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82話 悪逆を重ねた生の果てに

 side:カミーユ・イレネース


 二、三日ぶりの我が家に帰ってきた。本来ならば遠征や任務以外ではあまり家を空けることはないのだが、今回は別の理由があった。

 どうやら国王様と女王様の容体が更に悪化したらしい。その報告を受けて、渋々ながらも見舞いに行ってきたのだ。


「面倒くさいですね……。いっそ、早く逝ってしまえば良いのに。忠臣の振りをするのも楽じゃないんですから」


 病によって弱り切ってかつての威厳など微塵も感じさせない二人の姿を思い出して悪態をつく。

 カミーユ・イレネースにとってシン国は、都合の良い趣味と実益を満たせる場でしかないのだ。


 幼い頃から、他者が苦しむ姿を見ることが好きだった。絶望に歪み、死に怯え、暴力に屈する人の姿は、私の心を昂らせた。

 だからシン国のことを知った時は驚いたのだ。他種族を排斥する、それはつまり───彼等に人権は無く、気の向くままに好きに弄んでも構わない、何をしても罪には問われないということだったのだから。


 屋敷の中に入ると、奴隷(ペット)たちが地にひれ伏して私を待ち受けていた。

 この光景を見ることでようやく帰ってきたという実感が湧く。


「クロース」


「はい、カミーユ様」


 呼び掛けると、森精種(エルフ)奴隷(ペット)の女が四つん這いのまま足に擦り寄ってくる。


 彼女は私が一番初めに購入し、たっぷりと躾けてきたとっておきだ。

 初めの一人は必ず森精種(エルフ)にすると決めていた。理由は単純、彼等は長命で絶世の美貌の持ち主だからである。

 そんな人より優れた存在を地に貶め、自身にとって都合の良い道具にすることに快楽を見出さない筈がなかった。


「お尻を上げなさい」


 私からの指示を待っていたクロースにそう言いつけると、四つん這いのまま前に身体を傾げて尻を高く持ち上げる。

 色白で綺麗な身体……私の、私だけの愛しい奴隷(ペット)

 私からの愛を与えるために、魅惑的で形の良い尻に向けて手を振り上げて思い切り振り下ろした。


「ぁぐぅっ!?」


 何度も、何度も。白いお尻が赤くなるまで何度も叩く。


「うぅっ!! ぅあっ! んぐっ!?」


 打擲(ちょうちゃく)の音は高く鳴り響き、他の奴隷(ペット)たちはただ地に伏せたままクロースの苦悶の喘ぎと共に聞き入るしかできない。

 必死に耐えるクロースの姿が可愛くて愛らしくて思った以上に興奮してしまった。


「クロース、今夜は私と寝なさい。これ以上にたっぷりと可愛がってあげるわ」


「……ぅ、はい……かしこまりました……」


 足をクロースの顔の前に持っていくと、いつものように口付けさせる。

 それからすぐに立ち上がって、いつもの澄ました表情で一礼して私の着替えを用意しに立ち去っていった。

 そうやって澄ました表情をしているからもっと虐めたくなると、気付いているのかしら。

 クロースの後ろ姿を見送りながら、いつまでも玄関にいる訳にもいかないのでさっさとお風呂に入ってしまおうと浴場へ向かうことにした。



 入浴を終えて、夕食も済ませた。これからが私の最も楽しい時間だ。

 ここを出る前には中身を抜いた女とバラバラにして遊んだ男がいた筈。まだ生きているかしら、それとももう死んじゃったかしら?

 男にはそれなりの薬を使ったのでまだ死んではいないだろうが、女の方は飽きてすぐに放り投げたから死んでいるかもしれない。

 まあ死んだら死んだで新しく買うなり攫うなりすれば良い、それにまだ女は二人残っている。


「うふふっ、うふふふふふっ。今度はどうしようかしら? 鞭で叩かれたくらいで泣き喚いた娘は飢えた男たちに犯し殺させるのも良いかも……でもすぐに壊れちゃいそうだなあ……。まあいいか、女に飢えてるなら生きてても死んでても関係なく使うわよね」


