25.推しの人気投票鑑賞会②―仲良し部門/バディ部門―
長い休憩が終わり、動画が再開する。
次は『仲良し部門』。
ステージ上以外での仲の良さそうなランキング、だそうだ。
『朔×奏』推しの葵さんは、燃えている。
「今年こそっ!朔×奏一位来いっっ!!」
「あはは……」
乾いた笑いしか出ない……。
「この部門は四位から……」
朔の声で発表が始まる。
「……四位、朔×陽」
不本意そうな朔の発表。
葵さんは、にまにまして見てる。
「朔×陽もいいけどねぇー」
朔の名前さえ呼ばれれば、なんでもいいのかも知れない。
ま、私もそうだけど。
奏の名前聞ければ、やっぱり嬉しい。
コメントにある『奏×凪見守り係』
私はそれに反応する。
「なにコレ?奏×凪見守り係って」
「まぁ、それもいいけどねぇー」
葵さんは、また同じことを繰り返す。
うん、自分の推し仲以外に興味ないってことね。
そして、三位。
『凪×朔』
うんうん頷く葵さん。
「やっぱ、朔は皆に信頼されてんのね」
なんかひとりで納得してる。
「奏と陽潰れたあと、飲んでるんだって。陽は想像出来るけど、奏って潰れんのかな?」
私がそう呟くと、遠くの方から、かすかに。
「潰れるかよ」
と聞こえた気がした。
思わず、振り返ると、奏が不機嫌そうに見ている。
「ん?なんか言った?」
葵さんもつられて振り返る。
が、さすがに見つけられなかったようだ。
「いやっ、奏は潰れるかよって言いそうだなって」
慌てて誤魔化す。
「ふぅーん」
葵さんはあまり気に留めなかったようだ。
良かった……。
私は胸をなでおろす。
コメントはまたしても、『朔の面倒みの良さ』が並ぶ。
「朔は本当、『NOCTISのお母さん』だね」
私がさっきの凪の言葉を借りて言うと、葵さんはしみじみと萌えている。
「そこが、朔のいいところよっ!!あのクールな顔からは想像出来ないギャップ!!」
あ、これ長くなる?
私は少しだけ後悔したが、画面の中で朔が、
『……奏、陽』
そう言って見せた、笑顔が、怖い。
葵さんは、その笑顔に悶えて、朔語りは止まった。
そして、二位の発表。
私たちは、二人して息を呑む。
私は、奏×凪推し。
葵さんは、朔×奏推し。
二位の発表で、一位は決まる。
『二位、朔×奏』
朔のその声に葵さんは、落胆の声をあげた。
「やっぱりダメかぁーーっ」
「ひゃあー、ってことはっ!!」
私は同時に歓喜の声をあげる。
葵さんは、床に寝っ転がり、うじうじしている。
「今年こそはと思ったんだけどなぁ」
「投票足んなかったかなぁ」
しかし、コメント発表になると、ガバッと起き上がり、画面を食い入るように見つめた。
『高校からの先輩後輩』
うんうん、頷く。
『奏が唯一頭があがらない』
それは、私もわかる。
『朔の前だと奏が少年のような顔してる』
それも、わかる。
「わかってる人も多いのになぁ」
「それは、私もわかるよ」
キッと葵さんが、私を見る。
「でもっ、夕莉は奏×凪推しでしょーが」
「まぁね」
「はいはい、今年も一位はどうせ奏×凪でしょ」
ふてくされたように、葵さんが言う。
私はつい笑ってしまった。
そうして、一位の発表だが、そこはまぁ、当然。
『奏×凪』
でした。
画面の中でも、取り立てて騒ぎもせず、当然のような雰囲気だ。
それほどまでに、しっくりくる組合せなんだろう。
コメントも、また皆さん、よく奏を見てるなって感じ。
「奏×凪は鉄板だねぇ」
葵さんはしみじみ言う。
「当たり前」
私は少しだけドヤ顔。
「なんで夕莉がドヤ顔なのよ?」
ぷっと笑う葵さん。
テヘっと笑い返す。
私は画面に視線を戻す。
『奏が凪には優しい』
そんなコメントを言っているところだった。
「あぁー、わかるー」
葵さんが声をあげる。
私も頷く。
「奏、凪見る時優しい目してるよね」
うんうんと二人で頷く。
画面の中では、凪のいつもの天然発言。
『奏は優しいでしょ?』
凪の一言で画面の中の空気は凍りつく。
「また、やってるね、凪」
「ふふっ、そうね」
そうして、微かに聞こえる、朔の声。
『……奏が優しいのは、凪、お前限定だ……』
「朔の心労凄そう……」
思わず出た言葉。
葵さんは、またそこで大きな声をあげる。
「朔はそこがいいのよっ」
朔ファン、大丈夫か?
