張った心の糸
「私があんたと、どれだけ長くいると思ってるのよ」
張っていた糸がプツンと途切れるように、私は啖呵を切り出した。
そう思うと、ラフィーが問題を起こしたと聞かされた時から、なにか自分の中で降って積もるものがあったんだろう。
人を救うことは頷けても、規則に逆らうようなことを簡単にするのは考えにくい。というか、あるわけがない。それこそ延命程度なはずだ。
きっとだけど、私は不思議な気持ちと彼を理解できていなかった悔しさが、重なっていたんだ。
「大体ね、四大天使として規則をきっちり守っていたあんたが、人を救いたいって私欲の為に安易に救うはずがないのよ。治癒能力が狂ったわけもない。なら、規則を破ってまで救いたいって思ったはず。自分が消える覚悟をしてたはずなの」
静かに訴えようとしていたつもりなのに、勝手に声が高くなっていく。皆もラフィーも、私の言葉に押されていてなにも言ってこないから、余計私の声が通る。
まだまだ言いたいことは有り余っている。けど、これはアークの問題なんだ。私とラフィーの対立の場じゃない。
だから言いたいこと、胸の内の思い全てを、叫びにも近い言葉に濃縮させて飛ばすことにした。
「教えて。本当はアークの為なんでしょ? あなたの真意を教えて!」
喉の辺りが、弦を指で揺らしたみたいに響いた。僅かに息が切れていた。自分のターンは区切りだという風に、一歩身を引いた。
ただし、ラフィーの目はじっと見つめたままだった。
「……」
ついさっきの私のように、服の裾をぎゅっと握っている。口が半開きになっているのが見えて、口呼吸をしているのがわかる。
じっと、考え込んでいるんだろう。そしてそれはきっと、この場の全員が理解している。沈黙はさっきからの不変なことだけど、張りつめたものではない気がする。
例えるなら、大勢の前に立たされた引っ込み思案な子が、重大な決断をするのを固唾を飲んで見守っているような。
私は心底から願って、心中の言葉をぶつけた。それは絶対に、ラフィーに届いているはずだ。本当は願望に近いんだろうけど、核心になりつつある。
そうやって、重くのしかかる謎の圧から逃れるための自問自答を続けて、時が経った。
「……ボクは」
彼の、声が鳴った。
「もう、逃げられないな」
ふと、口許を見て笑っているのが見えた。俯いていて顔に影ができていたから、悲しさも同時に感じたけれど。
「今気づいたのか」
神がどこに向けるでもなく言う。
「はい。話します。今度こそちゃんと」
いつのまにか外側を向いていた体を、私たちの方に直した。下向きにしていた顔は上げて、きっとした真剣な表情を見せた。
「……お願い」
アークの声が場に通る。すると、その時だけは、ラフィーがアークに向けて、にっこり笑っていた。とても、とても優しい笑顔だった。
次の瞬間には整えた表情になっていたけれど、アークは気づいていておどおどとしていた。
実は私には、見当がついていたのだ。自棄をしてまでアークを救い、そしてそれを頑なに隠していたわけが。
でも、確証はない。彼の話をおとなしく聞くことにしよう。
「奇跡と言えるタイミングでしたね。思えば。アークが車に轢かれてしまった直後、ボクは出かけたんですよ」
そんな出だしで、語りが始まった。
お読みいただきありがとうございます。
ついに次回は、アークの体が生きていた謎の全容が明かされます。
筆者自身も頑張ってまとめますので、読んでスッキリしてください。




