26 愚鈍なる王
新章(?)突入です
リャントウとの商談から数日後のある晴れた日の午後、
「シウバ兄さん、東の街道がへんなの」
ターニャはいつもの見張り台で異変を感じ取っていた。
「どうした、ターニャ?
おや、なんだあの土煙は? 北へ向かう馬車と、、それを囲む騎馬隊? 早いな、なんであんなに急いでいるんだ? キラキラ光っているのは鎧なのかな?」
「ちがうの、そっちなんかより、もうちょっとみなみ、なんかへんな気配、、」
「……本当だ、、なんかきな臭い、、え? なんだあの木よりデカイ魔獣は、、大変だ! タロウ兄さんに報告だ!」
◇◆◇◆◇
「スタンピードの兆候ですって?」
シウバとターニャが異変を察知する三日前の日の朝、エオリアの王城にて王女アリシアは、騎士から報告を受け真っ青になっていた。
「はい! 冒険者ギルドから、エオリアの東方25キロメルタにある、ダンジョン『地竜の咆哮』から魔獣が出てきつつあるという報告がありました! 今はランクF.Eの魔物が恐慌状態になって出てきている状態です!」
「くっ、数十年から数百年単位で起きるスタンピードがここで起きるなんて、、騎士団と勇者たちの集合を! 文官は周辺の村や町の避難状況をまとめ、報告を!」
「ははっ!!」
エオリア王国ではここ100年ばかりスタンピードなどの大きな脅威は発生していなかったがこれに備えていないわけではなかった。騎士団やエオリア王軍は連携し、この日のために築き上げてきた強固な城壁の中へ、付近の村や町の住民の受け入れを開始した。
エオリア王国 国王オーリ8世は『愚鈍なる王』とバカにされ続けてきた。彼は会議の場でも強く意見を言えず、家臣達の意見が割れて言い争う場面でも「あー」とか「うー」とか喋るのみで、いつも決断をすることが出来ずにいた。特に彼の娘、第一王女アリシアと第三王女ウルミの仲は極めて悪く、会議の場でいつも意見が食い違い口論を始める二人に対してオロオロになるだけで仲裁すら出来ない、そのため、『愚鈍なる王』などという極めて不名誉な陰口を叩かれ、民の間でも、なかなか決断できない人に対しては「お前は8(はち)か?!」などと喩えられるほどであった。
だが、この日の彼は違った。
王族と官僚たち、冒険者ギルドのギルマスと言った関係者が、エオリアの王城の会議室に集まりスタンピード対策会議を始めていた。兵や冒険者達によって次々と情報が舞い込んでくる。
「ダンジョンのある東部23村のうち、15村は城内への避難が完了しました!」
「北部は2町36村の状況を確認中です!」
「同じく西部の3町18村も確認中!」
「南部は近くの3村のみのため、避難は完了しました!」
「北部のうち、もっとも東側にある町、ノルエスの避難が間に合わない可能性、大!!」
「何ですって! すぐに騎士団を派遣しなければ!」
兵の報告に青いドレス鎧を身につけた、金髪碧眼の王女アリシアがすぐに動こうとするが、それを制する者がいた。
「お待ちください、アリシア姉様、それは戦力を無駄に裂く愚策ですわ。ノルエスは東北部奥にある町、確かにこの町の税収が無くなるのは痛いですが、このエオリア王国が体制を整える時間を稼ぐための盾となってもらうのが上策ですわ」
白いドレスに金のプレートを貼り付けたドレス鎧を身につけた少女だ。
「何ですって! ウルミ、あんた数千人の戦えない人達を盾にする気?!」
「それが間違ってますわ、その気になれば、棒でもクワでも包丁でも持って戦えばいいのです。死に物狂いで戦えば、彼らでもきっと戦果を挙げられますわ。そして彼らの頑張りは、その時間でこのウルミが策を練り魔獣達を粉砕することで報われるのですわ」
「ウルミ、、あんたねぇ、あんたの得意なボードゲームの駒と人間を一緒にしてんじゃないわよ!!」
「あらあら、アリシア姉様、一度も私に勝てたことが無いからって、、それに戦略、戦術が出来なくては兵も動かせませんし、民も救えませんわ」
「あんたのやり方のどこが、民を救うなんて言えるのよ!!」
「10が全て死にたえるより、2を盾にして8を救う方を選ぶのが、当然の選択ではなくて? そうでしょ? お父様?」
「お父様!!」
娘二人に詰め寄られ、いつものようにオロオロになる、、かと思われたオーリ8世であったが、彼は一度硬く目を瞑った後、ゆっくりと開き、優しく穏やかな声で娘たちに語りかけた。
「……もう良い、娘達よ、、ワシはお前達が言い争い傷つく事が嫌であった。どちらかを選ぶことによって、もう片方が傷つく事が嫌であったのじゃ、、だが、今日は違う。」
