属性は無色、つまり劣等魔法使い
ボルドス大陸の東側。
エミリュ川の流れる大地にバンショク王国は存在する。
この国では、5歳になると全ての人間が『属性判定』という自身の『魔法の才能』を知る儀式がある。
希少で有能な属性であれば、栄達が約束されたも同然の属性判定は貴族、庶民両方にとって重要なものである。
しかし、庶民が得られる属性は大体『壱色』であり、属性をもたない『無色』も多い。
一方貴族になると『弐色』が当たり前、第ニ子以降が『鼎色』や『肆色』であれば嫡子交代も起きうるほどだ。
炎の公爵家と呼ばれるブラッディ家の三男レイモンド・ネッツ・ブラッディは大陸歴1580年 葉の月 10日に属性判定を受けることになった。
「残念ながら無色です。力になれず申し訳ありません」
属性判定官は淡々とレイモンドとその父でありネッツ領を治める公爵ヒュウガに告げた。
レイモンドは青ざめ、ヒュウガは拳を握り込んだ。
判定は個室で行われ、保護者1名のみが帯同する。
レイモンドは恐る恐るヒュウガを見上げた。
ヒュウガはそれに気づくと、屈んでレイモンドを強く抱きしめた。
「レイモンド、俺はお前を愛しているぞ!」
「父上……」
泣きながらレイモンドは抱きしめ返した。
「レイモンドをペンド兄上に弟子入させましょう。それしかレイモンドを守る方法はありません」
レイモンドの産みの母であり、ブラッディ家の第二婦人アイリアはそう決断した。
それはヒュウガとレイモンドが邸宅に帰り、当主執務室でアイリアに属性判定の結果を伝えた直後のことだった。
その言葉に、落ち込んでいたレイモンドは顔を上げた。その目には希望が宿っている。
ヒュウガもそれしかないと考えていた。妻が同じ考えで、少し安堵した。
アイリアは、ネッツ領の魔道具職人にして王城御用達を持つペンド工房の現親方ベアノの妹である。
「レイモンド、お前は無色だ。それは変えられない。貴族として生きようと思えばとてつもなくつらい人生を進むことになる。俺と母さんはそれを望まない」
この国の貴族は有事の時は、最高戦力として戦場に出なければならない。だからこそ、ミドルネームにその領地や役職の名を名乗ることを許される。
無色の人間は攻撃魔法を習得しづらく、王都の貴族学園では多属性至上主義者が幅を利かせている。
「はい、わかっています」
「それにペンド工房に行った時、目を輝かせていたからな」
「はい!」
「現金なやつだな?」
ヒュウガはそう言いながらレイモンドの頭を強く撫でる。
「12歳まではこの屋敷から通いなさい。その後は工房の寮に入るんだ。ベアノは厳しいぞ!」
「はい!」
レイモンドはこの時、ネッツを名乗れなくなったが、魔道具職人の勉強が許されたことがそれよりも嬉しかった。
その夜、レイモンドが眠った後のこと。ヒュウガとアイリア、さらに第一婦人レベッカは当主執務室でさらなる話し合いをしていた。
「とりあえず、レイモンドは準貴族にせねばならない。それがあの子を守ることになる」
「そうですね。多属性至上主義者が学園の教師にもいる現在は、そうするしかありません」
レベッカは、元々王都の法衣文官貴族シャムロック伯爵の次女だ。王都の現状にも詳しい。
「私も、この現状にあまり良い印象はありません」
レベッカは、悔しそうに言った。努力を尊ぶ彼女は人の生まれながらの特徴を嘲笑する者を嫌悪していた。
「とにかく、レイモンドを、子供を守るのが親である俺たちの役目だ」
ヒュウガはそうレベッカを宥めるのであった。




