32.推しは必要です
翌朝。
少し早めに目が覚める。
昨日よりは、体が軽い。
熱も下がってるようだ。
起き上がると、枕元に奏が座っている。
「おはよ」
にやっと笑った奏がこちらを見る。
「……おはよ」
少しだけ寝ぼけた目で奏を見る。
「どうだ?」
「うん、大丈夫みたい」
私は笑顔で返す。
「でも、今日は仕事休むんだろ?」
少しだけ、考える。
ホントは休みたくは無いけど……。
まだちょっとだけだるいし。
それに、奏の目。
無言なのに休めと圧をかけてくる……。
「うん、そうする」
私は素直に従った。
「まだ、寝んの?」
「うーん、そうしようかな」
私はベッドサイドに置いた水を飲み、また横になる。
私の目の前に奏が近づいて座る。
「……まだ弱ってる?」
奏が覗き込む。
「そんなでも」
私が返すと、奏はにやっと笑う。
うん?なんか嫌な予感がする。
「昨日、なんて言ったか、覚えてるか?」
「えっ?」
私は昨日の記憶を辿る。
なんとか家に帰ってきて……そのまま寝て?
……夜中に起きた……?
『奏の存在だけで、あったかかった』
そんなこと、言った……かも?
途端に顔面が沸騰する。
奏が煽るような目つきで見ている。
「思い出した……?」
奏の、顔。
「思い出し……た」
ガバッと布団に潜り込む。
弱ってたとは言え、何言ってんの!?私!
奏が立ち上がり、布団の近くまで来る音がする。
「『いてくれるだけで、安心する』?」
……それも、言った。
そーっと、布団から目だけをだして確認する。
奏が覗き込んでいる。
バチっと目が合う。
灰色の瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。
心臓が、跳ね上がる。
奏は更ににやっと笑う。
「俺、必要だろ?」
……その言い方、ズルい。
「……必要です」
声が震える。
私はまた、布団に潜り込む。
ふっと奏の笑う声がする。
「なら、いいや」
嬉しそうに言って、奏はその場に座り込む。
それから布団をポンポンっと叩く。
「もうちょっと寝るんだろ?」
寝かしつけるように。
「……やっぱりお母さんじゃん」
「夕莉はお母さんにドキドキすんの?」
「ゔ……しない」
奏は満足そうに頷く。
私は目を閉じたけど、眠りに落ちることは出来なかった。
熱は下がったのに、別の熱が引かない……。




