33.推しの灰色の目
私は、じっと奏の目を見た。
奏の目は灰色だ。
珍しい色。
「……何?」
少し恥ずかしそうに、奏が見上げる。
私はまた、じっと見つめる。
淡い、灰色。
でも、感情が乗ると深い灰色に変わる。
「奏の目、綺麗だなって」
目をぱちくりとさせて、奏は少し不機嫌そうに顔を逸らした。
「急に何?」
「え、急じゃないよ。ずっと前から思ってた」
にこにこしながら、奏を見る。
「でも、本人には言えないでしょ?」
「そりゃまぁ」
奏は顔をそらしたまま、不貞腐れたように言った。
「……俺ならいいのかよ?」
「うん、ここにいるから」
そう答えて、奏の顔を覗き込む。
少し、照れてる。
灰色が少しだけ、深くなってる。
「俺は……この目、嫌いだったんだよ」
ちょっとの沈黙の後、奏が言う。
私は驚いて思わず声をあげる。
「えっ、なんで?」
「なんか、人形みたいで気持ち悪いって、よく言われてた」
困ったように笑いながら、奏はなんでもないことのように言う。
一瞬、とてつもなくイラッとした。
「……そんなこと言うヤツ、私がぶっ飛ばしてやるわ」
拳を握りしめると、奏は可笑しそうに笑う。、
「物騒だな」
「奏を貶すヤツは許せない」
「今はいないよ、そんなヤツ」
それを聞いて安心する。
「それに……」
奏の目が、ふっと遠いところを見る。
「凪は好きだって言ってくれた、俺の目」
その表情があまりにも切なくて、私の心臓はぎゅっとなる。
奏の灰色の瞳は、奏の魅力のひとつだと私は思っている。
夜みたいな目。
深くも、淡くもなる瞳。
奏の存在、そのものみたい。
人形なんかじゃ、ない。
「私も、好きだよ、その目」
テーブルに手をついて、その上に顎を乗せ、私は奏に笑いかける。
少しだけ、奏の顔が赤くなる。
……可愛い。
「俺がいるだけで、安心するんだっけ?」
あ、前言撤回。
可愛くない。
「もうっ、それは忘れてっ!!」
「無理」
即答。
奏は立ち上がり、わざと?その目で私を見据える。
ぐっ、と私は少しだけ身を引く。
「あんま、見ないで」
「夕莉が先に見てきたんだろ?」
「ゔ」
ニヤリと笑う奏の目。
色がまた少し深くなってる。
「やっぱ綺麗だね」
奏は少しだけ、目を伏せた。
「……俺のこと、煽ってる?」
その様子が可愛くて、顔がにやける。
「煽ってるのは、奏でしょ?」
フッと笑う奏。
「ま、そうかもね」
そう言って、テーブルの上に座り直す。
灰色の瞳が私を見てる。
その瞳を見てるだけで、私は少し泣きそうになった。
……こんな瞳で見られたら、安心するに決まってる。




