9、宿『セル』の風呂物語
レン様が容赦ないです。
超絶胸糞オッサンからの和やか乾杯をした私達は、本日の宿泊先である宿『セル』へと向かった。
宿はこじんまりとしてはいたが、家族全員で商っているような温かみのある雰囲気だった。
宿に着くと、夕方チェックインした時のように恰幅の良い女将さんんが笑顔で迎えてくれた。
「おかえりなさい。街は楽しかったかい?」
私はちょっとだけ顔を歪めてしまった。
思いの外、あの胸糞オッサンの件を引きずっているようだ。気持ちの切り替えが出来てない自分にイライラに似た焦りを感じる。
「酒場でジュースで乾杯してきたわ。」
と、私の代わりにレン様がニコニコで女将さんに報告。
「そうかい。楽しんで来たようで良かったよ。夕飯は出来てるからね、風呂も準備出来てるから、どちらでも好きな方から寛いでいっておくれ。」
「そうねぇ。私は汗を流しておきたいような気もするけど、、、ハルさんとメンズの方々、どうする?」
お風呂、、、この世界で、まともに身体綺麗に出来たのは王立の学園入れてからだし寮は各部屋についたシャワーだし宿のお風呂ってお湯ためるあのお風呂だろうか、超絶気になる心奪われるうぅううううううう!
「俺は基礎トレ後、勝手に入るから。」
筋骨隆々魔導師ヴァンが答えた。
「僕はどちらでも。」
やんごとなき雅な剣士リューイが答えた。
私は、、、
「みなさんに合わせます。」
ニホン人らしく無難に答えた。
「じゃあお風呂が先ねー。」
悪戯っ子な表情でレン様は可憐にそう言った。
やったあ!どんなお風呂だろう?
浴槽だったら嬉しいなああーーー。
私は上部からは分からないはしゃぎっぷりで、そう思った。
不意にほっぺたがプニプニ押される感触に気付いた。
レン様がニコニコしながら、私のほっぺたを、、、指でプニプニしている!!!
どうしたんだ!今日は私に対する皮膚接触が多くないか!?いや、多いといっても二度目だが、二度目だけれども!!今現在も尚プニプニされているががが!!!
「ハルさん。ここ家族風呂もあるんですって、一緒に入る?」
直後私の脳内には、その許容量を超える映像が駆け巡り、漫画の思春期男子がよくやるような見事な鼻血ブーをやらかし、可憐なレン様との家族風呂ご一緒るんぱっぱは夢まぼろしと消えた。
女将さんに介抱され、落ち着いてから一人で入ったこの世界お初のお風呂は、カモミールに似たお花が浮かべられた、正真正銘お湯をはったお風呂であった。
ものすんごい嬉しい。
気合入れて全身洗い流したあとピカピカの身体で湯船に浸かったが、思わず「うえぁああああ」という呻きだか声だか分からない息を吐くと、心が身体がゆるゆると湯船に溶ける感覚に浸った。
「お風呂最高。」
私は思わず、神に祈りを捧げた。
野宿とかあるならこの先シャワーも出来ない時もあるだろう。帰ったらここのお風呂が待ってると、心の支えにさせていただこう。
魔王討伐の同行取材だが、記録魔法の早急な技術改善が必要だと思った。
私の写真はまだ短時間ではあるが繰り返し動く。
静止画が主流のこの世界においてヘーベル総括部長が私を拾い上げるきっかけになった弟妹の白黒写真は、前世でいう無声の白黒動画だった。
水場で芋むきをする幼い弟妹。
芋についた泥で手が泥だらけになった泣きそうな妹に、優しい弟がポンプで水を汲んでやる。でもまだ色々下手くそな二人は、結果しくじってびしょ濡れに。
それでもそれが悲しいどころか可笑しくて、二人心から笑い合う。
それが繰り返し再生される作品だった。
『セル』のお宿の女将さんのような人達や、偉い王族、貴族様や超絶胸糞オッサンのような人達に、魔王討伐の様子を、きちんと記録して伝えねばならない。
それが私の使命なんだ。
短時間でも複数繋げれば映像になっていく。でもそれだけじゃ足りない。
移動の邪魔にならないように、さらに改良していかないと、、、
あれこれ考えていたら、思いの外長風呂をしていたようだ。
「ハルさん、私お腹空いたよー。」
ガラリと風呂場の浴槽扉が開くと、ちょっとだけ濡れ髪のレン様が顔を覗かせた。
私は再び、鼻血ブーをやらかし、それが落ち着くまで、ご飯お預けになってしまった。
お読みいただき、ありがとうございます。