53 条約
「ん? 御使者殿、どうかされましたか?」
俺は跪いたまま、目と口を大きく開いて固まる使者に声をかけた。
「ぷっ、」
あ、柳田のやつ吹き出しやがったな。尾崎くんも跪いたままマントで口を隠してプルプル震えてる。
ニャロ、こういうのが似合わないのは百も承知なんだよ、、、
「あ、は、はい、すみません。私はエオリア王国の外相、カルロンと申します。タロウ陛下への御目通りが叶い、誠に嬉しく思っております」
そうしてまた深々と頭を下げたまま固まる使者。
◇◆◇◆◇
か、考えがまとまらない。
今まで外相をやってきて何人もの国家元首に謁見を賜ってきたがこんな事は初めてだ。
そ、そうだ、親書、オーリ8世からの親書を、、、
「我が国の国王、オーリ8世より親書を預かって参りました。親書を取り出すことをお許しください」
こういった場では、懐やカバンにいきなり手を突っ込むと、武器を取り出すと見られていきなり斬首されても仕方がない。そのため必ず許可を得るのだが、
「うん、いいよ」
あっさりとタロウ陛下は承諾された。だが周りの兵士達に緊張が走るのを感じる。なるべくゆっくりと、自然に親書を取り出す。
「こちらにございます」
両手で恭しく親書を差し出す。
「カルロンさん、読んで」
「は?」
「いや、だからオーリ8世からの親書でしょ? 読んで」
「い、いや、あ、はい、読ませていただきます。『親愛なる友人、タロウタナカへ、、』」
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親愛なる友人タロウタナカへ、
この度はエオリア王国の危機を救っていただいたこと、誠に感謝する。
また、今回、タロウ殿、シズク殿に多大なる迷惑をかけた事、深くお詫びする。
感謝とお詫びの品を、使者に預けてあるので後ほど目録とともに受け取ってほしい。
また、エオリア王国国王として以下の3つの提案をさせていただきたい。
1つ 貴国の領土について
魔獣の森に接したエオリア王国最南端の村と、貴国の白亜の城の中間点を国境とする事を提案したい。具体的な国境線は後ほど決めたい。
2つ 貴国との貿易について
エオリア王国と貴国で関税のない自由な貿易を行う事を提案したい。こちらも詳細は後ほど決めさせていただきたい。
3つ 貴国との不可侵条約について
エオリア王国と貴国の間で戦争を行わないための不可侵条約を締結する事を提案する。
エオリア王国と貴国の友情が永遠に続くことを願う。
エオリア王国 国王 オーリ8世
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……って、ええーー!! なに国として認めちゃってんの!
しかも領土渡すって何考えてんの、あの8は!!
いや魔獣の森はエオリア王国で実効支配出来てないけど、南のサウザーラと取り合ってる最中でしょ?!
むむ、、それとも陛下には何か考えがあるのか?
◇◆◇◆◇
「どう思う? シュタイナー、グリューン、ディンガンド」
俺は3人の長老に聞いてみた。
「随分と親しげに書かれておりますが、、条件が良すぎるかと。裏があるかと思うほどに」
グリューンは条件の良さを疑っているようだ。
「うむ、、まるで殿に借りがあるような、、王にしては譲歩が過ぎるように思われる。オーリ8世と何かあったので?」
鋭いな、ディンガンド
「ああ、今回の戦いの中で、エオリアの王様とその騎士が魔獣の大群に襲われていてな、ちょっと助太刀した」
「ブホッ! 聞いた? 勇者タク?
ランクAからBの魔獣を数百匹殲滅して王様と騎士団を救った事が『ちょっと』だって」
「いやあ、実に謙虚な陛下ですねぇ勇者ユミ、
傲慢なエオリアの騎士なら『将軍か大臣にしろ』とか言うところですよ」
そこの勇者二人!
内緒話のフリして聞こえるように言ってるだろ!
「まあ、良い条件だと思います。検討の価値はあるかと」
シュタイナーもOK派か
「うん、じゃあカルロンさん、1と2はエオリアとうちで検討していきましょう。
でも3の『不可侵条約』は保留で」
「「「「!!!」」」」
うちの連中も使者たちも、全員が俺の言葉に唖然とする。
なぜなら『戦争するぞ』と言っているようにも聞こえるからだ。
「陛下、、ここは不可侵条約を結んで置くべきでは?」
シュタイナーがこちらを見上げて静かに聞いてきた。
「なんで? エオリアは純人族以外に対する奴隷制度があるんだろ?