 そんなことを考えながら地下室の扉を開ける。

 澱んだ空気、血と汚物の腐った臭い。私の為の遊戯室。

 小さな石造りの広間と、壁際に詰め込むように置かれた多種多様な拷問道具。奥には生贄を捕らえておくための牢があり、壁と天井の中央には魔力で灯る照明。

 そして中央の石台の上にはバラバラにした男の姿が……


「……無い? どういうこと? まさかあの子たちが……いえ、それは無いわね。あの子たちは此処には入らないし入れない。一体、何が」


 計算ではまだ生きていた筈の男がいるのだ、だが石台の上には血で汚れた後はあるものの何も無かった。

 クロースを含め、此処で行われている所業は知っている筈である。もし無断で立ち入れば次は自分がこの部屋の餌食になることも。

 出立前とは違う地下室の状況を不審に思っていると、背後から物音が聞こえた。


「───ッ!! 誰!?」


 振り返るとそこに居たのは、そこそこの長身の黒いローブを纏った男で……。男は無表情に私を見ていた。そして、既に決定された結果を告げるように、私に言葉を投げかける。


「カミーユ・イレネース。此処がお前の死に場所だ」


 声が聞こえたのと同時に、私は壁まで吹き飛ばされる。


「……くはっ……ぁ……」


 強く背中と頭を打ち、痛みを覚えながらも頭を強く打ったせいで意識が遠のく。

 私の第六感は目の前の存在に必死に警鐘を鳴らしながらも身体は言うことを聞かず、ただ無様にこの場から逃れようと地を這う。

 しかし遠のいていく意識を繋ぎ止めることが出来ず、やがて目の前が真っ黒に染まるのだった。







 ーーーーーー







 意識を失ったカミーユを見下ろしてため息を吐いた。

 ずっとこんな澱んだ空気の空間に居たのだ。臭いも身体に染み付いてしまったし、何より気が滅入る。


「あのイレネース嬢が一瞬で……。セイゲンさん、一体何やったんだ?」


 気絶した彼女の頭をつま先で突きながらスパロウマンは声を掛けてくる。純粋な好奇心による疑問なのだろう。


「一瞬だけ突風を吹かせた。風の魔術の応用だよ。叩きつけた際に頭蓋を粉砕せず、背骨や首の骨を折らない程度に加減するのは面倒だった」


「うへぇ……」


 色々な感情の入り混じったような声を発した後、聞いてもいない感想を述べるのだった。


「でも風ってあんなに吹っ飛ぶもんなんだなあ。人をあんなに軽々と吹っ飛ばすなんて……怖い怖い」


「……それを本気で言っているのなら驚きだよ」


 風の力と恐怖は一般常識だと思っていたが、違うのだろうか。そんなスパロウマンに呆れつつ、カミーユを石台に乗せて両手足を広げ、抵抗出来ないように鎖付きの手錠で拘束した。

