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65話 これからの行動

 今日の朝食は、パンにコーンスープ、レタスとトマトと卵のサラダ、チキンの照り焼きだった。

 いつも通りの軽めの朝食だったが、フューリとユニステラにとってはしばらくぶりのまともな食事だったらしく大変美味しそうに食べており、作ったシィナとココノハが心なしか嬉しそうだった。

 いったい何を食べていたのか聞いてみると、


「硬いパンと冷えた味の薄いスープよ」


「ごく稀にお肉が出ましたね。ものすごく硬いやつでした」


 という素敵な回答を頂いた。二人には是非味わって食べてもらいたい。


 そんな朝食を済ませると、私は集まっている彼女たちに向けてこれからのことを話し始めた。


「私はクルルと共にしばらく此処を留守にする。東のシン国が森精種(エルフ)の集落に向けて動きがあるそうでな、止めてくることになる」


 クルルは当然といった様子で一度頷いた。

 それを聞いた彼女たちはそれぞれの反応を示す。


「ふうん。シン国……ね。あまり良い話は聞かないけれど、あたしたちは今回はお邪魔なのかしら?」


「多分違いますわよシィナ。シンは他種族排斥が常の国ですの。わたくしたちを危険に晒さないためのホシミ様の優しさですわ」


「赤ちゃんを連れてそんな危ないところには行けないウサ。私はお留守番ウサね」


「ああ、そっか。ユキユキを一人にはさせられないわよね。じゃああたしとリアはユキユキと一緒にお留守番かしら」


「そうですわね。ホシミ様と共に在れないことは残念ですが、ホシミ様の赤ちゃんを守ることも大事な務めですの」


 リア、シィナ、ユキユキは双子の赤ちゃんのために残ることで意見を纏めたようだ。

 今度はココノハたちの様子を窺う。


「嘘……」


「冗談じゃ、ないんですよね……?」


 フューリとユニステラは言葉を失っていた。ようやく逃げ出せた国が再び森精種(エルフ)を手中に収めようとしているのである。

 まあ彼女たちは連れていってほしいと懇願されても置いていくつもりなので問題はないのだが……。胸中は穏やかではないだろう。

 あとはココノハだけである。しばらく難しい顔をしていたが、やがて私の目を見た。


「わたしもホシミさんと一緒に行きます」


 覚悟の篭った強い声で言い切るココノハ。


「間違いなく戦闘になる。危険だぞ、それでも来るのか?」


「はい。……それに、危なくなったら守ってくれますよね?」


 私の念を押す問い掛けに即答し微笑むココノハ。

 それは全幅の信頼を置いた微笑みで、私は苦笑しながら頷くことしか出来なかった。


「当然だ。大切な伴侶を傷付けさせる訳にはいかないからな」


 右手をココノハに差し出すと、嬉しそうに右手を出して手を重ねる。ココノハの右手の薬指には、紫色の指環が光を反射して輝いていた。

 そのまま手を握ってココノハを引き寄せる。クルルは既に左側に控えている。


「明日には此処を出る。二人とも準備はしっかりとするように。リア、シィナ。ユキユキと、私の子を頼む。二人になら安心して任せられる」


「かしこまりましたわ、わたくしの全力を尽くすことを約束致しますの。お気を付けて行ってらっしゃいませ」


「そう思ってもらえるなんて嬉しいわね。……気を付けて、頑張ってね」


「パパ……気を付けてウサ」


「勿論だ」


 リアとシィナそしてユキユキから激励を受ける。

 礼のつもりで頭をひと撫ですると、リアとユキユキは嬉しそうに、シィナは恥ずかしそうにしながら受け入れた。


 二人の頭を撫で終えると、フューリとユニステラに向き直る。

 少しだけ緊張した面持ちで私を見つめてきた。


「二人は留守番だ。同族が危機に陥っていて気が気ではないかもしれないが、どのくらい戦えるのかも分からず、体力の衰えや疲労も回復しきっていない者を連れて行く訳にはいかない」