もしお前達がある日突然奴隷として囚われたら、俺は戦ってでも取り戻すぞ。
さらにもし、お前達の家族や仲間が今エオリアに囚われていたら、それも対象だ。
奴隷狩りは合法、取り戻すための戦は条約違反、なぞとは言わせんよ」
「へ、陛下!」「なんと、、」
「あー、カルロンさん、オーリ8世に伝えてくれ。犯罪奴隷ならともかく、罪もない人達を捕まえて奴隷とする限りは、うちと不可侵条約は結べないってね。御覧の通り、純人族以外が多いんだ、うちは」
「…承知致しました」
「でも、だからといって戦争したいわけじゃないんだよ。エオリアとはできる限り仲良くしたいんだ。そこをうまく伝えてくれないかな?」
「承知いたしました、タロウ陛下のお気持ち、お伝えします」
「ああ、頼むよ、カルロンさん」
「カルロンさん、そっちの話は終わった?」
「は、はい、勇者ユミ殿」
「じゃあ次はあたしね、タロちゃん、これ返すね。これのおかげでタロちゃん呼べたし助かったよ」
そう言って拳大の赤輝石を渡してくる柳田。
「ん、そうか、役に立って何よりだ」
赤輝石を見るカルロンの目が大きく見開かれている。やはり価値のあるものか。
そうだな、、
「カルロンさん、教えてくれ、俺に領土を切り渡したオーリ8世の立場はどうなる?」
「そ、それは、、領土を渡した上に不可侵条約を結べず、、非常に危うい立場となられます、、」
「そうか、、じゃあ民衆を救うために未開の地を俺に売った事にしようか。この赤輝石と、あと白の輝石を100個、オーリ8世に贈るよ。
そして3番目の代案として『対魔獣の共闘に関する条約』を提案しよう。
白の輝石は売っぱらって今回の避難民の生活再建のため、赤輝石は『対魔獣の共闘に関する条約』の証として、それでどうだい?」
「は、はい、対価としては充分すぎるほどかと。それであればオーリ8世陛下は民衆の支持を得られるでしょう。タロウ陛下のご提案を必ずお伝え致します」
「はあ、優しいねぇタロちゃん」
柳田がため息をつきながら言ってくる。
「ん? 俺としてもオーリ8世のような王様は嫌いじゃないしな。失脚されてウルミのような奴が王になったら大迷惑だ」
「確かに」
「さて、カルロンさん、以上でよろしいかな?」
「はい、本日はありがとうございました」
「うん、こちらも有意義な話が出来てよかったよ。オーリ8世によろしく伝えておいて」
「承知いたしました。オーリ8世陛下もお喜びになられるでしょう」
「雫、」
「はい」
「カルロンさんたちに城内を案内してやって、俺は一仕事あるから1時間ほどかけてゆっくりね」
「はい、了解しました太郎さん」
さて、、その間に俺は久しぶりに本気でガテンしますか、、
◇◆◇◆◇
…1時間後
「シズク様、素晴らしい城ですな、ご案内、ありがとうございました」
「いえいえ、カルロン様、どういたしまして」
「ふー、堪能した、、
ずっとここにいたーい!」
「由美ちゃんはしゃぎすぎ、猫の子たちがなついてくれたからよかったけど、、」
「モフモフランド最高!!」
「変な国名つけないで!」
「そう言えばこの城や国の名前、なんていうんですかねぇ?」
「「「「……」」」」
尾崎の質問に黙りこくる雫と長老たち
「え? まさかまだ」
「しょうがないじゃない、太郎さんがまだその気になっていなかったんだもん」
「今夜ベッドでおねだりしたら?
『ねぇ、あなた、この国に名前をつけて』
『ああ、わかったよ雫、君を抱きながらゆっくり考えるさ』
『ああっ、太郎さん!』」
バゴン!!
一人芝居をしていた柳田由美は、雫のネコパンチで城内の端まで吹っ飛んでいった。
そこへ一仕事終えて汗だくになった太郎が、スコップを肩に担いで現れる。
「お、みんな見学終わったか。あれ? 柳田は?」
「あっちの端にいるんでちょっと回収してきますねぇ」
「あ、ああ、尾崎君頼むよ」
そしてエオリアからの使者が帰る時間になり、太郎と雫は城の外まで見送りに出た。
「尾崎君、、これ」
そう言って太郎が皮の袋を渡す。
「え? なんですか?」
尾崎が皮の袋を開くと、、
そこには数枚の銀貨と銅貨や鉄貨が入っていた。
「ごめん、銀貨20枚にはまだ足りないけど、、
残りはまた返しに行くから、、」
「君は、、、あれだけ僕たちを救っておきながら、、」
尾崎は袋をギュッと握りしめた後、顔をそらしながら腕を伸ばして硬貨の入った革袋を太郎に突っ返した。
「これは、、まだ君が預かっていてください。田中君には貸しを作ったままにしておきたい、、」
「うん、わかったよ、尾崎君。ありがとう借りておくよ、じゃあまた」
「……うん、また、、太郎君」
「ああ、またな、タク」
目深にフードを被った尾崎は、太郎に顔を見せないようにしたままエオリアのある北へと歩いて行った。
「お、おまちください、勇者タクヤ殿!
それではタロウ陛下、これにて失礼いたします!」
自分たちを守る尾崎に置いて行かれては大変と、カルロンたちが駆けだす。
「ん~青春だねぇ、この男たらし」
「なんだよそれ」
「あ、雫も落とされたからこの場合は、、男女たらし?」
「訳わかんねーよ、じゃあ気をつけて帰れよ」
「ん、わかった、ありがとタロちゃん。雫、またね」
「うん、またね、由美ちゃん」
そう言葉を交わした後、柳田はエオリアの一行を追いかけていった。
城の南門をでて北のエオリアへと帰るべく、城壁沿いに北側へ出た一行は唖然として固まっていた。
「うわあ、なにこれ、、、1時間のあいだにしてた仕事って、、これ?」
「な、なんと! 幅は10メルタほどか?! 馬車が余裕を持ってすれ違える幅だぞ。いったいどこまで続いているのだ!」
一行の目の前には、、魔獣の森を切り分けたかのように真っ白な一本の道が出来ていた。
幅は10メルタ、遠くに見える都市、エオリアまでまっすぐ伸びている。
一行の旅が少しでも楽になるようにと、わずか1時間ほどの間に、太郎はガテンスキルを全開にしてエオリアまでの18キロメルタの内、半分ほどの距離までに道を作り舗装までしたのだ。
「……太郎君、ありがとう、、またくるよ」
やっとフードをとることが出来た尾崎は、真っ白な城を見上げてつぶやいた。
お読みいただきありがとうございます。