私は少し本気で心配してしまった。
そして、動画は次の『バディ部門』へ。
「バディ?」
「さっきと何が違うんだろうね?」
そう言いあっていると、画面の中でも同じ疑問が。
『バディ部門は、ステージ上での信頼感、演奏中の呼吸、背中を預けられる相手、そういう意味での“相棒”だな』
朔の説明。
「「なるほど」」
二人の声が重なる。
早速四位から。
四位、奏×陽。
「奏×陽かぁ」
葵さんはつまらなそうに言うけど、私はちょっとわくわくしてる。
「奏と陽は揃うと凄い派手な音になるよね」
「そうねぇ、派手だよね」
コメントも似たような感じだ。
画面の中では、また奏と陽が言い合いしてる。
奏の煽るような表情に、思わず顔がニヤける。
「この二人は子どもみたいな喧嘩するね」
葵さんが言う。
「そこがいいのよっ」
今度は私が大きな声をあげる。
「奏の子どもみたいな顔が、また可愛いんだって」
つい、熱弁してしまう。
そして、次。
三位は、奏×朔。
「えぇー?バディ部門の奏×朔は三位ぃー?」
葵さんは、また不満の声。
まぁ、仕方ないか。
「でも、ほら、コメントいいのばっかりだよ?」
画面上のコメントを見る。
「『NOCTISのはじまり』って、ホントそうよね」
「奏と朔の出会いがなかったら、NOCTISはなかったもんね」
これは、ファンの間では鉄板ネタ。
「お互いをわかってる感もわかる!」
葵さんはまた熱が入ってる。
「そうだね」
私も同意するけど……。
「あぁぁぁ、でも、三位なのね」
また落胆してる。
そして、次の二位は。
朔×陽。
「えぇっ!?」
ガバッと起き上がる葵さん。
「朔×陽のが上なの?!?!」
あ、ツッコミどころそこなんだ……。
「まぁ、リズム隊だしね、バディ感はそうなるんじゃない?」
そう言うと、葵さんは、
「そうか……」
と言って大人しくなった。
それから、
「朔入ってるなら、それでいいや」
と言っていた。
ファンなんてそんなものよね。
私は思わず、笑った。
そうなると、もちろん一位は。
『バディ部門一位は……奏×凪』
「やったー!」
思わず大声で喜ぶ。
「やっぱ、そうなるよね」
葵さんはつまらなそうだ。
でも、私は嬉しい。
「奏×凪の煽り合いは、NOCTISのライブの醍醐味でしょっ!!」
「まぁ、確かに」
「普段、大人しい凪のギターが、奏の煽りにはめちゃくちゃ絡んでくるんだよねっ」
私はライブを思い出して、興奮する。
「そうね、あれは私でも興奮するわ」
葵さんもライブを思い出しているのか、目が輝いている。
『圧倒的だった』
その朔の言葉に私たちは顔を見合わせた。
「「でしょうね」」
また、シンクロする。
私たちは笑い合う。
「これで、残すところは総合人気ね」
「そうだね」
「ま、それこそ?毎回一緒だよね」
諦めたように葵さんが言う。
「さぁ?わかんないよ?」
煽るように言い返す。
「またまたぁ、どうせ奏一位だと思ってるんでしょ?」
そう言われて、私は答えなかったけど、やっぱり奏一位だと信じてる。
「ふふっ」
「その笑顔、腹立つわー」
画面の中はまた、休憩に入っている。
『NOCTIS』ロゴにSEが流れている。
立ち上がった葵さんは、
「ちょっとトイレ借りるね」
そう言って出ていった。
私がぼーっと画面を見ていると、棚の方から奏がひょこっと顔を出す。
「えっ!」
私は驚いて声をあげる。
「ちょっとっ」
と注意するけど、奏は知らんぷり。
「今なら大丈夫だろ?」
そう言って、笑ってる。
「なかなか強烈な朔ファン」
私は苦笑いするしかなかった。
「まぁね」
「夕莉も、面白かった」
ニヤッした奏に、ひゅっと心臓が鳴る。
「……だから、そういうこと言わないで……」
私は両手で顔を覆った。
「もうっ、それ言うために出てきたの?」
そう言うと、奏はまた意味深にニヤッと笑う。
「さあね?」
それだけ言い残し、また棚の中に消えていった。
なんなのよ?
私は奏の姿が見えなくても、棚をずっと見ていた。
そこへ、葵さんが戻って来る。
「夕莉?どうかした?」
ハッとして私は曖昧に笑う。
「いや、大丈夫」
葵さんが定位置に座ると、動画がちょうど再開する。
最後は、総合人気投票結果だ。