いつもと違う父の様子に、二人の動きが止まる。
「ワシはのう、、お前達が大事なように、この国の民もとても大事に思っておる。ワシは一人でも多くの民を救いたいのじゃ、、ウルミよ、、」
「は、はい、 お父様、」
「お前の策が戦略的に正しい、採用しよう」
「あ、ありがとうございます! お父様!!」
「お父様!!」
喜色を浮かべるウルミと、咎めるような声で叫ぶアリシア
「じゃが、お前の策にある『盾となる2』を担うのはノルエスの民では無い! このワシじゃ!! ガイストス!!」
「はっ!!」
「ワシの親衛隊に所属する騎士のみ集めよ! 民の避難の殿となるべく、わしと共にノルエスへと向かう!!」
「ははっ!」
「すまんな、ワシに付きおうてくれ、この王都にも兵を残していかねばならぬしのう」
「何を仰いますか! 陛下と共に出陣出来るなど、この上なき誉れ!」
「それから、アリシア」
「はい、お父様」
「お前に全てを託す、一人でも多くの民を救え、良いな」
そう言ってきらびやかな短い杖を渡すオーリ8世
「え、王笏を、、」
「全員、これよりアリシアの指揮下へ入れ! よいな!!」
「「「「ははーっ!!」」」」
「王様、僕たちも行きます!」
ガイストスを従え会議場を後にしようとするオーリ8世に、白銀の鎧をつけ、大剣を腰に下げた少年が話しかける。
「おお、シュン殿! 勇者の諸君がいてくれればこれほど心強い事はない、が虎の子の勇者諸君はどうかアリシアの側に居てやってはくれぬか? じつは、、ここだけの話、、」
神田俊介の耳元に口を持っていくオーリ8世
「??」
「あの娘をよろしく頼む、そなたに惚れとるようでの」
「え?」
「そなた達の晴れ姿と孫を見れんのが心残りじゃ! ではの!」
そう言ってオーリ8世は去っていった。
「あの御仁、死なせるには惜しいですねぇ」
神田の後ろの柱の影から尾崎拓也がすうっと現れる。尾崎は黒いマントで全身を包んでいるが、マントの上からでもわかるほど、スラっとしたシャープな体つきになっていた。
「っ! 死なせるかよ!」
「じゃあ、あたしが行こうか?」
「しょうがねぇなぁ、リーダーのシュンが行けないんなら俺が行くかぁ!」
「俺もいくぜ、あの王様、気に入った」
「そうだな、、5、6人は行ってもいいんじゃないか?」
「じゃああたしも!」
「由美はダメでしょ、雫を守んなきゃ」
「う、、そっか、、」
「よし、俺と浩二と照夫、それに咲夜と花蓮の5名ってところか」
「……絶対帰ってこいよ、幹宏、、」
「ああ、当然だシュン、、それから拓也、」
「何ですか? 澤田君?」
「オメーいまだによそよそしいんだよ、、みんなのこと、頼んだぜ、オメーがこの世界のこと一番分かってそうだからな。いつもみんなのことコソコソ影からサポートしやがって。バレバレなんだよ」
「そ、それはどうもスミマセン」
「というわけで頼んだぜ!」
「嫌です」
「はぁ?」
「死亡フラグになりそうなので頼まれません、さっさとボコられて、王様連れて無事逃げ帰ってきてください」
「ちぇ、そうかよ、じゃあ行ってくるぜ」
そう言ってトゲトゲしい鎧を着、肩にハンマーだか剣だかわからない鉄塊を担いだ澤田幹宏は他の4人の勇者と共に王城を後にした。
◇◆◇◆◇
「バンザイ!」「オーリ8世陛下、バンザイ!」「陛下! ご武運を!!」
オーリ8世出陣の報とその決意の話は瞬く間に王都中を駆け巡り、王城から王都を出るまでの道の左右は人で埋め尽くされた。彼らは知ったのだ、オーリ8世の優柔不断さは、他者への深い優しさから来ていたことを。彼らはオーリ8世に対する自分たちの認識が今まで間違って居たことを反省し、自分たちの為に先陣を切って最前線に立とうとする王を讃える為に出てきたのだった。
「すまんな、勇者諸君」
沿道に手を振りながら幹宏たちに話しかけるオーリ8世
「いいって事よ、その為に俺たちを呼んだんだろ?」
「諸君らを呼んだ、我が娘アリシアの罪を、、どうか、」
「いいよ、許すよ」
腰に銀色の筒を下げ、茶色の男物の和服を着込んだ咲夜が答える。
「王様もお父さんなんだね、それに王様としても立派、立派、」
そう話すのは背中に日本刀を背負い、腰に色々と怪しげな袋を下げ、黒い短めの着物の下に鎖帷子を着込んだ花蓮、いわゆるクノイチというやつである。
「そなたら、、ありがとう、」
オーリ8世の率いる親衛隊の騎士40名と勇者5名はノルエスの民を救うべく、北東へと進んで行った。
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