配分
ーーー1年後
都内ホテルでの同窓会
「おいおい。聞いたか。Bが亡くなったって」
「Bって、たしか投資をしてたんだよな」
「そうそう、
有名投資家で、S社の取引でかなりの金額を動かしたらしいよ」
「それで、なんで亡くなったの?」
「クリスマスにノックアウト強盗らしい」
「ノックアウト強盗?」
「そう。後ろから鈍器のような物で殴られて、財布を取られて」
「うわキツイな。クリスマスになんか、最悪だよな」
「だよな」
「それで、お前仲良かったよな。葬式は行ったの?」
「それがさ、葬式はなかったんだよ」
「えっそうなの。親は?」
「あいつ、親を3年前に亡くしてて」
「そうなんだ。結婚は?」
「結婚はしてない」
「じゃあ、あいつの財産はどうなるの?」
「それが弟がいたみたいで」
「そうなの? あれ、あいつ兄弟いたっけ……」
「いや。一人っ子だって言ってた」
「親父さんに隠し子でも見つかったのかな」
「わかんない。でもその弟が数百億の資産を相続するみたい」
「そっか。すげー話だな」
……
「桜井、ニューヨーク支社に転勤の打診があった。
もうパスポートは用意できたんだよな」
部長から声がかかった。
「はい。あれから訴訟を起こしまして、戸籍を取り戻しました」
俺は言った。
「そうか。よかったな」
「急な話ですね。後輩が行ったのに」
「あぁ、あいつか。あいつは亡くなったよ」
「亡くなった?」
「商談中に流れ弾に当たってな」
「流れ弾? 商談中に? いったい何の話ですか?」
「いや。信じられないだろうが、得意先と商談中に、近くで痴話喧嘩が始まってな」
「痴話喧嘩でなぜ、流れ弾ということに」
「いや。それがな。お互いに護身用で銃を持ち歩いていたんだよ」
「だからと言って、撃ち合いにはならないでしょ」
「いや。それがなったから質が悪い」
「それで被害者は後輩だけ?」
「いや、それが、得意先の部長も亡くなっている」
「大事じゃないですか」
「そうなんだ。そしてそのホテルを予約したのが、お前の後輩なんだよ」
「マジですか?」
「あぁ。それでお前のNY初の任務は、得意先との関係改善だ」
……
あれから1年、
相変わらず、私は身元不明の遺体が多数見つかっている件を追いかけ続けていた。
しかし何も出ないまま、
「もうその取材はやめろ」
と言われた。
そして代わりに、
菓子パンのレビューを行うように言われた。
「なぜ菓子パン?」
と聞くと、
「お前、ずっと身元不明の遺体ばかり追いかけていただろう。
だからだ」
と言われた。
意味がわからなかった。
私は報道に生きがいを持っていた。
それが菓子パンのレビュー。
絶望を感じた。
しかし、
会社を辞める勇気はない。
私は、どうせやるなら、最高の菓子パンのレビューをやってやろう。
そう思った。
仕事は毎日直行直帰となった。
車で日本全国を走り回った。
毎日、
違う菓子パンを食い、
レビューを書く。
3か月もすると、
パンメーカーごとのイーストの違いに気が付くようになった。
毎月毎月、パンメーカーは様々な種類のパンを出す。
その中から生き残るモノ、消えていくモノが出てくる。
その違いは何なのか?
生き残るには、理由がある。
消えていくにも、理由がある。
私はそう思った。
ちょっと待てよ。
あの事件で亡くなった人たちにも、
亡くなった理由があったのではないか。
私はそれに気が付けなかっただけなのでは。
俺は再び、取材を振り返ろうと思った。
しかし、
時はすでに遅かった。
会社から、取材のデータを全て渡すように言われていたからだ。
取材の録音テープ、メモ。
まったくログを取っておらず、
手元にない。
私は諦めるよりほかなかった。
……
私はふたたび、座禅を組みに行った。
そこで和尚に胸の内を話す。
すると和尚はこう言った。
「疑心暗鬼は人を狂わせる。
だから、人は信じる方が良い。
たとえバカだと言われようと。
狂うよりはマシだろうから」
和尚は茶を一口飲んだ。
「私達、記者は疑うのが仕事です」
「だから、あんたらは狂うんだよ」
「狂う? 何を言っている。私たちは正常だ」
「そうか? 本当にそう思うか?」
和尚はじっと私の目を見た。
「私たちには真実が必要だ」
私は繰り返す。
「そうじゃよ。必要だ。なにも不要だとは言っておらん」
「でも狂ってると言った」
「そうじゃよ。狂っていると言った。それがどうした」
「どうしたって、狂ってるのは良くないじゃないか」
「世界には不要なモノなどないんじゃよ」
不要なモノなどない。
そうか。
そうなのか。
私の認識は激しく揺らいだ。
記者は、
事実を追うのが仕事。
しかし、
実際は、かなりの部分でジャッジをしている。
社説などはその典型。
社の代表によるジャッジに過ぎない。
公平な記事などを作るのは不可能。
写真の対象角度、記事の導入。
文言の前後。
あらゆるもので、
印象を操作するチャンスがある。
そして、
私たちは、
不要なものを断罪し、
それとなく切る。
それを自覚しているばかりに、
和尚の言葉は、
鳩尾をえぐった。
鳩尾から肩の方向へ、気持ち悪いなにかが流れた。
ーーーー
戸籍クライシスから、
3年後の4月1日
犯人と名乗る者から犯行声明が出た。
「どう? 面白かった。一応データを戻してあげたから、これで正常運転できると思うよ。
そうそう。
実はDNA関係のデータも弄ったから、またこれで遊んでね」
当局の調査により、
DNA基礎データの改ざんが行われていることがわかった。
そして、
人は信用に足るものが、何なのか……。
完全にわからなくなったのだった。
ただ当日、ネットは異様に静まり返っていた。
しかし、
この犯行声明さえ、
本物だと、
誰も思えなかったのだ。
END
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品は完結していますが、
反響があれば続編を書く可能性があります。
ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。
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