70 迷宮攻略開始
「殿下! 斥候職の冒険者28名、有志の冒険者62名、集まっております!」
「先行用奴隷兵、100名の班編成完了!」
「歩兵1000名、騎馬200騎、揃っております!」
「シュルマイアー殿下直属親衛隊、100騎、全員揃っておりますぞ」
白い塔と迷宮が現れた翌朝、シュルマイアーは約1500名の兵を、王都サウザーラの郊外に集めていた。
「うむ、これだけの人員と資材をよくぞ1日で集めてくれた、爺」
「これも殿下の人望があってこそですぞ。冒険者たちも腕のいいのが集まっておりまする」
白髪、白髭の老騎士が、黒毛の馬をシュルマイアーの横に並べて穏やかに応えた。
「シュルマイアー殿下、我ら冒険者一同、殿下の為に粉骨砕身働く所存です!」
皮鎧を着た1人の冒険者がシュルマイアーの馬の元へと駆け寄り、膝をついてこうべを垂れながら挨拶をしてきた。
「む、ゼルバンか、よろしく頼むぞ! この迷宮の攻略に貢献すれば、報酬は弾むからな!」
「ははっ!!」
「全員、整列! これより白い塔と迷宮の攻略隊、シュルマイアー殿下の指揮のもと、出発する!」
「「「ははっ!!」」」
こうして1500名の攻略隊は、王都サウザーラの北の平原を、長い列をなして進んでいった。
◇◆◇◆◇
サウザーラを出発して4時間後、一軒家ほどもあるベージュ色の大きなテントの中から、シュルマイアーは白い塔と城壁を睨んでいた。
城壁の門の手前、200mほどの少し丘になった地点に、サウザーラの部隊は簡易の基地を構築していた。シュルマイアーの為の大型テントを張った後は、その周りに兵たちのためのテントを数百張建て、陣地の周りには木でできた柵を立てている。
「殿下! テルジール、ただ今戻りました!!」
親衛隊用の、白銀の鎧をつけた赤い髪の青年が、シュルマイアーのテントに入って来て跪き、報告をする。
「テルジール、構わん、いちいち跪くな。それよりどうであった?」
「いやぁ、すごいっすね、あの城壁、全く継ぎ目が無く、ここと、その反対側に大きな門があるだけであとは真っ白な壁が続くのみっすよ。命令通り、100メルタ以上離れて一周したんですが、結構時間がかかっちゃいましたね。一周だいたい1000メルタはあるんじゃないっすか?」
「そうか、継ぎ目のない城壁か、、反対側の門はこちらと同じく開いていたか?」
「いやあ、開いてなかったっすね。入れそうなのはこっちの門だけっす」
「そうか、、爺!」
「はっ」
「まずは一隊、門の中に入ってもらうか。奴隷兵と冒険者の斥候、それに我が軍の兵20名をつけて入らせろ」
「ははっ!」
数分後、サウザーラの陣地の前に、獣人の奴隷兵10名と斥候職を含んだ冒険者5名、サウザーラ兵20名の合計35名が集められ整列していた。
獣人の奴隷兵は皆、手首か足首に鉄の輪をつけられており、片目の者、片腕の者、片脚の膝から先が木の棒に置き換わっている者、両腕の指がほとんど無く腕に槍を括り付けている者など、まともな体のものはほとんどいなかった。その中で1人だけ5体満足な者はいたが、それは幼い少年兵だった。
「…坊主、戦いに出るのは初めてか?」
ボロ布の帯で片目を覆った、長身で痩せた灰色狼の獣人が、自分の足の横で震えて立っている子犬のような少年兵に声をかける。
「ふ、ふふ、ふるえてなんかか、ななないやい!」
「…俺は『初めてか?』って聞いただけなんだがなぁ。まぁ無理すんなよ、あと何があってもパニくるな。パニくった奴は、、すぐ死ぬ、、」
「わわ、わかったた、」
ザッザッ、と音を立てて老騎士が整列している兵たちの前にやってきた。
「諸君たちは栄えある一番隊に選ばれた! この迷宮を是非とも攻略し成果を我らの殿下に捧げよ!」
「「「ははっ!!」」」
跪き応える冒険者と兵士たち。奴隷兵達は自分の運命を感じてか、うつむくのみで返事はなかった。
◇◆◇◆◇
