62 慟哭
「シュルマイアー殿下、そろそろサウザーラ城に戻りませんと、」
「ん? ああ、そうか、もうそんな時間か」
栗毛の馬に乗った赤髪で細面の騎士が進言すると、シュルマイアーは太陽を見上げて答えた。
今から帰れば、日が沈む前にはサウザーラへ帰れそうか、、
「殿下、由緒あるサウザーラ城の舞踏ホールにて、主役のいない舞踏会を開催することになってはいけませぬ。それに、殿下の寵愛を求めてやってきた各国の美姫に寂しい思いをさせては男がすたりますぞ」
シュルマイアーの横に黒毛の馬を寄せてきた老騎士が冗談めいて言う。
「はっはっは、爺やの言う通りだな! 野外訓練は終わりだ! 帰還するぞ!」
「「「はっ!!」」」
号令と共に華美な装備の騎馬隊が数十騎、シュルマイアーを囲むように隊列を組み、サウザーラ城へと針路を取り駆け出した。
「西部方面軍第32小隊は、冒険者達の奴隷運搬を護衛せよ!」
「「「ははっ!!」」」
爺やと呼ばれた老騎士が去り際に馬上より命令すると、揃いの槍と盾を持ち、揃いの鎧をつけた歩兵達が返事をした。
◇◆◇◆◇
「あの子達、元気かな?」
鉄塊のような剣を肩に担いで大股で森の中を歩く幹宏。
「あちゃー、幹宏の子供好きもかなりなもんだね」
木の枝の上で索敵をしながらクノイチ姿の花蓮がため息をつく。
「はっはっは、さっさと子供作れよ、幹宏」
幹宏にちゃちゃを入れるのはアサルトライフルを構えながら右の茂みを警戒する照夫だ。
「ばっ! 照夫オメー、子供ったって相手が、」
「そこからか〜、はっは」
「こ、子供、、子供、」
チラチラと照夫の方を見ながら、俯いてテレテレし始めたのは茶色のローブをまとった咲夜だ。
「ちょ、咲夜さん! 左の警戒、警戒!」
後ろから白いローブをまとった魔道士の浩二が、全く索敵をしなくなった咲夜に声をかける。
幹宏達、チーム『ノルエス救援隊』改め『ホラン村お引っ越し手伝い隊』の面々は、ラフェリアの兵達と共にホラン村を目指していた。アドリア達がラフェリアを発ってから2日後に、太郎が移住を手伝うための人員をホラン村へ派遣すると聞き、その護衛役を半ば押し売り的に申し出たのだった。太郎も助かる事になるので、鉱山から取れた宝石を入れた小袋1つ分で、幹宏達のパーティに仕事を依頼する形となった。
「ふう、ふう、ミ、ミキヒロ様、もう少し、ゆっくり、、おねがい、します」
「ん? あ、すまんすまん、シベハス隊長、早すぎたか」
「す、すみません、、」
「幹宏〜、あんた防御力あるからって不用意に大股でスタスタ進みすぎ! 罠とかあったらどうすんの?!」
「そんときゃ罠ごと打ち返す!」
そう言って、ブンッと鉄塊のような剣をバットのようにスイングする幹宏。
(はぁ〜、この脳筋バカ、どうやったら治るんだろ、、)
チーム『ホラン村お引っ越し手伝い隊』の他のメンバーは頭を悩ますのであった。
◇◆◇◆◇
「そろそろホラン村のはずだけど、、おかしくない?」
「ああ、、ここまで近づいても人の気配がないな、、まだ先なのか?」
索敵の得意な花蓮と照夫は違和感を感じていた。
「…少し慎重に進もうか、、幹宏、下がれ。俺と花蓮が先に進む」
「あ、ああ、わかったよ」
「!!」
先行していた花蓮が、樹上からハンドサインで停止の合図を出す。それを見て照夫は後ろの全員をハンドサインで停止させると、花蓮は照夫にアイコンタクトで少し前の木の下を見るように促す。
少し前へ出て、促された地点を確認する照夫、
(あれは! )
「お、おい照夫、一体何が、」
「下がってろ! 幹宏!」
一緒に出てきた幹宏に、照夫が小声だが厳しい声をかける。
「前方クリア、敵はいないけど、、」
樹上から降りてきて照夫に相談する花蓮、
「花蓮、済まないが一緒に来てくれ、罠の確認をしてほしい」
「…うん、、」
「罠は、、ないよ、、グスッ、」
クノイチのスキルで罠が無いことの確認を終え、涙ぐみながら照夫に告げる花蓮、
「そうか、、」
膝をついて一度手を合わせ、大木の下にあるピンク色の丸まりを確認しようとする照夫、
「お、おい照夫、、それって、」
いつのまにか幹宏が後ろに来ていた。見覚えのあるピンクの服に、両手はワナワナと震え、足もガクガクとしている、そして、
「うああぁぁぁあああ!」
いきなりルイーセとドロシーの亡骸に走り寄る幹宏
「待て! 幹宏! 触るな!!」
幹宏の鎧の襟を掴んで引き倒す照夫、そして亡骸の前に座り、状況をあらため始めた。
「傷口は、、二人とも背中から1刺し、、剣や刀じゃない、杭? もしくは円錐状の槍か、、体を貫通、一撃で心臓と肺を焼き尽くされている、、炎属性の武器か?、、」
「なんでだよぉ〜、なんでお前、こんな時も冷静なんだよぉ〜、照夫ぉ〜」
「……こんな時だからだ!」
「え?」
地面に両手をついて這いつくばりながら号泣し尋ねる幹宏に、照夫が答える、
「仇、とりたくねぇのか! もうどんな蘇生魔法もきかねぇのわかんだろ!
