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多元世界治安維持組織【アルゴナウタエ】  作者: 浮雲士
三章  黒傷を濯げ、清流の剣
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十八話






「待ちわびたぜ、この時をよ。

 まぁ予想外のオマケもいるがそれはそれで悪くはない。酒のつまみみたいなものだからな」


 まるで親しい友人を酒に誘うかのような気楽な、柔らかい口調のグラディウス。

 今から死闘が始まるものとは思えないそれを聞き雄斗は眉をひそめ、その左右では二つの殺気が一瞬、大きく膨れ上がり、すぐに治まる。


「さてと、それじゃあ早速始めるか!」


 右手に黒刀を出現させ立ち上がるグラディウス。

 明らかに隙だらけの、相手を舐め腐ったような態度だが攻撃しようとは思わない。攻撃した瞬間、反撃が来るイメージが脳裏に浮かぶからだ。

 雄斗たち三者は何も言わず、それぞれ【掌握しょうあく】と【神解リベラティオン】を発動する。


「輝く星よ。月と共に闇夜を照らす星光よ。蒼穹に住まい汝らは女王たる我の民であり兵である。

 汝らが輝き武勇を振るえば、我は喜び、王国には平穏が訪れるであろう。あらゆる障害、敵意のことごとくは消え去るであろう」

「我はあらゆる傷を癒し、この世全ての病より人々を守る乙女。太陽と共にある輝かしき女。

 光輝に包まれし我は全ての害悪より人々から守る大母である。【水を持つ者、湿潤にして力強き者】たる聖名を持つ戦士である」

「雷よ。天を支配し、地を砕く至高の輝きよ。あらゆるものを屈服させる力の権化よ。我が元に集え」


 シャフナーズ、マリア、雄斗の順で紡がれる言霊。内に眠る神の力を顕現させる聖句が灼熱の地平に響く。


「星よ、輝いておくれ。その光こそ我が権威であり王国が健在である証。

 星よ、煌めておくれ。刹那の時でさえ、蒼穹たる我が国に不安の影を見せぬために」

「なればその威を、力を、今ここに示す。共に戦う盟友たちを癒し、千の害意を飲み込こもう。無辜の民を守るため、万の敵意を打ち砕こう」

「汝は神も悪魔も畏怖させ、まつろわせる聖なる剣。いかなり困難も苦境も切り払う魔刃なり」


 眩い無数の輝きがシャフナーズを包み、碧銀の軽鎧が顕現。両手の【星女王のナジュムマリカ・霊剣シャムール】を横に広げ、翼を開き飛ぼうとしている猛禽のような恰好を取る彼女。

 マリアもまた顕現した清純な白と青のドレスの上に黄金の甲冑を纏い、両手に固有神具【大河のフィウーメ・聖盾剣アルマ】を握る。突撃姿勢を取ったシャフナーズとは対照的に腰を落とし、どっしりと構える。

