閑話 奏の違和感
「お疲れ様ー!!」
陽が高らかにグラスを掲げる。
「お疲れ様」
凪が控えめにグラスを差し出し、朔もそれに合わせる。
奏だけがぼーっとしてそれを見ていた。
「奏?」
気づいた凪が声をかけると、はっと我に返ってグラスに口をつけた。
「奏、どうしたんだよ?お前、さっきからおかしいぞ?」
陽にも心配される。
「……別に」
視線を逸らし、ぐいっと酒を飲み干す。
朔はただ、じっと奏を見ていた。
「……にしてもさ、ライブ直後の会場外に行くなんて、あり得ねぇだろ?」
陽がグラスを傾けながら、奏を見る。
「ほんと……心配したよ?」
凪も困ったように奏を見る。
チラッと二人を見た奏は、少しだけ考えてから、息を吐く。
「……悪かった」
そして、また黙ってしまう。
凪と陽は顔を見合わせて苦笑した。
打ち上げ終了後。
ホテルの部屋で奏がぼーっとしていると、ドアを叩く音がした。
面倒くさそうに立ち上がった奏がドアを開けると、朔がいた。
「ちょっといいか?」
「……あぁ」
簡潔に答えて、朔を部屋に入れる。
朔は窓際の椅子に腰掛ける。
奏はベッドの端に座った。
「お前、昼間言ってたのは本気なのか?」
単刀直入に朔が問いかける。
奏は朔の顔を見てから、軽く溜め息をつく。
それから、右手で額を押さえて顔を歪ませる。
「……お前だから言うけどさ……」
そう言って、また少し黙る。
「……ライブ中もいたんだよ」
「は?」
朔の眉間に皺がよる。
「……なんかさ、アリーナ席にいた女のとこに」
「……小さいお前か?」
奏は頭を抱え込んだ。
「訳わかんねぇっ」
朔は厳しい目で奏を見ていた。
しばらく、沈黙が漂う。
軽く朔が溜め息をついてから、立ち上がり、奏の前に立つ。
それから奏の頭に手を置いて、ポンポンと撫でた。
奏の顔が、朔を見上げた。
「……気にするな」
「は?」
もう一度、朔は溜め息をついて答える。
「俺も……情報集めてみる。だから、気にするな」
奏は肩から力を抜く。
「……わかった……」
「もう、寝ろ」
それだけを言い残し、朔は部屋を出て行った。
奏は黙って、閉まる扉を見ていた。




