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攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─  作者: てんたくろー
番外編

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288/1871

ソフィアとヴァール─世界の守護者たち─

 特に謝られる覚えのない俺に、けれどヴァールは沈痛な面持ちで語る。

 

「……150年前、当時のアドミニストレータだったソフィアと、そのパートナーだったワタシは三界機構に敗れた。殺され、逃げて、そのせいで決定的な侵食を許してしまった」

「まさかそんなことで謝罪とか、馬鹿なこと言うなよ?」

 

 とんでもなく見当違いな自責を抱いていそうなヴァールに、即座に釘を刺す。

 ソフィアさんを筆頭に歴代アドミニストレータは全員、その使命を立派に果たしてくれた。邪悪なる思念との終わりない戦いという地獄に、それでも決死の思いで立ち向かっていってくれたのだ。

 

 コマンドプロンプトの心を揺さぶるほどに、そんな彼らの姿は偉大で尊いものだった。

 パートナーを務めてきたヴァールだってそうだが、そんな彼ら彼女らを、最終的に敗北したなどと誰が非難できるだろうか、誰が非難していいものだろうか。

 たとえヴァール自身にだって、そんなことは言わせられない。力を込めて、告げる。

 

「お前たちが、どれだけ命を懸けて世界を護ってきたか私は知っている。敗れた後でさえ、どれだけの覚悟で大ダンジョン時代を生き抜いてきたのか……俺には到底、想像すらできない辛苦だ」

「コマンドプロンプト……その労り、ありがたく思うが。しかし」

「お前たちのせいなんかじゃない、断じて。この世界のあらゆるものが力を尽くして辿り着けた今は、間違いなくお前たちのおかげでもあるんだよ」

 

 言い募ろうとする彼女を制して言い切る。ソフィアさんたちアドミニストレータと、先代パートナーたるヴァールの存在も、今ここに至るにはなくてはならないファクターだった。

 敗北してなお、私たちシステム側に手を貸してくれて、WSOという大規模な探査者組織を組み上げたソフィアさんとヴァールの献身たるや、その功績は計り知れないものだ。

 ただ、ただ、深い感謝がある。150年もの間、水面下で戦い続けてきてくれた彼女たちは、やはり世界の守護者に違いなかった。

 

 そう言うと、ヴァールは俯き、目を閉じ感じ入るように深呼吸を繰り返してた。ややもすれば、涙すら滲ませていたのかもしれない。

 ずっと、敗北したことへの罪悪感を抱えていたのか? だとしたら、どうか俺の言葉で以てそんなものからは解放されることを祈る。

 誰より頑張ったあなたたちが、そんな苦しみを背負う必要なんてどこにも、ありはしないのだから。

 

「ありがとう……ああ。なんだか、救われた気持ちになった。あなたは、やはり救世主なのかもしれないな」

「……頼むから香苗さんの団体に入るとかは止してくれよ?」

「さて、それはどうしようか? 入信してあなたを崇め奉るというのも、中々悪くない気がしてきたんだがな」

「やめて」

 

 俺の懇願に、憑物が取れたような柔らかい微笑みをヴァールは浮かべた。

 ソフィアさんによく似た、けれど彼女らしい、どこか生真面目な笑顔だった。

 

「入信? 今あなた、入信と仰りましたか? 仰りましたね?」

「ほらきた! どうするんだよお前、召喚しちゃっただろ、本物の伝道師!」

「う……」

 

 まあ、冗談でも例の組織のことを口にした以上、伝道師様が絡んでくるのは避けられないんですけどね。

 議論を打ち切り颯爽と現れる香苗さん。望月さんと二人で爛々と目を向け、入信を迫っている。ああ、思わずしての展開にヴァールの目が死んでいく……可哀想だがこればかりは自業自得だ。

 助けを求める視線から顔を背けて、俺は何食わぬ顔でアイを抱えて立ち上がり、その場を離れた。少し離れた席で、リンちゃんと座るベナウィさんの隣に落ち着き、遠巻きに啓蒙攻撃を受けるWSO統括理事を眺める。

 

「いやー、雉も鳴かずば撃たれまい、とはこのことだなあ」

「ハハハハ! いくらコマンドプロンプトとはいえ、ミスター・公平はやはりミスター・公平ですねえ」

「俺の自意識はたしかに山形公平ですからね。コマンドプロンプトの前に、15歳の高校生男子なんですよ」

 

 だから狂信者と距離を置くことだってするし、子犬のようなヴァールを見捨てて一人、安全圏から高みの見物だってしちゃうのだ。いや、本当にまずい展開になりそうなら止めるけども。

 今回ばかりは、みだりに入信とか口走っちゃった方が悪いよなあ。と、自己を正当化させつつも俺はアイを机に放した。相変わらず無垢な様子で可愛く鳴いて、今度はベナウィさんに寄っていく。

 エクセレント、と彼は小さく呟いた。

 

「なんというプリティ・ドラゴン……3匹いたら一匹くらいは持ち帰りたいくらいですが、残念ながら一匹だけですしね。何よりあなたのご家族だ、ミスター・公平」

「ええ、そうですね。ご家族さんも、動物とかお好きで?」

「私も含めて目がなくて。いやあ、あれこれと10種類は飼っていますよ」

 

 そんなに!?

 まさかの動物園かよベナウィさん家。ちょっと興味湧いてくるんですけど。

 

「スマートフォンに家族たちとの写真を撮っていますよ。見ますか?」

「あ、それはぜひ」

 

 家族想いなこの人は、スマホの容量を半分食う勢いで写真を撮っているって話だ。どんなご家族さんなんだろうと気になって俺は、そこからしばらく、彼のアルバムを見ていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ステイ! ステイですよ狂信者たち! その人はどっちかって言うと聖人とか殉教者として称えられる方ですからね?
[一言] 見捨てる判断早すぎぃ! さすが500年隠れ続けたうえにTVの前でシャイニング山形披露してあんやくしただけある
[一言] リバースカードオープン! ドンッ☆ ≫本物の伝道師≪ ヴァールがんばれ……
感想一覧
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