 以前と変わらぬ女神二人の【神解】。しかし雄斗の【掌握】の姿は完全に記憶を取り戻したためか、変化する。


「汝らの主であり星の女王アスタルテの元。星々よ、我が民にして兵よ。

 我と我が民、王国を守るため、あらゆる害意と暗黒を打ち払うために、永遠に輝き続けよ!」

「我が真名はアナーヒター。民を癒し守る聖母であり、勇猛な戦士と共に戦場をかける戦乙女である!」

「万の雷霆を束ねし汝、その真価をここに顕現せよ。あらゆる障害を排除する雷霆、この世に二つとない至高の鋼をこの世に顕せ。我に勝利をもたらすためにーー!」


 雄斗の体に装着される黄金の意匠が入った鈍色の軽鎧。ここまでは同じだ。

 だが周囲に出現した【万雷ばんらい閃刀せんとう】の分身は二つだけ。また黄金色の羽織が上半身を覆う。

 右にいるマリアが息を呑む気配がするが、雄斗自身は驚きはしない。これが【万雷剣群】を発動した、本来の姿だからだ。


「ほう、以前とは姿が違うな。それに魔力も覇気も強い。

 それが本来の姿という訳か」

「行くぞ」


 目を輝かせたグラディスに答えず雄斗は【万雷の閃刀】を構え呟く。

 一呼吸おいて閃電の速さで間合いを詰める。首を狙う横薙ぎを繰り出すが笑みを浮かべたグラディスの右手が持つ黒刀の刃が剣戟を防ぐ。

 その直後、雄斗の左から飛び出すマリア。莫大な水を超圧縮して精製した水の刃を宿す剣をグラディウスの首元に突き出す。

 雄斗の斬撃を防いでおり無防備なグラディウス。しかし彼は笑みを浮かべ繰り出されたマリアの剣に対し漆黒の渦を形成し、突きを止める。超重力の渦による物質停止だ。

 しかし雄斗たちの攻撃はそれで終わらない。グラディスの左側に回り込んでいたシャフナーズが三つのレーザーを放ったからだ。

 迫る閃光にグラディウスは見向きもせず漆黒の渦の壁を生み出すだけだ。だがレーザーは漆黒の渦をあっさりと打ち破る。


「お」


 グラディウスがかすかに驚いたのと同時、雄斗たちはその場から離脱。直後、レーザーがグラディウスとその場所を飲み込み、爆発を起こす。

 シャフナーズの神威絶技【星極槍ニグム・ハルバ】。【星矢】と同じく光の塊を放出する絶技だが、一つに【星矢】十数発分の威力が込められているとのことだ。


(手応えはあったわ。でも……)

(ああ。これで終わるわけはないな)


 念話で雄斗とシャフナーズが語った時、風が渦巻き爆発が晴れる。

 案の定【星極槍】が着弾した場所には小さいかすり傷を負った、わくわくした顔のグラディウスの姿があった。

 挨拶代わりの一撃とはいえ直撃を受けた。だというのにあんな様子を見せられ、思わず雄斗はゲンナリする。


「いい先制攻撃だ。しかも論外だと思っていたアスタルテが俺に一撃をくらわせるとは。少し見直したぞ」


 暢気に評価しているグラディウス。それを見ながら雄斗はマリアたちに念話で語りかける。


(やっぱり遠距離攻撃はほぼ効果がないな。──二人とも)

(ええ。近距離で勝負するしかないわね)

(グラディウスは鳴神君が目当てだから作戦通り、わたしたちはグラディウスの隙を狙って仕掛けよう)


 マリアの剣に輝きと水が、シャフナーズの双刀に光がともる。

 【大河のフィウーメ・聖盾剣アルマ】の剣に宿るそれは【黎明に導く青剣アルバ・アズーロ】。莫大な水と光を圧縮させることで剣の切れ味を増す神威絶技。

 【星女王のナジュムマリカ・霊剣シャムール】の双刃が目を細めるほどまばゆく輝く。これは【星宮を墜とす輝戟タドミル・スィラーフ】。莫大な光量を宿し、その熱量であらゆるものを両断する神威絶技。

 二人曰くこの数日の間、グラディウスに挑むため生み出した新たな神威絶技だという。


(じゃあ、予定通りいくぞ)


