25 商談です
城内の朝は早い。
朝一番で俺のところへ各村の長達が集まってきて、今日一日何をするかのミーティングが開かれる。
「おはよう、みんな」
「おはようございます、 陛下!」
エルフ族の長老、グリューンだ。真っ白な髪をオールバックにしたイケメンじいちゃんだ。片膝をつき、慇懃に礼をしながら挨拶をしてくる。年は数百歳で、もう覚えてもいないらしい。やめてと言っても、陛下と呼ぶのはやめてくれない、、かなりボケが進んでいるのかな、このおじいちゃん
「おはようございます! 殿!」
両手をクロスさせた状態からガッと開き、押忍! のような挨拶をしてくるドワーフ族の長老、ディンガンド、ヒゲモジャずんぐりむっくりのバイキングのようなおっちゃんだ。このおっちゃんも、殿と呼ぶのやめろと言ってもガハハと笑い飛ばしてやめてくれない
「おはようございます、タロウ様」
普通に挨拶をしてくる犬獣人の長、シュタイナー、うん、長の挨拶が一番落ち着くよ
「ふにゃあー、おはようにゃあー、、ご主人しゃみゃ、ぁ、」
おきなさい、猫獣人代表の三毛猫少女、ミーシャ
「みんなそろったようだし、朝ミーティングを始めようか。まずは昨日の報告からよろしく」
◇◆◇◆◇
「では、今日の採取班はこの15名ということで、ミーシャ、お願いしますよ」
「了解にゃん、グリューンさん」
「一応こちらからも見守ってはいるが、展望台から見えなくなるところへ行く時は気をつけろよ」
「了解にゃん、ご主人さま」
「……そのご主人様はなんとかならない?」
「だめにゃん?」
「……いいよ、好きにしな、、」
見上げながら首を傾げる姿が可愛かったので許してしまった、、
採取と狩りに出かける者、城に残って建築や鍛治に従事する者、城の見張りや門を守る者、それぞれに分かれて1日が始まる。
貧しいながらもみんな楽しく暮らしてる。場内はまだまだ土地があるので、日当たりのいいところは耕して畑にし、種芋や、野生麦の良さそうな種などを蒔いてみた。
城壁の南門は、ドワーフ達が金具を作ってくれ、俺が丸太を角材に切り出して組み、観音開きの立派な城門を作ることができた。
昼間、『四神神社』の建築についてドワーフ達とうちあわせていると、展望台で見張りをしていたシウバが走ってきた。
「タロウ兄さん! 人間が一人近づいてくる!」
「人間?」
「うん、冒険者みたいな格好の人だ! 南の森の中を真っ直ぐにこっちへ向かっている!」
「そうか、わかった、報告ありがとう、
ガルドワンの隊はミーシャ達採取班の護衛に出ていたな。今日の南門の守備は?」
「シベハスを隊長とした隊です」
「そうか、攻撃されないかぎり、こちらからむやみに攻撃しないよう伝えろ、俺もすぐに行く」
「ははっ!」
◇◆◇◆◇
「おーい、だれかいないかー!」
白い城壁の門の前で大声を上げる、皮鎧を着て左右の腰に剣を下げた冒険者風の男
「お前は! あの時の冒険者!」
ハスキー犬の顔をした大柄な犬獣人が、兵を率いて門から出てきた
「いやいや、待て待て、今日は戦いに来たんじゃない。あんた達のあるじに会わせてくれないか? 腰ミノつけた兄さんだよ」
冒険者風の男は両手を上げて戦意がないことをアピールする。それを兵達は槍を突きつけて八方を囲んだ。
「冒険者よ、私はタロウ陛下にお仕えしているグリューンと申す。陛下が参られる前に、武装を解除せよ」
「わ、わかったから、ちょっと槍を少し下げてくれよ、、手も下ろせねえ」
「おかしな動きをするなよ、、、」
そう言って兵達は少しだけ槍を下げる。男は腰のベルトに手を回し、金具を外すと2本の剣がベルトごとガシャガシャ、と音を立てて落ちた。
「そのまま前へ5歩進め」
「へいへい」
男が前へ進むと、後ろにいた兵が剣を回収した。
「お、兄さん、俺の名前はリャントウ、冒険者だ。先日はすまんかった。まずは謝らせてくれ。」
俺が門から出ると、冒険者はいきなり親しげに話しかけてきた。
こいつ、俺を見てすぐに降参した若い二刀使いの冒険者だ。
「俺に謝ってもしょうがないだろ、ひどい目にあわされたのはうちの連中だからな」
「本当にすまんかった! 申し訳ない!」
