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79話 シン国内に潜入

 シン国の街並みは、人工的に整えられ区画整備がされた利便的なものだった。

 だが、それを台無しにするのがこの国に多く存在する異種族の奴隷の姿である。

 普通にしていれば良い街なのだが、そこら中で奴隷と化した異種族の者を暴行したり、嬲ったりするものがいるのだ。

 こんな状態で良く治安が悪くならないものだと思ったが、只人(ヒューマン)たちの醜い感情は全て異種族にぶつけられるので人々は精神的に余裕があるそうだ。

 勿論、異種族が問題を起こせばすぐさま処分されることになるので只人(ヒューマン)にとっては平和なように見えるだけだが。


 そんな私は現在、シン国の路地裏にある地下部屋に居た。

 そこは本来なら存在しない場所で、潜伏先として今さっき用意したのだ。なので家具も何もありはしない地下空間だけがここにある。

 僅かな時間でこんなものを用意出来るのは土石を操る黄属性魔術の特権というやつだ。


 同行者のウェリントン・スパロウマンはこの国では有名人だ。バレると面倒なので街を歩いているときはフードとマスクで顔を隠させたが、街の人々に軽く話を聞いてみると、スパロウマンはほとんどの人に『髭の人』で覚えられていることを知った。その為、バレないように今現在奴には蓄えた髭を全て剃らせている。

 最初はかなり嫌がったのだが、毛根ごと燃やすと脅したら渋々受け入れた。どうやら相当気に入っていたらしい。


「ああああ……髭が……俺の髭があ……」


 物凄く悲しそうな声と表情をするスパロウマンに多少なりとも罪悪感が湧いてくる。


「終わったらまた伸ばせば良いだろう。そうだな……毛の成長促進に効果のある薬を作ってやっても良いぞ」


「本当か!!? 本当に良いのか!!?」


「あ、ああ。効果は一応実証済みだから、髪でも髭でも生えてくるだろう」


 そんなことを話していると、スパロウマンは髭を剃り終えた。髭が無ければ中々の美丈夫である。女性受けも悪くなさそうだ。髭のせいである程度の年齢だと思っていたのだが、実際はもっと若いのではないか?


「お前は今、幾つだ」


「あ、俺? 二十四だよ」


 疑問に思って尋ねたが、帰ってきた答えは予想外のものだった。


「はぁ!? あの髭モジャのむさ苦しい男が二十四だと!? ……もう四十はいっているかと思っていたんだが」


「おいおいセイゲンさんよ……そいつは酷過ぎやしないかい……?」


 あまりに老けて見られたせいだろう、スパロウマンは肩を落として落ち込むのだった。


 面倒なのでそのまま放っていたのだが、しばらく放置しておくと勝手に立ち直っていたので、今後の予定を詰める。


「とりあえず、此処が仮の拠点だ。さてこれからだが……」


「質問いいですかい?」


「何だ?」


「なんで宿を取らないんですかい?」


「スパロウマンの質問ももっともだ。本来ならば私とてきちんとした宿を取りたい。だが、そこら中で異種族をいたぶる様子を見ながら安穏としていられるほど私は人間が出来ていないのでな。それに……世話になったとしてもどうせ殺すのだ。ならば余計な情など湧かないようにした方が良いと思った。それだけだ」


「……セイゲンさんがこの国のことが嫌いってのはよーく分かりやした」


「何を今更。皆殺しにすると言っている時点で分かることだろうが」


 呆れたように一つ息を吐いた。先ほど質問されて話が中断されてしまったのでその続きから話すことにした。


「これからだが、先ずカミーユ・イレネースを殺そうと思う」


「俺が言うのも何だが、イレネース嬢はあんたにとっちゃ塵芥だと思うぜ。勿論、実力差って意味でだ。すぐにひねり潰せるだろうに、何故狙うんだ?」


「理由は二つある。一つは幹部クラスを先に仕留めればこの国の指揮系統は大きく乱れるからだ。幹部候補生くらいはいるやもしれんが、実際戦場を知る幹部と比べれば雑魚にすぎん。そしてもう一つ、こっちが理由の大半なのだが……」


「おいおい、そんな中途半端にしないで教えてくれよ!」


 私が少し間を置くと、スパロウマンは耐えきれずに先を促した。

 もともと話すつもりだったので普通に教えることにする。


「もう一つは私怨だ。私の妻の一人があの女のせいで危険な目に遭ったのでな。危うくお腹の子と共に死にかけたのだ、絶対に許さん。お前から奴は拷問好きだと聞いて、ちょっとした仕返しに人格が崩壊するまで身体を壊した後に殺してやろうと思っただけだよ」


「怖え!!!!」


「具体的な処理方法も浮かんでいるが、聞くか?」


 私がそう言うと首を物凄い勢いで横に振る。

 私も流石に口に出すのは気が滅入るので助かった。


「そう言う訳だ。なあスパロウマン、お前はカミーユ・イレネースの行動を把握していたりはしないのか?」


「んー……どうだったか……」


 私の問いに考え込む。しばらくうんうんと唸っていたが、やがて手を一つ叩いた。


「ならよ、イレネース嬢の家に張り込んで帰ってくるのを待てば良いんじゃねえの?」


「……まぁ、それでも良いが。お前は家を知っているのか」


「そこは俺も幹部だし。いや、もう元幹部か。取り敢えず場所は知ってるぜ。ただあそこには結界が張られているんだが……」


 緑属性で使える結界などほとんどない。おそらく白属性の魔術師でも雇い入れているのだろう。だが相手が悪かったな。


「問題ない。私が無力化する」


「だと思ったよ……。やっぱりそういうのも出来ちまうんだよなあ、ホント、俺よく生きてたよ……」


 再び肩を落とすスパロウマン。

 なんだかんだでこちらに引き入れておいて良かったと初めて思った。これであの女に仕返しが出来る。


 カミーユ・イレネース。お前の不運は、私の妻を巻き込んだことだ。今からそのツケを払って貰う。


 私たちは準備を整えて、夜になる前に隠れ家からイレネース邸へと向かうのだった。

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