もう一人の自分
――それから、四百年経った。現代の日本と呼ばれる場所に天野飛鳥という少女が居た。彼女はH県N市魚棚町桜町にある桜小学校の五年生だ。
そんな飛鳥は風変わりな青髪青眼をしていた。双子の兄優斗は両親によく似ていたが、飛鳥はそうではなかった。
また、飛鳥は幼い頃から霊感があった。それは飛鳥にとってはどうでも良かったが、兄の優斗と親友の川崎瑞穂は心配していた。
そんな飛鳥達には学校生活ともう一つ大切な活動があった。それは、劇団桜町という桜小学校の有志が集まった演劇団だ。飛鳥が団長を務めている。
この劇団桜町には特徴があった。それは、演目になる話を団員が交代で考え、演出は団員で話し合って決める。先日までは瑞穂の飼い犬の話だった。その前は、新渡戸桃のギタリストの物語、優斗は探偵と怪盗のミステリーバトルを考えていた。三人が考えた脚本はどれも特徴があり、客からも好評だった。
とうとう、飛鳥にもその話を考える番が回って来た。飛鳥は何も考えた事が無かった。どういう話を劇団でやれば良いのか分からなかったのだ。
そんな時だった。飛鳥は不思議な夢を見たのだ。そこでは、自分とよく似た女性が吸血鬼退治をしていたのだ。最初は、自分が無意識に話を造ったのかと思っていた。ところが、何度もその夢を見ているうちに、その夢は現実味を帯びてきた。そして、飛鳥はもう一人の自分が居るのではと思うようになった。
飛鳥はその夢の内容をノートに書き、団員に見せた。すると、脚本推敲担当の瑞穂から驚きの声が上がった。
「凄いね、こんな話を思いつくなんて!」
「私じゃなくてもう一人の私に言ってよ。これは無意識に思いついたものなんだから。」
すると、団員の山口和也がノートを読み終わってこう言った。
「この話、面白いな!でも、最後は悲しいな…。」
もう一人の男子団員の岡田弘樹も、和也からノートを受け取って
それから、一年生の団員である天宮利斗と斎藤絵里香もそれを読み、それを是非劇団桜町でやりたいという話になった。
「俺はベルモンドの役をやりたい!ルカと戦う」
「随分と乗り気だね、優斗兄。」
今回の担当は自分のはずだが、兄である優斗がかなり前に出て来た。それに飛鳥は嫌そうな顔をする。
「いいね、優斗君の吸血鬼役見てみたいなぁ。この前の怪盗役も決まってたからね。」
「それを言うならリリアは瑞穂ちゃんのイメージが浮かんだな…。」
「じゃあ役割をみんなで決めた後、演出や衣装をどうするか決めようよ!」
瑞穂のその呼び掛けに一同は頷いた。そして、トントン拍子で担当役が決まった。瑞穂の脚本校生が終われば、飛鳥の意見を聞きながら個人練習になるだろう。
「桃ちゃんは今回も音響と楽曲制作をお願いしようかな。ピアノもギターも弾けるから。」
「任せてよ!また良い曲持って来るから!」
桃はそう自信満々に答えた。
この日の劇団桜町の会合はこれで終わった。学校生活と掛け持ちで演劇をするのは大変だ。だが、飛鳥達は皆で一つのものを造る為に頑張っている。
その日の帰り道だった。飛鳥は優斗と一緒に歩いている。
「そういえば、姿を消したリュウとケインだっけ?それから無事に暮らしたのかな…?」
「ルカの話が本当とは限らないでしょ?それに、かなり昔の情景が浮かんだから、実在の人物だとしてももう生きてないと思うけどな…。」
優斗はリュウとケインの事を気にしたような、していないようなよく分からない顔をした後にこう言った。
「飛鳥、主役なんだろ?頑張れよ!」
優斗は飛鳥の肩に手を乗せた後、走って帰っていく。飛鳥は、そんな優斗を見ながら、ルカ役をどう演じれば良いのかぼんやり考えていた。




