60 祭りの後
「つぎは食後のデザートにゃん!」
「「でざーと?」」
「パティシエの勇者さんが作ってくれる、とっても甘くて美味しい食べ物のことにゃん!」
「花の蜜や蜂蜜みたいに甘いの?」
「そうにゃん! 甘いだけじゃなくって、複雑な味でとっても美味しいにゃん!」
「「でざーと! でざーと!」」
「あらあら、、この子達ったら」
スイーツ屋台へとアドリア一家を連れて行ったミーシャは、屋台のカウンター越しに幹宏に声をかける。
「ミキヒロさん! この子達に美味しいの出してあげてほしいにゃん!」
「お、ミーシャちゃん、お客さん連れて来てくれたのか、ありがとう! ちょうど今美味しいのできあがったところさ」
そう言って出してきた銀色に輝く大きなトレーの上には、、
「うわー!!」「キレー!!」
色とりどりの小さな果実が溢れるほど乗せられた、沢山の小さなお菓子が並んでいた。
「ワッフル生地でカップを作りクリームを入れてフルーツをたっぷりのせ、ナパージュでキラキラにしたら、はい完成! ミキヒロ風ひとくちフルーツタルトさ!」
幹宏の姿を見て、あっという間に群がってくる子供達、
「うわー!」「すげえ、さすがぱてしえの勇者!」
「パネェっすミキヒロのアニキ!」
「ミキヒロしゃまけっこんして〜!」
この祭りの一日でパティシエの勇者は子供達の間でとんでもない人気者になっていた。
「はっはっは、まてまてお前達、今来たばかりのお客さんが先だ」
そう言ってルイーセとドロシーに優しい視線を向ける幹宏。
「僕はパティシエの幹宏、お嬢ちゃん達は?」
「ルイーセ、、」「ドロシーです、、」
「そっか、ルイーセちゃんとドロシーちゃんか! はい、1つ取って一口で食べてね」
差し出されたトレーの上にある、色とりどりのフルーツが乗ったタルトにおそるおそる手を伸ばすルイーセとドロシー、
そして言われた通りパクッと一口で食べると、
「ん〜〜!」「ん〜ん〜!!」
ほっぺを抑えて言葉にならない声を上げる二人。
「はっはっは、君らもどうぞ。一個ずつだぞ」
「「「いただきまーす!」」」
子供達が銀色のトレーに群がり、沢山あったフルーツタルトがあっという間に無くなる。
「ミキヒロさんってすごい〜」「うん、すごいね〜」
ルイーセとドロシーの二人も他の子供達と同じようにすっかりミキヒロのスイーツに魅せられ、魔法のようなミキヒロの仕事を屋台にかぶりついて見るようになるのだった。
◇◆◇◆◇
やがて日も傾き、夕暮れで空が真っ赤になったころ、、俺は社殿の正面に立ち、みんなに声を掛ける。
「みんな、そろそろ日が沈む。青龍様、朱雀様、白虎様、玄武様がお帰りになられるそうだ。この地を守ってくださっていることに感謝をし、お見送りをしよう」
俺がそう言うと、神社の周りにいる皆が社殿の方を向いて腰を折り礼をする。
「うむ、太郎! そして皆の者! 大儀であった!!」
青龍様がねぎらいの言葉をかけた後、空を走る落雷と共に神界へと戻っていかれた。
…青龍様が空けたワインの空樽、すごい数になっているな、、
早くお酒をラフェリアで生産できるようにならんと、、
「馳走になったぞ、この数百年、妾をここまで楽しませてくれたのはお主だけじゃ。太郎、大儀である」
朱雀様が穏やかに話され、赤い閃光と共に戻っていかれた。
それにしても、、食ったな朱雀様、干し肉がトン単位で消えたんじゃないだろうか、、
あの長身でスレンダーな体のどこにあれだけの肉が消えたんだろう?