「ちょっ、待ってよ! 同じ森精種(エルフ)が危ないのにここでじっとしてろって言うの!?」


「そう言ったのだが、聞こえなかったのか?」


 やはりというか、私の言葉にフューリは噛み付いた。無情に思われるかもしれないが、彼女たちの為でもある。


「誰も守ってほしいなんて言ってない! 自分の身は自分で守るわよ、だから私も───」


「連れて行ったとして、お前は何をするつもりだ?」


 フューリの言葉を遮って問いをぶつける。フューリは少しだけ怯んだが、すぐに声を張り上げた。


「何って……そんなの決まってるわ! シンの奴らを殺す! 自分たちが上位種だと信じ込んでる愚か者を殺し尽くすのよ!!」


 視線は射抜くように鋭く、声には怒りが滲み出ている。

 そっとユニステラを見ると、彼女は申し訳なさそうに目を伏せた。


 さて。フューリは只人(ヒューマン)……というよりはシン国の人間か。彼らを心底から憎んでいるらしい。

 正直に言うと、こんな怒りによって冷静さを欠くような人物を共に連れて行くと不測の事態に陥った時に我々全員を危機に陥れかねない。

 だが、彼女の怒りがシン国と戦う者に勇気を与えるのも確かだ。これから行くことになる森精種(エルフ)の集落に住む人々を容易に説得するには彼女も連れていくべきか……?


 そんな風に悩んでいると、ココノハがフューリに厳しい言葉をぶつけた。


「フューリ、正直に言います。今のあなたは足手まといです。わたしたち全員を危険に晒すことになる可能性がとても高いあなたを連れて行く訳には行きません」


「そんな……どうしてですか! ココノハ様!?」


 よりにもよってココノハから言われたからだろう、フューリは取り乱しながらココノハに縋る。しかしそれを意にも介さず言葉を続けた。


「目先の憎しみによって冷静な判断を下せなくなっているんですよ。あなたはついこの間まで奴隷だったんです。ホシミさんも言いましたよね。体調は万全ですか? 魔術はどのくらい使えて、魔力はどこまで回復してますか? 肉体的な疲労だけではなく、精神的な疲労も残っている筈ですよ」


「それは……」


 ココノハの言葉にフューリは言い返せない。自身も理解しているのだ。


「それに、あなたはホシミさんを信頼出来ますか? 一緒に行動することになるんですよ。あなたの嫌いな男性と。耐えられますか?」


「……」


 唇を噛み締めてぐっと堪えるフューリ。その唇から言葉が紡がれることはなかった。


「済まないな。此度の件が終わったら、お前たち二人を受け入れてもらえるように話を通してくる。だからそれまでは此処で大人しく休んでてほしい」


「謝らないでよ……。ねえ、どうしてこんな私にまで優しくするの」


 それは思わず漏れてしまったといった呟きだった。私は顎に手を当てて少しだけ考え込んでから答えた。


「フューリが悪い娘ではないことは分かっている。それに、ユニステラと共に保護することを決めたのは私だ。それくらいのこと受け入れられなければな」


「……」


 それきりフューリは黙り込んでしまった。

 こうして会話は終わり、各々自由に行動する。

 フューリはあてがわれた部屋に向けて真っ先に向かっていった。

 ココノハはクルルと荷物の相談をしている。

 リアはユキユキと一緒に子どもを抱いて部屋に戻っていった。

 残ったのはシィナとユニステラだ。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありません……」


 ユニステラが深く頭を下げてくる。


「ユニステラが気にすることではないだろう」


「そうよ。それにこの人はその程度のことは気にしないんだから」


 何度も頭を下げるユニステラをシィナも一緒になって庇う。


「そう言って頂けると助かります……。その、すみません。フューリの様子を見てきますので……」


「ああ。私は気にしていないと伝えてくれ」


「はい、必ず」


 そう言ってユニステラは一礼をして部屋に戻っていった。

 そんな彼女を見て、シィナが感心したように言葉を発する。


「律儀ねえ」


「ユニステラは心優しい娘のようだからな。フューリとの付き合いも長いようだし、任せておけば大丈夫だろう。それより、ほら」


 シィナの言葉に相槌を打ちながらソファーに身を預ける。そして両手を広げてシィナを呼んだ。


「……うん」


 頬を赤らめながら足の間に収まるシィナ。そのまま抱きしめるように腕を回す。


「留守の間はよろしく頼む」


「うん……あたしがしっかりしないといけないから。だから、ね。ホシミ様……寂しくないように、充電させてね」


 背を私に預けてゆっくりと目を閉じるシィナ。充電と称したこの行為を、シィナは人前で行うのを嫌う。理由は恥ずかしいかららしい。

 先ほど解散したばかりでしばらくは誰も来ないだろう。留守にする分を埋めるように、感謝を込めてシィナを抱きしめ続けた。



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