74 開戦
※クルークさん視点で始まります
「私はサウザーラ軍の使いで参ったクルーク・ルノ・ゲーヒ! この軍の指揮官にお取り次ぎいただきたい!」
私が白い門の前で大声を出すと、すぐに中から槍を持った獣人が一名出てきた。
「おお、先日ラフェリアにいらしたクルーク殿ではありませんか。私はラフェリアのガルドワン、隊長を務めております。どうぞこちらへ参られよ」
ふん、、この獣人、覚えておるぞ。この無駄に大柄な体、傷だらけの醜い顔、先日ノイエーラ城を訪れた際にも私を案内した奴だ。
獣人に案内されて砦の中を進んでいく。ふん、、この砦、ノイエーラ城と同じ素材でできておるな、、、白く硬い継ぎ目のない石だ、、
「案内役ご苦労、して、この砦の指揮官は?」
「タロー陛下ですよ」
「ふ、そうか」
バカな奴め、わざわざここまで出張って来るとは。今頃ノイエーラ城攻略の別働隊一個師団も到着しておることだろう。ここで討ち取られるか、万一逃げ出しても帰る場所など無くなっておるわ。
やがて、案内役に連れられてあの巨大な塔の中へと入っていき、長い階段を登った後、大きな扉の前へと着いた。
「陛下、サウザーラのご使者をお連れいたしました!!」
「通せ」
扉の向こうから声が聞こえ、両脇に付いた兵士が扉を開く。さて、ここまでのことをしでかした腰ミノの悪魔は今どんな面をしているのか、、
「よく来たな、クルーク」
「…随分と、、様子が変わられましたな、」
なんだこの威圧感は! まるで数トンの透明な石を上から乗せられているようだ、、
数段高くなった白い石段の上に立ち、青く輝く杖の上に両手を置いてこちらを見下ろしてくる腰ミノの悪魔、いや、今や奴は腰ミノは付けておらず、漆黒の鎧に身を固め、腰には白い獣の皮を履き、背中には赤く光る翼と光の輪が見える。いったいどんな演出だ?
飾りだけの虚仮威し、、と言うわけでもなさそうだ、、
「ひぃぃ、ひぃぃ、、、」
くっ、、腰ミノの悪魔を鑑定する為に上位のレベルでも鑑定出来るスキルを持ったミュリスを連れてきたが、、奴を一目見た瞬間に蹲って頭の上で両手を組み、涙を流して震えるのみになってしまった、、使えない奴め、、
もう1人の従者リューアは、、目が合うと険しい顔で小さく首を振ってきた。サウザーラでも1、2とも言われる暗殺者であるこいつでも無理か、
「降伏勧告に来ましたが、、無駄のようですな」
「そうだな」
「本日は我がサウザーラ軍の提案を持って参った。よろしいかな?」
「申せ」
ぐっ、、重いっ! 短い言葉にも威圧をかけてくる、、
「我がサウザーラ軍はラフェリア軍に対し、一騎打ちを持って開戦とし、その後全軍による合戦を行うことを提案する。一騎打ちは双方5名の戦士を出して行う。同じ戦士は二度戦ってはいけない。開戦は明日の夜明けと共に始める。
いかがか?」
「明日の朝とは悠長だな、、いいだろう、一騎打ち、受けて立つ! もちろんその後の合戦もだ」
こやつ、、即答しおった、、
さらに、一騎打ちの話が出てから、この部屋の周りに立っている者達数名から尋常ではない気が発せられておる。くっミュリスめ、蹲って床ばかり見ず、こいつらも鑑定せぬか!
「タロー陛下、お話の途中で申し訳ありません、クルーク殿と少し話しをさせていただいても?」
「いいぞ、カルロン、許す」
「ありがとうございます、陛下。お久しぶりですな、クルーク殿」
誰だ? 横から話しかけてくるのは? 右を向くと、そこにはエオリアの外相、カルロンがいた。
「な?! 貴様はエオリアのカルロン! エオリアは腰ミノの悪魔についたと言うことか!」
「悪魔とは随分な、、ええ、エオリア王国はタロー陛下のラフェリアに付かせて頂きます。国を救っていただいた恩もありますのでね」
「くっ、エオリアはサウザーラと事を構えるつもりか?!」
「この戦いでサウザーラが生き残ることができれば、ですがね。難しいでしょうな。それよりも、サウザーラの方こそ降伏されてはいかがかな?」
「くっ、、エオリアの兵力はサウザーラに劣るはず! そこに腰ミノの悪魔がついたところで、、」
「クルーク殿は何か勘違いをなさっているのでは?」
「なんだと?!」
「その気になればタロー陛下は単騎でサウザーラもエオリアも滅ぼせますよ。それをしないのは、タロー陛下がそれを望んでいないからです」
「バカな?!」
未だに蹲って涙を流し続ける精霊眼のミュリス、重圧に耐えきれなくなったのか膝をつきうなだれる暗殺者リューア、かくいう私も先程から冷たい汗が止まらない、、
ここは、、一騎打ちの提案も伝えたことだ、早々に退散する事にしよう、
「当方の要件は以上だ、、帰らせていただいても?」
「好きにしろ」
見下ろしたまま腰ミノの悪魔が答える。
リューアは私に続いて共に退出したが、ミュリスの方は蹲ったまま微動だにしなかった為、置いていくことにした。
◇◆◇◆◇
「ふう、偉そうにするのも疲れるよ」
サウザーラの使者が退出してから俺は、自分の肩をトントンと叩きながら石段に座った。
「陛下、そう仰らずに。それにまだサウザーラの者が残っております」
そう言ってグリューンが目を向けた先には、薄い水色のローブを着た俺と同じくらいの歳の青年が蹲っていた。
