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攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─  作者: てんたくろー
番外編

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287/1999

ヴァールとアイと山形と

 俺の権能についての話はさておき──香苗さんや望月さんは嬉々としてあれこれ、因果改変について議論しつつもメモメモメモりしてるけど──、アイとのふれあいの時間は続いていく。

 リンちゃんもひとしきり遊んで満足したのか、なんならお眠みたいでうとうとしている。昼、あれだけお寿司食べた上にアイ相手にテンション爆上げで遊んだんだからそりゃあ、疲れて眠たくもなるよな。

 

 そんなわけで今度はヴァールが、アイの相手をしてくれていた。

 複雑そうな顔で、それでも頭を優しく撫でる。

 

「ううむ……元はあの、小憎らしい顔の餓鬼の一部だったとは思えんくらいに無垢だな。邪悪さの欠片とてないように思う」

「きゅー? きゅう、きゅー」

「むう……」

 

 つぶらな瞳で見てくるアイに、邪悪なる思念への敵愾心が人一倍強いだろうヴァールも、さすがに毒気が抜かれたみたいだ。アイはアイだと、腑に落ちてくれたのかもしれない。

 そういえば、と尋ねてみる。

 

「アイの研究ってさ、いつ頃終わるんだ? たしかマリーさんからはそれが終わり次第、俺が引き取るようになってるって聞いてるけど」

「ん……? このドラゴンの研究か。末端の話ゆえ、あまり気にしてもいなかったが。どれ、聞いてみるか」

 

 キョトンとされたが、すぐにヴァールはスマホを操り、誰かしらに電話をかけ始めた。

 考えてみれば当然なんだが、世界規模の組織のトップが、一研究所のあれこれまで把握してるわけなかったな。こりゃ、悪いことしたな……別に確認とかまではしてもらわなくても良かったんだけど。

 

「きゅ? きゅーきゅー、きゅう?」

「あ、ああ大丈夫。ありがとな、アイ」

「きゅう!」

 

 若干気まずい感じになっちゃった俺の手に、アイがとことこ歩いてきて前足を乗せた。どうしたのー、だいじょうぶー? と案ずるように覗き込んでくるドラゴンに、笑いかけて安心させる。

 よかったー! と言いたげに、甲高い鳴き声をあげるのを微笑ましく思っていると、何やら話し込んでいたヴァールがスマホをしまい、俺に言ってきた。

 

「待たせてすまないな。そこなドラゴンの研究だが、やはり秋頃まではかかるらしい」

「そっか。いや、なんかごめんな。催促したみたいで」

「気にして当然の部分だろう。それに、引き取り自体はもう許可を下ろさせたからな」

「え?」

「きゅ?」

 

 首を傾げる俺とアイ。え、どういうこと?

 詳しく話を聞いてみると、これがまた……さすがお偉いさんだな、という強権発動って感じのやり取りがあったらしい。

 

「そこなドラゴンを常時、研究所に置いておかずとも構わんだろう? 幸いにして飼い主の家も近いのだし、夏休みとなれば学生であるあなたは暇だから、研究所までドラゴンの送り迎えはできよう」

「いや、できるけどさ……」

「無害な生態であることはすでに検証済みとのことだし、あとは飼い主の元に返すのが妥当だと判断し、指示を出した。もう本日中には持ち帰って良いぞ」

「仕事が早い!?」

 

 怖ぁ……まさに鶴の一声じゃん。ていうかたしかに夏休みだし基本、笑いがこみ上げてくるくらい暇だけどさ。何もそんな面と向かって言うことないじゃん。

 暇人扱いにさり気なくショックを受けつつも、しかしアイを今日にでも引き取って良いってのは、嬉しい報せだと頬を緩める。アイも状況を把握して喜んでいるみたいだ。

 

 前から思ってたけどこの子、相当に賢いよなあ。間違いなく、人間の言葉を理解している。

 さすがは邪悪なる思念、すなわちかつてのワールドプロセッサの一部だっただけはあるってことかな。

 

『そんな愛玩動物と一緒くたにされてもね。愛でられるだけのモノなど、完全とは程遠い』

 

 おっと、当の邪悪なる思念さんからの物言い。相変わらず完全なんてもんに拘るあたり、先はまだまだ長そうだ。

 アイを指先でくすぐりながら──こそばゆそうに仰向けになって楽しそうにじたばたする姿には、野生の欠片もない──、俺はヴァールに礼を述べた。

 

「ありがとう、ヴァール。うちの家族も喜ぶよ」

「この程度、なんの苦にもならないさコマンドプロンプト。ただ……」

「?」

 

 にわかに言い淀む。ヴァールの表情は、何やら悩みを抱えた者のそれだ。

 どうしたんだろう? 戸惑う俺に、やがて彼女は口を開いた。

 

「邪悪なる思念の意識を宿しているのなら、そこなドラゴンを良からぬことに利用されないよう、重々注意してほしい。ないとは思うが、やつは何をしでかしてもおかしくないからな」

「……気付いていたのか」

「後釜からそのへんについては、ある程度の経緯は聞いているよ。邪悪なる思念の末路は、何をおいても把握しておきたいことだったからな」

 

 微笑み、ヴァールが答える。

 うーむ。少なくともソフィア・チェーホワやヴァールにはいずれ、言わねばならないとは考えていたが、リーベがすでに話していたのは予想外だった。まあ、隠すような話でもないしな。

 無表情を崩した優しい笑みのまま、続ける。

 

「あなたらしい、優しい振る舞いだと思う。ソフィアを殺めたモノが、意識のみとはいえ生き永らえていることは個人的には複雑だが、他ならぬあなたの判断であればワタシは受け入れるよ」

「面白い話ではないだろうに……すまないな」

「謝らないでほしい。ワタシこそ、ワタシたちこそ謝らなければならないのだ」

 

 憂鬱げにヴァールは言った。謝る?

 そう言えば決戦前からちょいちょい、謝りたいとかなんとか言ってたな。なんか謝るようなこと、あったっけ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 完璧には程遠い……だが貴様にはこの完璧な愛らしさの欠片もないのだぞ?
[一言] なんかリーベちゃんがバラしたみたいな感じになってますけど、精霊知能同士の意識共有のせいでは! リーベちゃん悪くない!
[一言] アイが邪悪なる思念の体の一部だったことといい、邪悪なる思念の意識が山形君に宿っていることといい、ヴァール的にはやっぱり凄い複雑なんですね 一応納得してくれてるけど
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