「よう太郎、楽しかったぞ! それから幹宏! おまえのすいーつ、うまかった! たまにお供えしてくれ!!」
ピンクの愛らしい肉球を見せながら白虎様がバイバイをして一陣の風と共に戻っていかれた。
白虎様はすっかり幹宏のスイーツの虜になったようだ、、まあ見た目は獣人の可愛らしい少女だしな。
でも聞いたところによると、四神の中では物理攻撃と地を駆ける速さはピカイチらしい、、
昔のやんちゃ話はシャレにならなかった、、
青龍様とのケンカで爪斬撃の余波が飛び島が二つに分かれたとか、『風雪』を発動しながら駆け抜けた北の大地は未だに生き物が住めないブリザードが吹き荒れる極寒の地だとか、、
「太郎よ、、」
玄武様だ、皆が帰った後だからなのか、威厳とか威圧とかは全くなくなり、ただの一人のおじいちゃんじゃないか? といった感じになっている。
「はい、玄武様」
「感謝するぞ、よき祭りであった。太郎が神主で本当に良かった、、」
「玄武様、私が今日までこうしてこの世界で生きてこられたのも玄武様のおかげです。感謝してもしきれません」
玄武様の手を両手で取って感謝の意を伝える。
おじいちゃんがいたらこんな感じなのかな?
俺は日本ではクソ親父と二人暮らしだったから、、
「太郎よ、太郎とこの地を、我らは見守っておるぞ、困ったことがあれば祈りなさい。我らは、、いつでも、、、」
そう言いながら玄武様はすうっと消えるように神界へと戻っていかれた。
次はもっといい祭りにしよう、もっと喜んでもらおう、そんなことを考えながら、ぼんやりと四神が消えた社殿の中の虚空を見つめていた。
◇◆◇◆◇
翌朝、、
俺たちは第2城壁の南門まで来ていた。
たれ耳兎獣人のアドリアさんとその家族を見送るためだ。アドリアさんたちには祭りを楽しんでもらったあとラフェリアに一泊してもらった。
アドリアさんたちは自分の住んでいる村の住人をこのラフェリアへ移住させるべく、一旦家族でホラン村へと帰ることになっている。
「タロー様、ありがとうございました、ラフェリアは私たちにとって夢のような町でした。村のみんなに話をいたしますので移住の受け入れ、よろしくおねがいします」
アドリアさんはそう言って妻のメイリさんとともに深々と頭を下げる。
「うん、村の皆さんが来るの、待ってるよ。アドリアさん、帰りの道中は大丈夫? なんならうちから何人かつけるけど、、」
「いえいえ、そこまでお手を煩わせるわけには。それにこう見えても村では一番の剣士を名乗ってまして、ここに来るまでの旅もこいつで魔獣を退治しながらでしたから」
そう言って腰に差した2本のサーベルをポンポンと叩くアドリアさん。
確かにアドリアさんのレベルは結構高めで30を超えていた。よくはわからんが剣術のスキルもたくさん持っているようだ。
「そうですか、では2日後、移住の手伝いのための人員を出発させますから、」
「タロー陛下、、、何から何までありがとうございます。
ラフェリアに戻って来ましたら、村の移住が叶いましたら、、是非ともタロー陛下に私の剣を捧げさせていただくことをお許しいただきたく」
「…わかった、アドリア。待っているよ」
「はっ」
「これ、、道中で食べてください」
隣りでは幹宏がメイリさんに何かバスケットの様なものを渡していた。
「まあ、ありがとうございます!」
「え? 勇者さまから~?」「なになに~?」
横から背伸びして鼻をひくひくさせながらのぞき込むルイーセとドロシーの姉妹
メイリさんが困ったように幹宏を見ると、
「中身は焼き立てのパンとクッキーだよ。開けると食べたくなっちゃうから、お昼まで我慢しようか」
「わあー!」「ぱてしえの勇者さまのクッキー!」
きらきらした瞳で幹宏を見上げるルイーセとドロシー
…なんだこのイケメン、こいつこんなだったか?
「では、皆さん本当にお世話になりました!」
そう言って頭を下げるアドリアさん。でもこっちを向いたままなかなか背中を見せようとしない。
あ、、そうか
「じゃあ気をつけて、ラフェリアに来るのを楽しみにしてるよ」
そういって俺は背を向け、門の内側へと入って身を隠す。
「気をつけてなー」「待ってるぜー」
「皆さんありがとうございました~」「「ぱてしえの勇者様またねー」」
アドリアさんたちを見送るみんなの声が聞こえる。声の様子から、アドリアさんたちがだんだんと遠ざかるのを感じた。
陛下とやらを演じるのも大変だなぁ
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