束の間の平穏
ルカとリュウの間に産まれた息子はケインと名付けられた。彼にとっては曽祖母に当たるリースによく似た枯草色の髪に空色の目をしていた。二人はすくすくと育つケインを見守っていた。
ルカとリュウは相変わらず吸血鬼退治を続けていた。だが、吸血鬼の目撃情報が年々減少していく中で、仕事は減る一方だった。
そこで二人は百姓の真似事を始めた。最初は自分達で使う分の農作物を育てていたが、次第に売るようになった。二人は吸血鬼退治以外は何もした事がなかったが、この仕事にも慣れていった。
そうだとしても吸血鬼退治を未だにしている二人だったが、ケインにはそのような危険を冒すような仕事はさせたくなかった。そこで、二人はケインに自分達の仕事を明かさずに育てた。あくまで自分達は百姓で、そのような危険な仕事はしていない。そのようにケインには伝えていた。
ルカは、五歳になったケインにも農作業を手伝わせた。ルカとリュウは両親が居た頃の記憶がない。人生の中で孤独を感じた時期が長かった。ケインにはそのような寂しい思いはさせたくない。そこでルカはなるべくケインと一緒に居ようと仕事を手伝わせたのだ。頻度が減っているとはいえ、吸血鬼退治は続けている。ルカも何時果てるかどうか分からない命だ。ケインは夜に出掛ける両親を知らない。
吸血鬼退治が続いているとはいえ、穏やかで平穏な日々だった。ケインは忙しい両親を気遣い、我儘を言わなかった。朝になって帰って来なかったとしても、寂しいとは言い出さなかった。ケインは年頃の少年にしては落ち着いていた。恐らくだが、何処かで両親を心配させたくないと思っていたからだろう。
ベルモンドを倒してから、十年程凪のように穏やかな日々が続いた。かつて暮らした家でリュウとケインと過ごす日々は幸せだった。これからずっと、ケインが大人になるまでそのような生活が続いて欲しい、ルカはそう願っていた。
ところが、ルカには心配事が二つあった。一つは、ルカはある団体にずっと追われていた事だ。追っ手は、大教会の魔女狩りの集団だった。一人で吸血鬼狩りをしていた頃に狙われた。ルカはその頃は吸血鬼の力を使っていたが為に、人々から嫌われていた。魔女狩りはそれに目をつけたのだ。彼らは人ならぬ力を使うルカを見つけて処刑しようとしている。ルカは周囲を巻き込まないように誰にもそれを伝えていないが、しつこい魔女狩りはいつか必ず自分を見つけるだろうと恐れていた。
もう一つは、ルカの身体が|吸血鬼になろうとしている事だ。ベルモンドを倒した頃は平気だったが、吸血鬼の力を宿している以上、吸血鬼化は免れない。今まではリースの耐性でどうにか保っていたが、それでは耐えられない程に吸血鬼としての力が増大していたのだ。そのうち、日光を浴びれなくなり、血肉以外のものが食べられなくなるかもしれない。
ルカはそれを何時二人に伝えるか悩んでいた。このまま三人で暮らせば、ルカか二人を喰ってしまうか、魔女狩りに三人諸共殺されてしまうだろう。夫と息子が出来たのに自分は普通の人間の幸せは得られないのだろうか。ルカは一人自分の身体を恨んでいた。




