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戸籍クライシス

ここは某市の市役所。

一時五万人を割り込むまで落ち込んだ住民は、

三十年前、突如急回復し移住者が殺到。

その移住者達が同市で結婚し、

子供が増えたことから、

右肩上がりの上昇を続け三十年で十万人を突破した。


市長は地方創生のレジェンドと呼ばれ、

その施策は全国で真似された。

しかし、

某市のように施策が上手く機能した例は、

なかった。


「え~。これから撮影入ります。三、二、一、はい」

ディレクターが指示を出す。


アナウンサーは、市長を見る。

一呼吸間を置き、

「市長。一時五万人を割り込むまで落ち込んだ人口が、

三十年前、突如急回復し移住者が殺到したそうですが、

なぜ突如急回復したのでしょうか?」

マイクを向ける。


市長は緊張した面持ちで、

しかし笑顔を交えながら話し出した。

「笑顔でニコニコ運動の効果があったのだと思います」


「笑顔でニコニコ運動とは?」


「笑う門には福来るといいますが、市民に笑顔を絶やさないように求めました」


市の発行する啓発ポスターが映し出される。


「求めただけですか?」


「いえ。S1グランプリという、笑顔のナンバーワン市民を投票で選ぶ仕組みを作りました」


初回のS1グランプリの広報ポスターが映し出される。


「それが効果があったと」


「はい。そうだと思います」


アナウンサーは間をあける。


「しかし、これ全国の過疎化に悩む市町村でも導入されましたよね」


「そのようですね」


「私たちは他の市町村にもアンケートを取りました。

しかしS1グランプリ同様の施策が効果があった市町村はこちらだけでした。

理由はどこにあると思いますか?」


アンケート内容のテロップが流れる。


「当市の場合、私の市長としての給料から100万円をグランプリの賞金として使いました。

その背水の陣とも言える行動が、市民のやる気に火をつけたのかもしれません」


市長は当時の地方紙の切り抜きを見せる。


「なるほど。ありがとうございます」


……


五万人を切りそうになるまで人口が減った地方都市。


小学校は統廃合寸前。


商店街はシャッター街。


ところが三十年前、

急に人が増え始めた。


それは戸籍クライシスから数か月後のことだった。


日本中の市町村が、戸籍の確認で混乱に陥るなか、


この市だけは、

順風満帆だった。


空き家が埋まり、

商店街に活気が戻った。


市長は大喜び。


国も補助金を出した。


それから、

すぐに移住者同士の結婚ラッシュ。

そして出産ラッシュが続いた。


地域の病院は常に満員だった。


その後、

保育園の待機児童が増え、

小学校の児童数が倍増した。


……


「市長。

三十年前から移住した人の家族などが住民の半数を超えましたが、

今の市民をどう思いますか?」

アナウンサーはマイクを向ける。


市長は少し考えていた。

「ここはオフレコにしていただけますか」


マズい話でもあるのだろうか。

アナウンサーはディレクターの方を見る。

ディレクターはうなづき、

カメラを停止するように指示する。


市長はその様子を確認し、

口を開く。

「皆さん、本当に良い人たちです」


沈黙ーーー


「ただ……、

時々思うんです。

私はS1グランプリがきっかけで移住して来たと思っていますが、

移住してきた方は、ふだんあまり笑顔を見せてはくれません。

皆さん優秀な方なのですが、

そこが少し気になるのです」


市長の曖昧な回答。

喉元に引っかかった小骨のような違和感を残したまま、

そこで取材は終わった。


「じゃあ撤収」

ディレクターの一声で、

スタッフが撤収を始めた。


ADが現場の機材を運び出す。

白いバン。

そこには国営放送の名前があった。


白いバンに、

カゴに入った機材を運び込むAD。

ディレクターと目が合う。


「でもあの人たち、なんか違和感ありますよね」

ADがポツリと言った。


「誰?」

ディレクターは眉をひそめる。


「あの移住者の人たちっすよ」


「違和感って何だよ」


「いや……なんか……」


「なんかじゃ分からねえだろ」


「わかんないっす」


ディレクターが台本をクルクルとまとめたもので頭を叩いた。


「バカヤロー」


「痛っ!」

小さく体をこわばらせるAD。

無精ひげに光る汗。


「人権侵害になるぞ」

耳元で囁く。


「いや、そういう意味じゃなくて」


「そういう意味に聞こえるんだよ」


「すみません」


「お前もテレビマンだろ」


「はい」


「だったら根拠のないこと言うな」


「はい」

……


ディレクターは、

ADと同じ違和感を感じていた。


商店街に取材に行った時、

住民に話を聞いた時、

微妙な違和感があった。


ただ根拠がないから、

彼も口に出せなかったのだ。


ーーーーーーーーーー


三十年前の四月一日


それは国営放送のニュース速報から始まった。


「法務省が、

戸籍データの整合性が確認できないと発表しました」


「繰り返します。法務省が、

戸籍データの整合性が確認できないと発表しました」


その直後SNSでは、


「国営放送もエイプリルフールとは面白い」


「いやマジでこれヤバイかも。

私結婚しようと思って、戸籍取ったら、知らない人が家族にいた」


「法務省がハッキングされたってこと?」


「大物動画配信者が俺が犯人って言ってるよ」


「バカヤロー俺が犯人だから自首してくるよ」


投稿数は三百万件を超え、

その日のSNSの話題は、戸籍データの整合性が確認できない件で持ちきりだった。


テレビでは、

この件で特番が組まれた。


しかし、

法務省からは、

「戸籍データの整合性が確認できない」

以上の詳しいことは伝わってこない。


わかっているのは、

戸籍データの整合性が確認できないことを法務省が把握したということ。

そして、

戸籍を取ったら、知らない人が家族にいた。

という報告がSNSだけではなく、

市町村にも寄せられているくらいのことだけだった。


結果……

システム障害、ハッキング、

その線で話が進み。

セキュリティの専門家や、

戸籍について詳しい弁護士などがゲストとして呼ばれた。


もし「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、

ブックマークしていただけるととても励みになります。


本作はすべて完結済みで、安心して最後まで読めます。


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