 その様子をじっと見てるので、どうしたか尋ねてみる。


「どうした、そんなに熱心な視線を送って」


「いや、なんかな。こうやって黙ってるとただの上玉な女でしかないんだなあって思ってよ。本性を知ってるから欲情すらしねーけどな」


「そうか。正直意外だ。どうせ殺すなら使わせろとか言われるかと思っていたぞ」


 私の心無い一言にスパロウマンは傷付いたようによろめいた。


「ぐっ……! 幾らセイゲンさんでもそいつは酷えや! でもそう言われると何だか勿体無い気もする……!」


「……もしやるなら止めはしないが、軽蔑することだけは覚えておけよ」


 本気で悩み出した様子に冷めた目を送る。

 さて、折角の彼女御自慢の拷問道具だ。使ってやらなければ申し訳ないだろう。

 カミーユがこの部屋を訪れるまでにある程度厳選しておいた道具を用意して彼女の目覚めを待つことにするのだった。




 時間にしておよそ一時間といったところか。

 横たわったカミーユの瞼が痙攣し、薄く開く。


「ここ、は……。私は、何を、しようとして……。っつ、頭、身体が……痛い……」


 焦点の定まらない瞳でぼんやりと辺りを見回して……私と目が合ったことで、徐々に意識を取り戻していった。


「そうだ……私は吹き飛ばされて……。あなたっ、私が誰だか知っててこんなことを! っつう!?」


 怒りを剥き出しにして吠え掛かってくるが、自分の今の状態には気付いていなかったのだろう、手錠に動きを制限されて痛みに呻く。

 もし拘束されてなかったら掴みかかってきたことだろう。それほどの迫力があった。


「勿論知っているとも。カミーユ・イレネース。シン国第二師団団長、階級は大佐。数々の拷問を行い何の罪もない異種族の人々を虐殺した悪魔」


 淡々とあくまでも事務的に読み上げていく。

 私の言葉を聞くと、動くことは出来ないからだろう睨みつけてきた。


「私を知っててこのようなことをしたと……そう言うのね。目的は何? 私の奴隷(ペット)かしら? それとも地位? 財産?」


「貴様の命だ」


 私は侮蔑を込めながら話す彼女の言葉を下らないと一蹴するように言ってからカミーユの左手に十字型の杭を打ち込んだ。


「っああああアアァァァァアああ!!!??」


 絶叫を上げ苦痛に暴れようとするものの拘束されている為に叶わない。

 その間に反対の右手にも同じように杭を打ち込むと再び絶叫を上げる。


「痛いっ! 痛い痛い痛いいたいいたいイタイイタイイタイ!!!」


 他人には散々酷いことをしてきたくせに、どうやら自分がやられる立場になるとは考えたことも無かったらしい。


 本来、痛みを知る人間は他者を傷付けたりはしないものだ。傷付けるのは痛みを知りつつも他人にも自身と同じ不幸を願う者か、痛みを知ることなく生きてきた者である。

 どうやら彼女はこれまで痛みを知らずに生きてきたのだろう。

 彼女の境遇の不幸か、はたまた指摘してくれる良き人物に恵まれなかったかは定かではないが……彼女は、やり過ぎた。


 痛みに叫くカミーユの足に、危険物と書かれた液体を垂らす。

 鼻のつくような異臭を放つ液体は彼女の足に触れるとじわりじわりと溶かしていった。


「アアァァァァアあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!! 熱いッ!! 焼ける、焼けちゃう!!?」


 どうやら強力な酸らしい。皮膚が溶けて更に異臭を狭い地下室に撒き散らした。

 臭いに辟易としながら、茫然と見つめていたスパロウマンに声を掛けた。


「何もしないなら出て行け。気が散って邪魔だ」


 私がそう言うと、首を横に振ったあと頬を張って前を向いた。


「いや、俺もやる。セイゲンさんだけに任せるのは悪ぃし、なにより……身内の不始末だからな」


 覚悟を決めた表情で拷問道具を取りに行く。私はスパロウマンの思い詰めたその様子を見て苦笑した。


「そこまで気に病むことでもあるまいに。だがまぁ……その心遣いには感謝しよう」


 地下室内にはカミーユの呻きと叫びが不協和音のように鳴り響く。

 だから私の言葉は彼には届くことは無かった。




 いったいどれ程の時間が過ぎただろう。

 私もスパロウマンも返り血に塗れ、台上のカミーユ・イレネースだったものはまだ人の形をしているのが奇跡なほどだ。薄く胸が上下しているので命の灯火はまだ消えていない。


「……ぁ、……たす、け……て……」


「……貴様はどれだけのその願いを断ち切ってきたのだろうな」


 死なないように治癒魔術(ヒーリング)を掛けながら、これまで彼女に殺された人々の分まで痛め付けた。

 まともな思考ではこんなことは出来ないので心を凍らせてカミーユに拷問を行なってきたが……。


「いや……もう、何も……かも……どうでも、いいや……あはっ、あはは……あははは、はは……」


「……セイゲンさん」


「ああ。心が、壊れたか」


 カミーユは痛みを忘れ、自分を忘れ、ただ壊れた人形のように笑い続けた。

 虚ろな瞳は虚空を見つめ、彼女は完全に壊れた。いや、壊した(・・・)と言うべきだろう。

 とどめを刺すように一思いに首を切り落とし、壊れたカミーユ・イレネースはこの世を去った。


「……割り切ってはいても、虚しさは募るばかりか。何が正解かなんて、いつまで経っても私には分からないよエレノア」


 つい漏れてしまった独り言。亡き最愛の妻の名を呼んで弱気になってしまった己を律する。

 元々カミーユは殺すつもりだったのだ。さっさと切り替えて次のことを考えなければいけない。

 これは始まりなのだ。今度はシン国の民を殺すことになる。人の命を刈る、その重さに潰されないように自分の信じた道を歩いていくしかないのだから。


「戻ろうぜ、セイゲンさん。多分、クロースちゃんが風呂の用意をしてくれてるぜ」


「そうだな。この異臭ともようやくおさらば出来る」


 スパロウマンと共に地下室を出る。最後にカミーユの亡骸を見て、一度だけ首を振ると扉を閉めた。

 もう二度と開けられることのないこの部屋で彼女は一人朽ちていく。

 それは悪逆非道を行なって多くの人を殺してきた女への最期の罰だった。



もっとエグい拷問描写も考えたけど、それをやるならR-18でやれってなるので割とマイルド(?)です。

勿論描写してないだけで相当酷いことやってますけどそこはご想像にお任せ致します。

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