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手探り

国営放送―――

時間は二十時を回っていた。


アナウンサーはセキュリティの専門家に尋ねる。

「今回の事件、今後どうなりそうですか?」


「バックアップを取っていますから、すぐに復旧できると思います」


「しかし、すぐに復旧できるものを、わざわざ国民に報告するでしょうか?」


「そうですね。実務的には定期メンテナンスとか、緊急メンテナンスという感じで報告するに留めるか。アナウンス自体ないことも多いですね」


「そこを踏まえると、どうでしょうか?」


「あまり考えにくい事ですが、想定外の状況になっているとも言えるかもしれませんね」


画面は一転。

取材先に移る。


「え~。今日はどちらに取材に行ってもらっていますか?」


「はい。今日は、今回の問題で、戸籍に知らない人がいたという女性のご自宅を訪問しております」


女性は耳にイヤホンをし、会釈をする。


「どうも。国営放送アナウンサーの木口です。今回の問題にお気づきになった経緯からお願いできますか?」


「私、結婚することになったのですが、その時に、戸籍が確認できないと言われたんです」


「戸籍が確認できないですか」


「そうです。基本的には結婚には戸籍謄本などはいりませんが、例外的に戸籍が確認できない場合は、戸籍が必要ということで、それで実家の市役所に取りにいったところ、戸籍に知らない人がいたんです」


「それは親兄弟に確認はしたのですか?」


「はい。しました。皆知らないと、そう言っていました」


映像はスタジオに切り替わる。


「はい。ありがとうございます。このように全国では、戸籍のデータがおかしくなった例がいくつか出ています」


アナウンサーはフリップボードを取り出す。

「取材によると、

先ほどの例以外に、

妻の戸籍に知らない兄がいる。

死んだ祖父が生きている。

戸籍上では双子になっている。

といった例が確認されています」


「続いて街の声を聞いてみましょう」


映像が日中に撮影した映像に切り替わる。


日傘を差した女性が映し出される。


「法務省が戸籍データの整合性が確認できないと報じましたが、どう思われますか?」


「うーん。そうね。戸籍って普段私達が触れることがないじゃないですか。それはお役所の仕事ですし、ちゃんとして欲しいですね」


別の子供連れの若い女性が映し出される。

「法務省が戸籍データの整合性が確認できないと報じましたが、どう思われますか?」


「生活に支障がないならいいですけど、これから保育所に預けようと思っているので、ちゃんとして欲しいです」


酒に酔っているのか。すこしにやけた男性が映し出される。

「法務省が戸籍データの整合性が確認できないと報じましたが、どう思われますか?」


「戸籍とかなんとかのやつだろ。マスターがな。あれはまずいなって言ってたな。なんでも、年金とか問題になるって」


映像はスタジオに切り替わる。


「このように懸念をお持ちの方は多いようです。

スタジオには政府の情報処理に詳しい閣僚の方に来ていただいています。

では高田さん。

今回の問題はどこまで波及しそうですか?」


「いや。うん。そう。そんなに問題は広がらないと思うよ」


「それはなぜですか?」


「なぜって。そりゃバックアップがあるから」


「さきほど、すぐに復旧できるものをなぜ国民に知らせるんだという話になっていたのですが」


「うん。それね。えーっとね。国民の知る権利だよ。うん。私たちは隠し事をしません。そういうスタンスだよ」


「バックアップは確認したのですか?」


「それは担当部署がやってるから」


「いつ復旧しますか?」


「早急に対応している」

高田は、

苛ついた表情で瞬きを繰り返す。


少し表情が苛立つアナウンサー。

アナウンサーにメモが渡される。


「高田議員ありがとうございました。

高田議員はこれから閣議があるということで、

これで退席となります。

続いて、

弁護士の見解を聞いてみましょう」


……

都内某所のラーメン屋。


「大将。このニュース見た?」

常連の泥沼は言った。


「あぁ聞いたよ。

朝の仕込みの時になぁ。

うちのカミさんが、こいつは大変だって騒いでやがったから、

なんで大変なんだって聞いたらな。

これは太陽光フレアのせいだっていうんだよ」


「太陽光フレア? なんだそれ」


「いや。よくわからないんだけどな。太陽の光の影響で磁場とか重力が発生して、データがおかしくなるとかって言うんだよ」


「よくわからねぇ話だな。あぁそうだ。ネギチャーシューくれよ」


「あいよ。瓶ビールはいいのか?」


「じゃあ大べんで」


「えっ大便?」


「うわ。違う違う。大びん」


「びっくりした。大便なんか提供したら、保健所に一発でアウトになるわ」


……

かなり大きめの地方都市のお好み焼き屋


「いらっしゃい。おぉ久しぶりやな。純ちゃん」


「ほんまやな。マスターも元気やった?」


「元気や。元気や。今日は豚玉でええか?」


「よう覚えとったな。俺が注文するやつ」


「そりゃそうや。

うちの客のほぼ全員が豚玉しか注文しよらへんからな」


「あぁそうなん。けっこうメニューいっぱいあるやろ」


「そやねん。メニューがいっぱいあるからな。結局わからんわ。豚玉って皆言いよんねん」


「俺と同じやわ」


「逆にメニュー減らしたらええんちゃう?」


「それがあかんねん。ほら名前に創作お好み焼きって書いてあるやろ。豚玉だけやったら、創作お好み焼きにならんやろ」


「ほんまやな。それでどうでもええ話やけど、戸籍がどうのこうの言うてたな」


「なんや。戸籍がどうのこうのって」


「いや。よう知らんけど、話題やったで」


「そうか。ちょっと調べてみるわ。うん……なんかちょっと微妙に変わったり、変わってなかったりするみたいやわ」


「なんや。そのいい加減なやつ」


「いや。おもろいんちゃう。なんかガチャみたいやん」


「いやいや。おもろないやろ。ほらこれ知らん人が家族になってる言うやん」


「お前な。考えてみ。ワシら独身やで。めっちゃキレイな嫁さんとか急にできたらええやん」


「いやホンマやな。それ最高やん」


「せやろ。戸籍確認しに行こかな」


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