20.ミリアの怒り
前話の断りを見ても読んで下さる読者の皆様
ありがとうございます!
頑張って、作者も目標の100話掲載目指して頑張ります!
ドンッ!!
「カルフィナって、誰!?」
魔道書を読む僕の机を、ミリアが叩いた。
僕は、カルフィナの方を指差した。
「アイツ」
「そうっ!」
ツカツカと歩み寄り、ミリアはカルフィナの胸倉を掴む。
「……リューイを誘惑しないで!!」
「……えっ!?」
今まで見たことのないような、凄い剣幕だ。
「待て待て、ミリア!
……どうしたんだ、お前?」
事情を聞き出すと、こういう噂が流れているらしいことが分かった。
――リューイとカルフィナがいい雰囲気になっている、と。
つまり、あの場面を見た誰かが、そんな噂を流し始めたのだろう。
「……ミリア。君は、もう僕に縛られなくてもいいんだぞ?」
「でも……」
突然、後頭部をスティンクに小突かれた。
「……何だ?」
「……何でしょう?」
「意味が分からん」
「少しは分かれ」
少しは分かってる。
幼い頃から、狩りの練習を始めて子供を率い、狩りを始めてからは食卓が豊かになり飢えも無くなり、それでも貧乏だから奴隷として売られようとしたところを、狩りのついでに集めた金の力で助けた。
好意ぐらいは持たれているだろう。
だが、状況的に好意を持っても仕方の無い境遇にあっただけに過ぎない。
そもそも、僕らはまだ、8歳にもなっていないのだ。子供過ぎる。
恋をするには早すぎる。
真っ当な恋でもするような年齢になるまで、僕は気付いていないフリをすることに決めていたのだ。
「何、その子?
魔王の伴侶になる覚悟も出来てないのに、リューイを狙ってるの?」
……面倒くさい奴その1が絡んで来たし。同じクラスだから仕方ないけど。
「……ルシエルは、まだ本気でリューイを狙ってるの?」
「当たり前さね!
将来有望という意味で、魔王の権利を持っている以上の男が、世の中にいるわけがないわ!」
「僕との約束を破る気か?勝負に負けたくせに」
「う……うるさいわね!
アプローチはしていないじゃない!」
その割に、ちょくちょく「役に立つでしょ」アピールをしてくるのだが。
未だに、ミィシャ・ミリィ親子による、ポーション販売は、ルシエルの独断で続けられている。僕は一切手を出さず、収入だけ得ている。ポーション用の瓶すら、必要経費として要求はしてくるものの、ルシエルが調達している。言葉にはしないが、彼女のドヤ顔は、ちょっとイラッとくるぐらい見ている。こないだ、利益を持ってくるのと一緒に、必要経費の書かれた紙を渡されるまで、僕は知らなかったのだが。
「その歳で、好きでもないのに、打算だけで男を選ぶってのは、どうかと思うが」
「べべべ別に好きじゃないとは言ってないじゃない!!」
……おい。
動揺して、何を口走っている?
「まぁ……同じクラスの分、ミリアちゃんよりルシエルの方が有利だよなぁー」
「僕は、『役に立つ駒』としてしか見てないぞ?」
「あー……何か、手伝ってるみたいだしなぁー」
「何で私に頼んでくれないのぉー!!」
ミリアが泣きそうな顔をして悲痛な叫びを上げるが――
「頼みに行ったら、『忙しい』って断っただろ」
「え!?」
「僕だって、ルシエルに借りを作るのは、嫌だったよ」
「予想以上に役立っておるじゃろ?」
偉そうに胸を張るルシエル。……いや、役立っているけど、この場で認めるのは納得がいかないなぁー。
「……お前、はっきりと『駒』って言われて、腹立たないの?」
「パパが、『人を駒として見れないと、いざという時に国のために人を切り捨てられない』と言っていた。
情だけで人を使う奴は、国を治める器ではないそうだ」
「……まぁ、同情で、国を捨てて人を救う奴が統治する国など、あっさり滅びそうだが、その言い方にも問題があるとは思うが」
「時には、駒に愛が芽生えることもあろう?」
「……お前には絶対に芽生えねぇ!!」
……やはり、こいつに頼んだのは失敗だった。
この場で、ミリアのご機嫌を取るのもどうかと思うしと、悩んでいる時だった。
ダダダダと、廊下を誰かが駆けて来る音が響いてきた。
ハッと気付いて、時計を見る。
魔動式の時計が、12時を指しているところだった。
「マズい!!」
勢い良く教室の扉を開けて入ってきた、面倒くさい奴、その2――シルヴィーン。
「師匠!昼飯の時間ですぞ!!」
最近、コイツに妙に懐かれて、昼休みに撒いて昼飯を食べることに、苦労しているのだ。
「さあ!」
「『さあ』じゃねぇよ!」
僕の手を取るシルヴィーンを振りほどく。
「……貴方もリューイを狙っているの?」
ルシエルが警戒する。そうか、教室でコイツに掴まったのは初めてだから、ルシエルも知らなかったか。最初のうちは、図書室だったのだが。
「狙っている……?
私は師匠の特別な弟子だが。
貴方も……?」
「弟子ではないけれど……貴方に負けないほど、特別な関係よ」
「おい、オマイラ。そういう妙な言い方は止――」
「おお!そうでしたか!
それでは、我らは同士ですな!
さあ、一緒に食堂に向かおうではありませんか!」
手を取ろうとするシルヴィーンの手を、パァーンと弾くルシエル。
「……貴方も、リューイが好きなの?」
「もちろんですとも!
こんな素晴らしい方は、お会いしたことがありません!」
ドンッ!!
ミリアが、両手で強く机を叩いた。
「リューイの馬鹿ぁぁぁぁ!!」
逃げ出したミリアの目には、涙が浮かんでいたようだが……。
「……ルシエル。お前はわざとだよな?」
「そうですけど……ガキねぇ、あの子。……可愛いじゃない。
ライバルとしては手強そうだから、手加減するわけにはいかないわ!」
「大人げねぇ……。
ホントのガキ相手に、することかよ?」
「魔界の重要人物相手に恋愛をしようとしていることぐらいは、自覚するべきですわ!」
「……はぁー……」
一応は追いかけたのだが。
……何か、面倒くさくなって、途中で食堂に向かいました。
魔族の肉体は、成長が早いとはいえ。
7歳で、まだ修羅場は経験したくありません。
一応、ルシエルはこの魔界では成人と見なされるのだが。
僕は、まだガキだと思っています。
ルシエルも、まだ本気の恋は、したことないんだろうなー……。
ミリアが負い目を感じなくなり、真正面から対等に向かい合って来るようになったら、僕も真剣に対応しなければならないが。
でなければ、僕は彼女の弱みを握っていることになる。
……そんなの、恋愛じゃない。
少なくとも僕は、そう思う。