12 ゴメンよ、もう置いてけぼりにしないから
うーん、なぜこうなった、、
犬少年達にイモをおすそ分けしようと思ったら、大人の犬人達に囲まれてしまった、、
「お前の仲間はあと何人いる!」
仲間なんていないやい、ボッチで悪かったな!
「ええと、、俺一人ですけど、、」
「嘘をつけ! こんなところまで一人で来れるわけがないだろう!」
こんなとこって、どんなとこだ? ここは?
「ボク、ウソツイテナイデス」
「白々しい! そのスコップをよこせ!」
ハスキー犬っぽい大柄な犬人が、俺が握っているスコップを取り上げようと柄を掴んだ瞬間、、
バリバリバリ!!
「ギャン!!」
スコップから赤い電気のようなものが走ったかと思うと、犬人はドズーンと大きな音を立ててひっくり返り気絶した。
「な、、貴様! 職業、魔道士か?!」
「いえ、ただの職業ガテン系ですけど、、」
「嘘をつけ! そうか、そのスコップは偽装した杖だな! その杖をゆっくりと地面に置け!!」
いえ、ホントにただの?スコップなんですが、、
3人ほど弓をひきしぼり始めたので、しょうがなくスコップを地面に置く。
「よし! そのまま歩け!!」
背中から槍で脅され、言われるがままに歩くと、、
ガラン! グワラン! クワン! カララン!
けたたましい音を立ててスコップが地面を擦りながら俺について来る!
カン! グワラン! ガララン!
犬人達はこの音が苦手なのか、両手を耳で塞ぎ始めた。尻尾もヘニョン、となっている。さっきのハスキー犬人の件もあってか、誰もスコップに手を出そうとしない。
「あのー、手で持っても良いですか?」
「……仕方ない、いいだろう、、」
俺がスコップを拾おうと手のひらを広げると、、スコップの方からヒュパッと手の中に入ってきた。
「そっか、ゴメンよ、悪かった、もう置いてけぼりにしないから」
そう言って砂を払ってやると、スコップからじんわりと暖かさを感じた。
「長を呼んで来る! この牢に入っていろ!!」
岩をくりぬいてその正面に鉄格子をはめた牢へ入るよう促される。
「へいへい」
まあ、この程度の岩、スコップの1すくいか2すくいで反対側に穴開けれそうだな、、夜を待って脱獄するか、、
牢の中に入っていてしばらくすると、、あの柴犬の兄妹がそーーっと物陰からこちらを伺っているのに気づいた。
「えーーっと、、ターニャちゃんだっけ? さっきはゴメンね、驚かせて」
ビクッとする、小さな柴犬の女の子、
「イモも、、全部僕が掘っちゃったんだ、ゴメン、だから返すよ」
そう言って『ネコ』からイモの袋を取り出し、大きめのイモを20個ほど鉄格子の外に手を伸ばして置く。
タタタ、と走り寄って来るターニャちゃん、
兄の方は一瞬呆然としていたが、そのあと慌てて走り寄って来た。
「ねえ、、おじちゃん、いいにんげんなの?」
「はは、おじちゃんはちょっと、、できればお兄さんと呼んでほしいなぁ、、いい人かどうかは分かんないや。でも君たちを傷つける気は無いよ、ホントだよ」
「…なあ、腰ミノのお兄さん、、なんで食べ物を分けてくれるんだ?」
「ん? ああ、イモの事か、あそこに生えていたイモは誰のもんでも無いからな、みんなで分け合えるならその方が良いに決まっている。あのイモを全部掘っちゃったあと、君たちが悲しむ姿を見て僕も悲しくなったんだよ、だから持って行っておくれよ」
「…ひょっとして、、おにーさん、わたしたちにイモをくれるためにつかまった?」
「はっはっは、捕まる気はなかったけどね」
「君たちのお母さん、病気なのかい?」
「うん、、おかあさん、、ねてるの、」
「…母さん、俺たちに食べさせるために自分は少ししか食べてなくって、、そこに病気になっちゃって、、薬草がたくさんあれば、、でもなかなか見つからなくって」
ん? 薬草?
