EX1-01 - へび -
EX1-01 - へび -
「・・・」
「・・・」
「・・・リゼちゃんの容態は?」
「膨大な魔力で呪いを押さえてようやく落ち着いたが・・・まだ傷が少し痛むようだ」
私の名前はアーノルド・シェルダン、今私は王城にある王の私室で友人の国王陛下・・・エルヴィス・ディアマンテ・ローゼリアと話をしている。
娘が刺客に襲われて15日が過ぎた。
医者から覚悟をしておくようにと言われていた娘は奇跡的に持ち直し、王城にある医療施設で療養中だ。
「それにしても驚いたな、魔力で呪いを抑えるという発想は無かった、先日魔力量の多い被害者に情報を伝えて試させたら幾らか痛みが和らいだそうだ」
エルがグラスに注いだ酒を煽り私に言った。
「俺のところにも報告が来た、確か魔法騎士団の人間だったよな」
私も手に持っていたグラスに入っている琥珀色の液体に口をつける。
「短時間だが昼間は妻と一緒に庭を散歩できると喜んでいたぞ、リゼちゃんの発見した対処法は無駄になっていない」
「そうか・・・」
だが魔力量の多いと言われている魔法騎士団員でも「短時間」しか効果が無いのか・・・呪いとは厄介なものだな。
「ヴィンスの奴は正式に王位継承権を放棄する事になった」
「そこまでする必要は無いだろう」
「本人が強く望んでいる」
ヴィンスというのはエル・・・陛下の息子で第二王子殿下の事だ。
対外的には刺客に襲われ「呪いの刃」で負傷した事になっているが近衛騎士の一人が身を挺して庇い奇跡的に無傷だった。
だが王家主催の夜会で刺客が侵入し多くの貴族家子息や令嬢が傷を負っているのに主催の王家側・・・王子だけが無傷というのは体裁が悪いのだろう。
「子供達の多くが死傷、第二王子殿下も再起不能の傷を負った・・・って事にしておくのか?」
「そうだ」
「この事を知っているのは?」
「私と王妃のアリシア、王太子のマナサマー、王家の専属医、それから騎士団特殊部隊長とお前だな」
「リィンちゃん・・・王女殿下には知らせないのか?」
「彼女は今精神的に不安定だからな、落ち着いたらそのうち話そうと思っている」
エルの話だとヴィンス殿下は身分を捨て名前を変えた後、王国騎士団特殊部隊の預りとなるそうだ。
「奴は常日頃から王子なんて堅苦しい立場は嫌だと言っていたからな、幸い剣技や格闘術が得意だから騎士団の特殊部隊で鍛えてもらう事にした」
「将来は王家の「影」か・・・ヴィンス殿下は裏工作が得意だったから意外と適任かもな」
「私としてはそうなればいいと思ってる、王位継承権第二位のヴィンス王子は重傷を負い数年後治療の甲斐なく死亡・・・って事になるだろう」
私はため息をついて窓の外を見た・・・夜も更けて月が明るい。
「デボネア帝国の件だが・・・」
グラスに残った酒を飲み干して私はエルに話しかけた。
「帝国が怪しいのは分かっているのだが・・・対応が後手になっている、すまん」
意図を察したのか私の言葉を遮り話し始める。
「放っておけば被害が拡大するだろう、潰さないのか?」
「もちろん舐められたままでいる気はない」
「うちの蛇が怒り狂っている、動くと言って譲らない・・・」
「・・・あの毒蛇を本気で怒らせたか」
「娘を孫のように可愛がっていたからな」
「・・・」
「・・・」
少しの間沈黙が続く・・・エルとは長い付き合いだ、私が何を言いたいのか理解しているだろう。
「・・・王族の居場所が筒抜けになっていた、城の中にもどうやら内通者が居るようだ、情けない話だよ」
「かなり前から周到に計画されていたようだな・・・まだ内通者が城に残っているなら確かに油断ならない、俺がやろう」
私は正面からエルの顔を見た、奴も目を逸らさず私を見ている。
「いいのか?」
「準備が必要だが・・・遅くとも3年で潰す、今後帝国内が荒れても問題ないか?」
「任せる、好きにやってくれ・・・後の処理はうちでやる、王家からは蜘蛛を出そう」
「分かった、向こうに潜んでる諜報員も少し借りる事になるだろう」
「・・・もちろん全面的に協力する」
「助かる・・・じゃぁ俺は帰るよ」
・・・
・・・
今はもう夜中だ、薄暗い城の廊下を私は歩く、城内はまだ厳戒態勢が続いていて所々に騎士が立っている。
「リィンたんの寝顔を見て帰るとするか・・・」
私は歩き慣れた王族の居住区画を抜け城内の医療施設に向かって進む・・・。
コツッ・・・
「・・・そこに居るんだろ、珍しく殺気が漏れているな・・・陛下の許可は取った、これから忙しくなるぞ」
・・・コツ・・・コツッ・・・
・・・
・・・
「お父様!、じぃじがお屋敷を辞めちゃうって本当?」
「あぁ、持病の痔が悪化したらしくてね、領地で療養したいと言ってる」
「わぁ・・・大変だね」
「リゼたんも大怪我してるんだから今は治す事に専念しようね」
「・・・うん」
「新しい執事長は彼の息子さんだよ、この間まで王国騎士団に居たのだけど急遽うちで働いて貰える事になった」
・・・
・・・
・・・
「ねぇ聞いた、オーイヴォーレー執事長このお屋敷辞めるんだって」
「うん、持病の痔が悪化したって・・・」
「可愛がっていたお嬢様があんな事になって・・・心労かしら」
「さぁ・・・でもあの人痔なんて患ってたっけ?」
「この間まで地下の訓練施設で毎日腹筋500回やってたよ」
「あはは、そんな人でも痔には勝てないかぁ」
「まあね、あれ凄い痛いらしいし・・・」
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
ざぁぁ・・・
ざぱぁ・・・
くぇくぇ・・・
ざざぁぁ・・・
「なぁ爺さん、本当に行くのかい?」
「・・・」
「ギャラン大陸とは国交が無いからうちみたいな漁船で行くしかねぇし密航しようって奴ぁたまに居るが・・・あんたみたいな年寄りがあの大陸で生きていけねぇだろ」
「ふふっ・・・儂は「釣り」や「狩り」が趣味でのぅ・・・向こうには変わった「獲物」が居ると聞いておる、くたばる前に一度見ておきたいと思っての」
「そんなの居たか?、長年この仕事やってるがエテルナ大陸と大して変わらねぇぞ」
「居る・・・良いものをたらふく食っておるから狩り甲斐があるのじゃよ・・・」
「ま、金は貰ったから行ってやるが・・・せいぜい死なねぇように気をつけな」
「・・・」
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