そう言って四方に頭を下げるリャントウ
「なあ、兄さん、近づいて見るとすげえ城だなぁ、中も見せてくれよ」
図々しい奴だな、、
「……お前を場内には入れられん、お前達に目の前で親兄弟を殺された子供達が中にいるからな、冒険者の姿を見せるわけにはいかん」
「そ、それはすまんかった、、まさか猫獣人たちを縛り上げたあと、団長が大人全員を槍で突き殺すとは思わんかったんだよ、、ホント、すまん!」
「だから俺に謝っても意味はねーよ、で話って何だ? ここで聞かせろ」
「ああ、ちょっと長くなるから座るぜ」
そう言って護衛のシベハス達に槍を突きつけられたままの状態で地面にドッカと座るリャントウ、なかなか良い根性だ。
グリューンが目配せすると、控えていたエルフの少年が走ってきてササッと毛皮の敷物を俺の後ろに敷き、また元の位置へと素早く戻って片膝をついた。
なんかテレビのテニスの試合でこういう風にボールを拾う子供がいたな、、
俺も毛皮の上に座り、リャントウと相対する。
「なあ、ところで兄さん今レベル幾つなんだい?」
「それは教えられんね、ところでなんでお前だけあの時急に引いたんだ?」
「ああ、それは俺が『危機察知』のスキルを持っているからさ」
「危機察知?」
「ああ、自分が勝てなさそうなやばい敵を前にすると、ヘソのあたりがシクシク痛むんさ」
「へえ、便利なスキルだな」
「だろ? 兄さんを最初見た時、ボデーブロー食らったみたいな痛みを感じたのさ、なのにあいつら信じやがらねえから、全く。でも兄さんのレベルには興味があるんだけどなぁ、、どんぐらいの相手で、どんぐらい痛くなるか知りたくってね」
「レベルは教えてやらんが、そういやこの前、HPが1万を超えたよ」
「はあ? 1万オーバー?! ランクAの魔獣でもそんなにはねーぞ、それにギルドで聞いたけど、集積所で連中の一斉攻撃食らって無傷だったんだろ? その硬さで1万って、、」
「無傷じゃないぞ、『バーミリオンレイ』って魔法で3減った」
「……ランクBの魔獣を一撃で貫くバーミリオンレイで3って、、
はっはっは、乾いた笑いしか出てこねー
おーいエルフさん達、魔法詳しいだろ? この兄さんに自分がどんだけバケモンか教えてやってくれよ」
「貴様! 陛下をバケモノ呼ばわりするとは!」「貴様ぁ! 殿に向ってぇ!」
「あー、めんどくさいから静かにしろ、グリューン、ディンガンド」
「はっ 陛下!」「ははっ、殿!」
「で、何の用で来た? リャントウ」
「いや、それがさぁ、先日のギルドの依頼の件でなんだけど、他の連中は依頼失敗で少額の違約金で済んだんだが、俺一人だけ依頼放棄になっちゃってさぁ、」
「そりゃそーだろ」
「でね、ものすごい額の借金背負っちまって今月以内に払わんと奴隷落ちしちまうんだわ」
「落ちりゃいいじゃん、他人を奴隷狩りしてたやつがいまさら何言ってんだ?」
「ちょ、待ってくれよ、俺が悪かったって」
「それで? なんで俺に会いに来たんだ?」
「商談さ」
「商談?」
「兄さんのところで売り物になるようなものないかい? もしくは欲しいものは? 兄さん達、町には行きたくないだろ? 俺がサウザーラで売って、それで欲しいもの買って来てやるよ」
「へぇ、でピンハネでがっぽり儲ける、と」
「人聞きの悪い事言わないでくれよ! ちゃんと決められた手数料だけ貰うことにするからさ!」
「貴様など信用できるか!」「我らは日々の暮らしに満足しとる!」
横から口を挟んでくるグリューンとディンガンド、 うるさいな、、この二人、
……周りを見回してみる。欲しいもの、、
あった、
「おい、リャントウ」
「??」
パシッ! 小指の頭ほどの形の良い透き通った小石を放るとリャントウは片手で受け止めた。
「鑑定してみろ、それなら何が買える?」
「え? こ、これは?! 魔力通して見てもいいか?」
「いいぞ」
リャントウが魔力を通すと、小石は真っ白に輝いた。
「うわ、、なんて純度の高い輝石なんだ! 兄さん何買う気だ? 店ごと数件買えるぞ!」
「古着でいい、子供服を中心に女物、男物、下着までうちの連中のための服をありったけ買ってこい」