「たくさんってどれくらいあれば良いんだ?」
「ええと、これぐらい、、」
そう言って小さな手で薬草の量を示す少年、だいたい2束ぐらいか、、
「あるぞ、薬草」
「え?」
「ほら、やるよ」
そう言って2束渡してやる。
「え? え? でも薬草って毒の草と似ていて採取が難しいって、、」
「俺、『鑑定』のスキル持っているからね、この村に鑑定持っている人がいたら確認してもらいなよ」
「お、長! 長が持っている! 見てもらって来る!」
薬草を抱えて走り出そうとする少年、
「シウバ、その必要はないわい」
そう言って一人の老犬人が現れた。
こ、これは、、シュナウザーだっけ? 灰色の毛並み、左右に垂れたヒゲ、まさに長って感じの犬人! ハマりすぎだろ!
「お、長! これ!」
「どれ、、うむ、ワシの鑑定したところ、間違いなく薬草の束じゃ、毒草は混じっておらんわい。良かったのう、シウバ、ターニャ」
「「うん!」」
「お前たちはそれを持って母のところへ行くのじゃ、ワシは客人に話があるのでのう」
「「ありがとー、おにーさん!」」
「ああ、またな」
両手でイモと薬草を抱えながら礼を言う兄妹に、手のひらをひらひらと振る。
「さて、先ほどの子供達とのやりとりは聞かせてもらったのだが、、客人、ヌシは何者じゃ?」
子供たちが去ると、急に長が真面目な顔で話しかけてきた。
「うーん、なんと言えば良いかな? 勇者として呼ばれたのに勇者に成れず、エオリア王国から追放された、のかな? それで森の中をさまよっていてあの子たちを見かけた、そんなところかな?」
カイン!
突如何かを弾いたような感じがした。目の前のシュナウザー犬人からの何かを弾いたような感覚だ。
「なんと! お許しくだされ、鑑定をさせて頂きましたが、、その、、客人の方が鑑定レベルが高いとは思いませんで、、」
「タロウだ」
「はい?」
「俺の名前はタロウ タナカだ、いいよ、見えるようにするからどうぞ」
そう言って長の鑑定を受け入れるようリラックスする。
「は、はい、失礼するのですじゃ、、」
タロウ タナカ
レベル38
職業:ガテン系
HP:813/813
MP:243/243
攻撃:B
防御:B
魔力:C
素早さ:B
ユニーク武器:スコップ(熟練度B)
スキル:鑑定B 弓術G ネコC 土魔法D
「な!!」
「ん? なんか変わったところはあったか?」
「い、いえ、、ステータスの高さに驚いただけですじゃ、、」
「そうか?」
「これ、牢番、すぐにタロウ殿をお出ししろ!」
「え? お、長、しかし、、」
「アホウ! こんな牢、タロウ殿にはなんの意味もないわ!!」
牢番は訝しげにだが牢の扉を開いてくれた。
ふう、久しぶり(30分程)のシャバの空気は美味いぜ!
「それでタロウ殿、お願いがありますのじゃ」
「ん? どんな?」
「…ワシらは人間から逃げて山の中に移り住んだのですじゃ。どうかこの里の事は他の人間には秘密にしておいてほしいのですじゃ、、」
「いいよ」
「おお! ありがとうございます!」
「おい! ニンゲンが来たって?! どこだ? いい度胸じゃねえか! ぶっ殺してやる!!」
おいおい、なんか物騒な怒鳴り声が聞こえたぞ。長を見ると、あちゃー、って感じの顔で眉間を押さえている。
「ガルドワンのバカモンが、、あやつが帰って来る前に客人を返そうと思うたが、、しまったのう、、」
お読みいただきありがとうございます。