「やれやれ、君はどうしたいんだい? そんなに怖いなら何故一緒に帰らないんだい?」
「お、お願いします、お願いします! 殺さないでください!」
「だから、君の事は殺さないって、」
「わ、私のことじゃありません! サウザーラの私の家族を、、、お願いします!」
こいつ、、
「俺はラフェリアのタローだ。君は?」
「は、はひっ! サウザーラに仕える精霊術師のミュリスと申します!」
「それで? 君の家族は軍人か冒険者か?」
「い、いえっ! 家族は王都で大工を営んでおります!」
「なんで? 俺が君の家族を傷つける事になるんだ?」
「王都を攻めに来たのでしょう! あ、あなた様であれば王都サウザーラを壊滅させる事など容易いのでは?!」
怖がられたもんだ、、
「好きにしろ、だがサウザーラが市民総出で戦いに出てくるようなら容赦はせん、ガルドワン!」
「はっ!」
「こいつを捕虜たちと一緒に地下に放り込んでおけ!」
「ははっ!」
ガルドワンたち獣人の兵士たちに両脇を抱えられ、引きずられるように連れて行かれるミュリス。何度も振り返り、すがるような眼差しを送ってきたが、俺は目一杯虚勢を張って目を逸らさないようにした。ホント疲れる、、
開戦を翌朝に控えたその夜、1つの影がサウザーラ軍の陣地を抜け、砦の城門へと入ってきた。その影は塔へと近づいたところで直ぐに兵達に取り押さえられる。
「あんた、タローの兄さんのところの人か? 頼む、兄さんに合わせてくれ!」
取り押さえられ、地面に押さえつけられながらも懇願する男は、何度かラフェリアに来たことがあるリャントウだった。
「お、リャントウ久しぶり、よく来れたな? ここは危ないぞ、明日には総力戦になるからな。」
俺が塔の5階でサウザーラ軍を眺めていると、ガルドワン達がリャントウを連れてきた。
「兄さん、ず、ずいぶん派手な格好になったな」
「おう、いくさだからな」
「あ、ああ、そうだな。そうだ、兄さん、王都で一番うまいパン屋のパン買って来たんだ! 一緒に食わないか?」
「いいのか? ちょうど腹減ってたところだ」
そう言ってテーブルと椅子のあるところへとリャントウを連れて行き、二人で座る。そのテーブルの横には大きな窓があり、この砦を包囲するサウザーラ軍の篝火が幾百、幾千と見えていた。
リャントウが袋から籠を取り出し、その上にいくつかパンを乗せる。1つ手にとってかじってみた。
「へえ、うまいな、幹宏、お前も食ってみろよ」
俺の後ろで護衛するように大剣を背負って立っている幹宏に1つ手渡す。
幹宏は「おう」と一言返事して片手にパンを受け取り、バクバク食べ始めた。
「そうだろ! うまいだろ! このパン屋のおばちゃんすげえ気前が良くってさ、友達んとこに持ってくって言ったらこんなにおまけしてくれたんだ!」
そう言って持っていた袋から、いくつもパンを取り出すリャントウ。
「それでな、パン屋の2軒隣には食堂があってだな、そこのウェイトレスの娘達がまた可愛いんだ! 今度一緒に食いに行こうぜ!」
「ああ、そうだな、食べに行ってみたいな」
「…それでだな、、
その、、兄さん、頼みがあるんだ、、サウザーラの人たちを、その、、なるべく傷つけないでくれないか?」
「…誰かの命令か?」
「ちげーよ! あいつら、何もわかってねーんだ! なあ、サウザーラに住んでる人達はほとんどが普通の人達なんだ、、頼むよ、」
「…約束はできんぞ、善処はする」
「ありがとう! 十分だ! 兄さんがそう思ってくれるだけでいいんだ、」
「た、だ、し! お前にも働いてもらうぞ、俺はサウザーラを征服するつもりはないからな、ぶっちゃけ気に入らんやつをぶっ飛ばしにきただけだ」
「お、おう、、兄さんにケンカ売るとは無謀な奴もいたもんだ、、」
「と言うわけでだ、ここの戦いが終わるまで、お前も安全な地下に避難してろ」
俺がそう言うと、ガルドワンともう一人の兵士がリャントウの両脇をガシッと掴み、立たせる。
「なあに、1日か2日の辛抱だ」
「え、ちょ、兄さん?」
ズリズリ引きずられながら連れて行かれるリャントウ、悪いな、ちょっと避難しておいてくれ。
◇◆◇◆◇
翌朝、日もやや高く上がった頃、サウザーラ軍からファンファーレが鳴り響いた。音楽隊か、朝から元気なこった。
俺たちは砦の城門の上にあるやぐらの中から平原のサウザーラ軍を見下ろしていた。
草原に整然と並んだ数万のサウザーラ軍、音楽隊の演奏の終了とともに、軍の中から盾と長剣を携えた一人の騎士が馬に乗って出てくる。
「我こそはサウザーラ北部方面軍第1師団所属、アインス フォン ノルトレア! 一騎打ちの先鋒である!
さあ蛮族の勇者よ! 出てこい!」
うちの一番手もこちらの城門を出ていく。セミロングの髪を風に揺らしながら焦げ茶色のローブをなびかせ、銀色の筒を右手に颯爽と歩く長身の女性。
「ラフェリアの騎士サクヤ!
サウザーラの騎士よ、いざ尋常に勝負!」
ヴォン!
大気を震わす独特の音とともに咲夜が右手に握った銀の筒から光の剣が現れる!
「手加減はせぬぞ、女ぁ! はあっ!」
馬に鞭を入れ走り出すサウザーラの騎士!
ラフェリアとサウザーラの戦いが始まった!
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