「よし、次はこっちの通路を進むぞ。お前とお前、2名で先を進め!」
「ああ、」「は、はいい!」
ぼぼ、僕はチャウツー、
サウザーラ生まれの奴隷だ、
3日前、前のご主人様に売られてお母さんの元を離れた。
鉄格子の馬車の中から見たお母さん、、ずっと泣いてた。
「おねがい、生きて、おねがい、、」
そう叫びながら連れて行かれる僕を見送ったお母さん、僕は、、何も返事できずに鉄格子の中からぼんやり眺めてるだけだった。
「…おい」
「……」
「…おい坊主、、」
「はは、はい!」
「ボサッとするな、、死ぬぞ。ここはとっくに迷宮の中だ」
そう言って僕の隣の大きな狼のおじさんが、匂いを嗅ぐように辺りを見回しながら声をかけてくれた。
「はい、あ、あの、、」
「…ガンテだ」
「が、ガンテさんは迷宮に入ったことがあるんですか?」
「ああ、何回もな、、」
「そ、そうなんですか、、ここはどんな迷宮なんですか?」
「…わからねぇ、迷宮は個性的なものが多いが、こんなところは初めてだ、、おっと、そこの紐、触るなよ。罠だ、」
「は、はい、」
そう応えて紐を大きくまたいで足を出したら、、
ズボッ!!
「うわぁっ!!」
「おっと、あぶねぇあぶねぇ、見えてる罠の先の見えない落とし穴かよ」
宙吊りになる僕、ガンテさんは片手で僕のズボンの後ろを掴んで助けてくれた。
「が、ガンテさん、知ってたら言ってくださいよ!」
「わりぃ、もしかしたら、と思ったりはしたが、わかってたわけじゃねぇぜ」
「、、すみません、助けてくれてありがとうございました」
「…いちいち礼言ってんじゃねぇ、、
おい、隊長さんよ! こっちの道はダメだ! 鉄と変な油の匂いがそこらた中からプンプンする上に、見つけられねぇ罠まである!」
「わかった」
「ちょっと待ってくれ、どんな罠か見せてもらっていいか?」
「む、そうだな、斥候職の冒険者に見てもらうのもいいか、すまんが頼む」
「了解でさあ」
冒険者の人たちが5人、さっき僕が落ちそうになった穴のところまで進んでいった。
「なんだこりゃあ、細い鉄の糸か? その先に落とし穴か、
うわ、えげつねえな、落ちたら刺さるようになんか尖ったものがあるぞ、、おい、ハギンス」
「ん、なんだ?」
「お前の槍でその先の地面つついてみてくれ」
「ああ、こうか?」
ボゴッ!
あ、また落とし穴が、、
「次はそこだ」
「了解だ」
ボゴッ!
すごい、冒険者さんたち、落とし穴を見つけてどんどん進んでいってる。そして最初の落とし穴から50メルタほど進んだところで、、、
ズガァァアアアアアン!!
ひっ! いきなりすごい音がして冒険者さんたちが大きな真っ黒い煙に包まれた!!
「ひええ、、」
煙が晴れた後には、、冒険者さんたちの鎧や赤いものがたくさん飛び散ってた、、
◇◆◇◆◇
白い塔の3階からは、照夫が小さなリモコンを手に、迷宮の通路を見下ろしていた。
「5人程度かぁ、ちょっともったいなくない?」
「そんなことはねぇよ。お前の落とし穴いくつか潰されただろ? 有能そうな奴は先に潰すに限る」
「そうだね」
◇◆◇◆◇
「ひぇええ」
「隊長さんよぉ、、鉄と油の匂いはこいつだったぜ、、しかもまだまだ残ってやがる」
「くっ、、道を変えるぞ! 次はこっちだ! おい、そこのお前とお前、今度はお前たちが先頭だ!」
「へいへい」「わかりましたさぁ」
ふう、、先頭交代だ、、こわかったぁ、、
「おい、お前たち!」
「ん?」「は、はい!」
「よくやった、褒美だ」
そういって、隊長さんは、腰の袋から干し肉を2本出して、ガンテのおじさんと僕に手渡してくれた。ガンテのおじさんは「バカにしてるのか?」とか小さく呟いてたけど、僕はとってもお腹が空いてたのですぐ食べた。
久しぶりにもらったお肉は、硬くてしょっぱくて美味しかった。
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