ぜってぇ! ぜってぇやった奴を見つけ出すんだ!」
そう言って涙を堪えて真っ赤になった目で幹宏を見据える照夫、
「うぁぁああああ〜〜!!」
幹宏は検死を続ける照夫の隣で地面に額を擦り付けて泣くことしかできなかった。
「照夫、、グスッ、あっちにメイリさんが、、ヒック、、」
「…わかった、今行く」
花蓮の様子にメイリの命運を知り、立ち上がる照夫、
「幹宏、もういい、2人を連れてきてやってくれ」
「うぁぁああああ〜!!」
2人の亡骸に走り寄り、抱きかかえるように両手を広げて地面を掴む幹宏、辺りにはその慟哭が響き渡っていた。
「…照夫、メイリ、さんが、、」
「っ!!」
先に着いていた咲夜が放心したような瞳を照夫に向ける。メイリは、、両手をカカシのように広げながら、全身を貫く十数本の槍で立ったまま亡くなっていた。
「メイリさん、、、よく頑張ったね、もう立ち続けなくっていいよ、、咲夜、手伝ってくれ、、」
「ゔん、グスッ、、」
「花蓮、俺たちが槍を抜くまで、索敵を頼む、、」
「グスッ、、メイリさん、ルイーセちゃんとドロシーちゃんを庇おうとして、、」
「花蓮、、」
「わがった、、」
花蓮は木の上へと登り、再び索敵を始めた。
アドリアの遺体はすぐに見つかった。上半身が村の前の草むらの中に打ち捨てられていたのを浩二が見つけ出したのだ。その表情は裂帛の気合いを入れた一撃のままの険しい顔であり、肩から剣先までは一直線に伸びたままだった。
「アドリアさん、、戦ったのか、、」
「グスッ、、村には、誰もいないみたい。遺体はアドリアさん達だけだよ、
あと、敵は、、蹄の跡で観ると騎馬が数十、揃いの靴の歩兵も百名規模、、まるで軍隊のよう。アドリアさん達はこいつらに、、やられたのかな、、」
「花蓮、、調べてくれてありがとう」
(死体が無いとすると、、軍による奴隷狩りか? でも軍隊がわざわざこんな村まで? なぜアドリアさん達だけ殺した? わからないことが多すぎるが、、でもアドリアさん達の殺害にこの軍が関わってそうなことはわかった、、)
「もう、、埋葬してやろう、、」
「ゔん、グスッ」「ああ、、」「そうだね」
シベハス達と協力して村の外に穴を掘り、四人の遺体を埋葬する。アドリアとメイリの間にルイーセとドロシーを並べ、そして、、
「マカロン、焼いてきたんだぞ、、お前達の好きなピンク色のマカロンだよ」
ボロボロと大粒の涙をこぼしながら、穴の中へ手を伸ばし、ルイーセとドロシーの口元にマカロンを置く幹宏。皆はその姿を見て涙を堪えられなくなる。
その時、アドリアの握っていたサーベルと幹宏の大剣が磁石のように引き合い、コツッと音を立ててくっついた。不思議な事に、埋葬前にどれほど剣を取ろうとしても解けなかったアドリアの指がパラリと解け、持ち上がっていた腕が力を失ったようにポトリと穴の中へと落ちていった。
「え?」
幹宏は少し驚き、大剣にくっついたアドリアのサーベルを取ろうとするが、離れようとしない。
「わかった、アドリアさん、一緒に戦おう、、」
幹宏が言うと、、
ズグググググ、、
幹宏の鉄塊のような大剣の中にサーベルが飲み込まれていく!
「幹宏!」
「大丈夫だ照夫、きっと、、」
「…何か違和感があったらすぐ言えよ、、」
「ああ、わかってる、、」
「お前達! 何をやっている! どこのものだ!!」
アドリア達の亡骸に土をかけ、もう少しで埋葬が終わる頃、いきなり十数名の兵が現れ、誰何をしてきた!
「やったのはこいつらか?」
「ああ、この紋章、エオリアで習ったね。サウザーラ軍の1つだよ」
「どうする? 照夫? 斬るか?」
「黒魔法で燃やす?」
「いや、待、」
「テメェらぁぁああ! うぉぉぉおおおお!!」
照夫達がメンバーを止めようとする前に、幹宏は大剣を振りかざしてサウザーラ兵達へと突っ込んで行った。
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