そろそろいい加減終わってもいいと思うんだけど」
何度も空に散っていく魔導人形の残骸を見て煩わしげにアイシャが言ったとの時だ、再び魔方陣が出現する。
しかしそれは今までのとは違い、一つだけだ。そして大きさも人一人が出現するほどのものしかない。
魔方陣から姿を見せたのは豪奢な貴族の服装を身にまとう男性だ。波打つ金髪と碧眼を持ち二十代前半の若々しい顔つき、また目にした男性女性問わず振り返るような美形だ。
しかしこちらに向ける視線からは侮蔑を感じさせ、また感じる巨大な魔力は紛れもない、神のそれだ。
「ロマノス・ポイボス・アポロン。あなたが出てきたということはイグナティオスもどこかにいるということですか」
シンシアの言葉にマリアは目を丸くする。
ロマノス・ポイボス・アポロン。当代のアポロン神にして【神雷を制する天空】に与するものだ。
調査によれば【神雷を制する天空】ではイグナティオスに次ぐNo2の地位にあり、組織の参謀役を務めているという。
「これはシンシア王女。久方ぶりですな。
ええ、あなたが仰る通りイグナティオス様はすでに王城内におられます。今頃身動きが取れないジョン達の前にいるのではないでしょうか」
「身動きが取れない……!? お父様たちに何をしたの!」
シンシアが鋭い声で問いただしたその時だ、ロマノスの後ろに巨大な魔方陣が発生する。
姿を見せる巨大な魔導人形。ディケオスィニかと思ったが、それは神殿にあるような女神像のような造形をした魔導人形だ。
そして転移したのと同時、魔導人形は巨大な魔力を発生させる。すると女神像からヘドロのような黒い靄が飛び出し瞬く間に周囲──本島部分を覆っていく。
「これは一体……!?」
「これらの女神像はこちらの話を静かに聞いていただくための仕掛けです。私たちとてさすがに世界会議に参加した全ての神々相手に戦いを仕掛けるような馬鹿な真似はいたしません。
私たちの目的はジョンから正統な王の末裔であらせられるイグナティオス様への王権と【オリュンポス】支配権の移譲。
そして向こう十年間の【オリュンポス】の閉鎖とジョン達反逆者たちの処刑。これらを各世界の方々に承認していただくだけです」
「馬鹿じゃないの。その一つだって認めるわけがないでしょうが!」
怒鳴りつけるアイシャ。しかしロマノスは少しも動じず、
「民の命がかかっているのにですか?」
冷笑を浮かべ、ロマノスは左手の指をぱちりと鳴らす。
すると彼の左側に大きなスクリーンが姿を見せる。【千里眼】の魔術の応用だろうか、そこに映し出されたものは先程までいたパーティー会場であり、
「兄様、姉様!」
「シャフナーズ!? それにアルシア様、シャハブ様、ラフシャーン様まで……!
「お爺様!? 何をしているの!?」
信じがたい、先程ロマノスが言った通りの光景が視界に映る。
会場の中央に立ち大仰な手ぶり身振りで周囲に語り掛けているイグナティオス。そしてその周りにいる各国の要人はどうしたことか、身動き一つできていない。
いや、よく見たら会場にいる全員に黒い靄のようなものがまとわりついている。
大半が神々やそれに準じる実力者。その彼らを封じているということは間違いなく何かしらの神威絶技。それも強化された──
「さてと。あなたたちも会場に連れて行くとしましょう。
あなたたちも会場にいる者たちと同じく重要な人材。私の元にいる姿を見れば、我らの意を通しやすくなるというものです」
思考するマリアの目の前で悠然と微笑むロマノス。
そんな彼をアイシャが鼻で笑う。
「冗談はその辺にするのね。あんた一人であたしたち四人を相手にできると思っているの」
「見たところ会場にいる姉様たちを捕らえている黒い靄はあの巨大な魔導人形の仕業。早々にあなたと魔導人形、両方を打倒し、ます……!?」
【|木花霊剣(このはれいけん】を構えた雪菜が、突然膝から崩れ落ちる。
どうしたのかと問う前にマリアにアイシャ、シンシアも庭園の石床に腰を落とす。
「な……! これは!?」
「体が……!」
「……! ロマノス、これはあなたの!」
「さすがはジョンの穢れた血が混じったとはいえミディカス家の末裔の一人。察しがいいですね。
その通り、周りに見える魔導人形と私の神威絶技によりあなたたちや会場にいる者たちの身動きは封じています」
ロマノスの浮かべている冷笑が深くなる。
そして彼の腕に出現する黄金の弓矢。ロマノスはその矢を手に取り、こちらに差し出す。
煌びやかな黄金で作られた弓と違い、鏃は漆黒で作られている。そしてそこからは言い知れぬ不吉さが放たれてもいた。
「【病魔を宿す黒曜鏃】。本来は数百の病魔を鏃に込めて敵に放つ技ですが、微量な病原菌を大気中に放ち、吸い込ませた相手の身動きを弱めることもできます。
各国のトップクラスにも通じさせるべく、何日もここリトボスに向けて発動していました」
そう言ってロマノスは弓矢を手に取り、こちらに向ける。
放たれる漆黒の鏃。マリアたちはそれぞれ回避や防御の動きを取ろうとするが、それより早く飛来した矢が体に突き刺さる。
直後、体の中に溢れる多種多様な病。魔力を体内に集中させて強引に消し去ろうとするが鏃に込められたロマノスの魔力の強さがそれを許さない。
「これでもう動けませんね。
それともう一つ言っておきますが、あなたたちがそうなったのは私の神威絶技だけではありませんよ」
ぐるりと周囲を見渡すロマノス。
魔導人形の残骸が落下している、無数の欠片と粉末がある空。それを見てマリアは察する。
「まさか、先程破壊した魔導人形の中に……!」
「ご名答です、当代のアナーヒター。先日ゼノンが襲撃した際、同じ手法を使いましたからもしかしたら対策を練られると思っていましたが、杞憂でしたね。
──本当に、愚かで助かりましたよ」
そう言ってロマノフは懐から輪っかを取り出しマリアたちに放つ。
【欲望の輩】が使用する【聖者の縛輪】に似たそれは投げ輪のようにマリアたちの体を収め、身動きを封じる。
魔力放出で吹き飛ばそうとするが、輪っかは微動だにしない。
「これは……!?」
「【聖者の縛輪】を我らが独自に改良したものです。神とは言えしばらくは動けませんよ。
さて、行くとしましょうか」
体を縛られるマリアたちを見て、冷笑を浮かべるロマノフ。
そんな彼を睨みつけながら、マリアは体内に入った病原菌を消し去るべく静かに魔力を働かせるのだった。
次回更新は12月27日 夜7時です。