 仲間にそう言いながら、雄斗はグラディスに向けて雷撃を放つ。

 当然【戦帝】の周囲に出現した漆黒の渦により逸らされ地面を爆撃するが構わない。狙い通りいくつかの雷撃は地面に突き立っており、周囲は雷光に満ちている。

 それを見ながら雄斗は再びグラディウスに接近し剣戟を放ち、グラディウスも嬉々とした表情で黒刀を振るう。


「いい太刀筋に威力だ。先日剣を合わせた時よりも冴えわたっている。

 ふふふ、この進化の速さ。驚くべきものだな!」


 黒と黄金の剣閃により生まれる結界の中、賞賛しながら焦りの欠片も見せないグラディス。

 雄斗の剣碗が上がるのは当然だ。今まで培った強さに加え、記憶を完全に思い出したことにより【万雷の閃刀】を十全に扱えていた感覚を取り戻したのだ。

 それは些細な変化ではあるが、共に武の頂点の領域にいるもの。少し変わったことが大きく勝負に左右する。

 しかし雄斗の剣戟はグラディウスに当たらず逸らされ、【異形王フェノメノ】の攻撃と反撃は体を掠める。

 彼の言う通り雄斗の剣碗は向上した。だが【戦帝せんてい】の剣は今の雄斗の上を行っている。

 黒刀の斬撃が掠める程度になっているのもグラディウスがそう調整しているのだ。確証はないが、剣を合わせている雄斗にはわかる。

 戦士は戦いの中で、特に生死がかかった戦の中でより大きく、強くなる。グラディウスは雄斗に対し、そう指導しているのだ。

 しかし雄斗には舐めやがってと怒る暇もない。前回と違い、グラディウスの太刀筋はそんな余計なことをしていたら即座に切り伏せられる速さと鋭さを持っているからだ。


「それに引き換え……やはりお前たちはつまらんな。

 当たれば怪我をするとしか思わん」


 雄斗と剣を交えながら蔑むように言うグラディウス。その言葉が向けられるのは砂漠に叩きつけられたマリアたちだ。

 作戦通り雄斗とグラディウスが斬り合い、その隙ができた時に二人は仕掛けた。だがそのたびにグラディスは雄斗を押しのけては斬りかかってきた二人に対応、強烈な一撃を放ち2人を吹き飛ばし、または砂まみれにしていた。


「せめて先代のアナーヒターと同等の腕を持つならばけっこう愉しめるのだが。

 鳴神雄斗、お前もそうは思わんか?」

「知るか!」


 初めて怒声を放ち雄斗は再び斬りかかる。

 先の戦いと同じく剣を交えるたび雄斗の剣は研ぎ澄まされていく。だが雄斗よりはるか高みにいるグラディウスも前回と同じく余裕をもって対処してしまう。


「少し、本気を出すか」


 数分ほど剣を交えたところでグラディウスが呟く。そして次の瞬間、気が付けば刃が振り下ろされていた。

 微塵も気を緩めていなかったにもかかわらず見えなかったグラディウスの太刀の気配。何とか紙一重でかわすも続けて放たれた一撃はかわしきれず、雄斗の胸部を切り裂く。


「む?」


 しかし斬った瞬間、グラディスは怪訝な声を上げた。そして斬られた雄斗は次の瞬間、グラディウスの背後に出現し剣を振り下ろしていた。

 完全な不意打ちの一撃。しかしそれをグラディウスは驚くべき反射神経でかわし、反撃の一撃を繰り出す。

 先程と同じ不可知の太刀が雄斗の体を切り裂く。だが斬られた部位は瞬時に再生し、また雄斗も斬られたことを気にせず攻撃直後の【戦帝】に剣戟を放つ。

 

「おお!?」


 雄斗の不可解な現象に驚きつつもグラディウスは動き、紙一重で回避する。

 そこへマリア、シャフナーズが斬りかかってくるが刹那の一瞬で二人を吹き飛ばし、地面に叩きつける。

 背中を見せたグラディウス。そこに雄斗は突撃し大上段から【万雷の閃刀】を振り下ろす。


「二人を囮にしたいい攻撃だが、惜しいな!」


 決定的な隙を見せたというのに、歴戦の【異形王】は信じがたい反応速度と動きで反転。雄斗が剣を振り下ろすより早く横薙ぎの斬撃を放ち、黒の刃が雄斗の体を切り裂く。

 だが致命的な一撃を受けた雄斗はその次の瞬間、グラディウスの背後にいた。決定的な隙であり防御も間に合わないそれを見て、雄斗は砂漠に突き刺さっていた雷を解除する。

 斬り合いになる前、放った雷は攻撃のためではない。神威絶技【雷刃不滅陣らいじんふめつじん】。【万雷の閃刀】から放った雷により作った結界内において雄斗を仮初の不死を与え、また瞬間移動を可能にする絶技だ。

 そして再び大上段に構えた【万雷の閃刀】に、対人における現状最強の破壊力を持つ神威絶技【閃煌剣せんこうけん】を使用し、振り下ろす。

 黄金の煌きを放つ剣戟はグラディウスの背中を切り裂き、青色の液体を迸らせた。







次回更新は9月16日 夜7時です。

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