うちの連中、着た切り雀でボロボロの服だからなぁ、、食と住はなんとかしてやれても、衣はなんともならんかったし、、
「「「!!!」」」
「へ、陛下! 我らの物より陛下のお召し物を!」「と、殿! 殿ぉー!」「タロウ様はなんと慈悲深き方か、、我らの誠の王よ、」
オイオイ泣きながら跪く長老3人衆。
「いや、気に入った服があれば俺も着るし。まぁ買えるだけ買って来てくれ、余ったら、布や裁縫道具と日用品を頼む」
「わ、わかった、、それで、そのぉー、兄さん、俺の手間賃はどれぐらいいただいていいんでしょうかね?」
リャントウが両手をモミモミしながら聞いてくる。
「そうだな、、計算めんどくさいな、ほら、もう一個やる、こっちがお前の取り分だ」
そう言ってもう一つ輝石を投げてよこす。
「!! 一個丸々なんて! 借金返しても十分釣りが、、っていけねぇ! 流石にもらいすぎだぜ! それじゃ俺のプライドが、、」
俺は少しドスをきかせた声で、
「受け取れリャントウ、プライドごとお前を買収してやる。余った分はそれに見合う情報を持ってこい。俺とこの城のために働け」
そう威圧を込めて話すと、
「……受け取らせていただきます、、、」
リャントウは素直に受け取った。
「ああ、ところで猫獣人達を刺した団長ってのは槍と盾を持った鎧の戦士か?」
「あ、ああ」
「そいつ、今はどうしてる?」
「金かけて治癒魔法で体を治して、また一団率いて一仕事やるみたいだぜ、奴隷狩りと試し切りが趣味みたいな奴だよ」
「……そいつの行動の情報が入ったら輝石一個で買ってやる」
「ひっ、、」
俺の言葉に殺気を感じ、悲鳴をあげるリャントウ
「いけません! 陛下!」
「そうじゃ! 罠を張られたらどうするのじゃ、殿!!」
「罠? その時は、、サウザーラごと潰すだけさ、、、」
それを想像したら、、俺の体の中からなんだか黒いものが溢れてくる気がした。
「ちょ、ちょ、兄さん殺気押さえなって、あででで、、俺のスキル『危機察知』にゃキツイんだって!」
「あ、ああ、すまん」
「兄さんを敵に回すわけないだろ? なんの得にもなりゃしねぇし、そんな事したら殺気だけで即死しちまうよ、オレ」
「じゃあ兄さん、またな! 今度は品物たっぷり持って帰ってくるぜ!」
「そういやサウザーラからここまでどれだけかかったんだ?」
「2日できたぜ! この魔獣のうろつく森を30キロメルタ以上歩いてきたんだ、一人での移動にしては早いだろ!」
この世界の単位1メルタはほとんど1メートルと同じだった。ふむ、南へ30キロメートル行ったところにサウザーラがあるのか。
「そうか、、そういやサウザーラがどこにあるか知っておきたいな、、よし、送ってやろう、リャントウ!」
「へ?」
リャントウの背中に右手を回し、剣をぶら下げている太いベルトを掴むと、『安全帯』で一気に空中へ駆け上がる! 10歩も駆け上がれば、もう森林を見下ろす高さになる。そこから南へとまっすぐ向かい、高度を保ったまま速度を上げていく。
「ひいぃぃぃぃぃ!!」
俺の右側で宙づりになり、まるでウルト○マンのような格好で空中を進むリャントウ、
「おい、リャントウ、サウザーラの方角を指差せ!」
「は、ははは、はいいい!」
空中を駆けながらリャントウに指示を出す。
「ひえぇぇぇ、、そんなバカなぁぁあ、飛んでるーるるるサンダーホークぅををを追い越したぞぉぉぉ 今ぁぁぁ」
「あれがサウザーラか、、よし、この辺でいいな、なんだ15分ぐらいで着くじゃないか」
サウザーラの手前、2キロほどの地点で着地する。
「……兄さん、、この機動力と強さで世界征服できるんじゃないすか?」
「しねーよ、めんどくせぇ」
「ホントっすね? ホントっすね?!」
「くどい奴だな、やられたからやり返すだけで、基本的には好きな連中と笑って暮らしたいだけなんだよ、俺は!」
「はぁ、兄さんがバカみたいな善意の塊で出来ててホント救われたよ、この世界は、、」
魔獣:サンダーホーク
ランク:C
説明:矢よりも早く雷のように飛ぶ、攻撃力、防御力は低いが非常に素早く、捉えるのは困難
お読みいただきありがとうございます。




