58話 冬祭り 前編
冬祭り当日。
至る所で賑やかな声が響き渡り、普段は感じられない熱気を雪と氷の街から感じ取れる。
街は冬祭り目当てに遊びに来た龍人以外の種族も多く、新たな客層を呼び込もうと出店している店々が元気の良い呼び掛けを行なっていた。
「おお〜、こんなに寒いのに結構盛り上がるんですね!」
ココノハは薄緑色の厚手のコートを着て白い手袋とマフラーも付けるという用意の良さだった。下がスカートなのが寒そうではあるが、タイツを履いているので素足を露出するよりはまだマシだろうか。
「この国じゃ一番派手なお祭りだからね。まぁ、四季が無いせいで冬祭りしか本気が出せないって前に誰かが言ってた気がするけどさ」
シィナはココノハに軽く受け答えしながら街を眺めていた。
今日は白いロングコートを着ているシィナ。中にはお気に入りの赤いセーターを着ているらしい、コートの間から少しだけ見えている。膝まである黒のブーツを履いているが、慣れているのか歩きにくそうにすることは無かった。
「それはたしか当時の冬祭りの実行委員長だったと思いますの。今は腰を痛めたとかで休養なさっているとお母上からお聞き致しましたわ」
リアはもこもこの付いたすみれ色のキャスケット帽と、帽子と同色のポンチョを着ている。中は白で統一されており、タイツの黒さだけが白い服と白いブーツの間で存在感を放っているように見えた。
「私としては思ったより寒くなかったのが助かるウサ。今日は晴れてよかったウサね〜。ね、ミーちゃん」
ユキユキは腕に抱いたユキミに笑いかけている。
今日のユキユキは黒いセーターの上から朱色のケープを羽織っていた。下は黒のロングパンツを履いているおかげで童顔ながらも少し大人っぽい印象を受ける。
そしてユキユキに抱かれたユキミと私に抱かれたユキノはお揃いの刺繍が入った薄青のフード付きコートを着ていた。二人は人がいっぱいいるのが珍しいらしく、しきりにきょろきょろと周囲を見渡している。
フードを被ったことにより普段は真っ直ぐ立っている耳が半ばから垂れているのだが、フードの隙間から僅かに顔を出している耳にそっと触れると耳でぱしぱしと叩いてくるのが可愛らしかった。
「こーらパパ、ノーちゃんの耳で遊んじゃ駄目ウサよ」
「ああ、すまない。あまりに可愛らしくてつい」
ユキユキに見咎められてしまったので耳に触れるのは止めるのだった。
「さて、これからどうしようか。リアとシィナは冬祭りによく出かけていたが私はあまり行かなかったからな。勝手が分からん」
今現在、私たちは王宮の門を抜け、街まで続く一本道を歩いて丁度街に到着したところだった。
私の言葉にリアとシィナは冬祭りのおすすめを語ってくれる。
「最初はやっぱり氷像かしら? 不思議なことに年を経るごとにどんどんと精巧さが増していくのよね」
「二百年間作り続けている方もいらっしゃるくらいですの。広場はまだお店くらいしかありませんし、氷像も数が多いですので先に見て回ることをお勧め致しますわ」
「そうそう、どの氷像が一番かを決めるアンケートもあるから後で気に入ったのに投票してあげると作り手も喜ぶわ。街の門に投票所があるから、帰りに寄って行きましょう」
「じゃあ先ずは氷像ですね。そういえば気になっていたんですけど、氷像って街の外にありますよね。魔獣とかに襲われる心配って無いんですか?」
行き先が決まり、移動しようとした時にココノハが疑問を口にする。その疑問にはリアが答えてくれた。
「北国の兵が街の外で厳戒態勢を敷いておりますわ。まぁこの国の土地柄、魔獣や魔物の被害はありませんけれど、あまり気にしないでも大丈夫ですわ」
「そういうことなら安心ですね。何かあってもホシミさんがいるので心配はしていませんけど」
「そうそう変な騒動に巻き込まれることは無いだろうが、何かあればお前たちだけは必ず守るさ」
「きゃー! ホシミさんかっこいいー!」
「茶化すな、こらユキノがいるんだ危ないぞあまり引っ付くな」
ココノハは私の返答に気を良くしたようで後ろから腹に手を回して抱きついてきた。
普段なら別に構わないが、子どもを抱いてるときだけは危険だから控えてほしい……。
「やっぱり胸が小さいから抱きついても興奮してくれないんですかね?」
「お前は何を言っているんだ。子どもを抱いてる時にされるのは危ないと言っているだけだ。それにココノハは胸が小さいと言うが、その分ぴったりと密着出来るから私は好きだぞ。心音もより近く感じられるからな」
私の言葉でココノハは沸騰したかのように一瞬で真っ赤になる。
「そ、そうですか……。えへへ、胸が小さくても良いんですね。えへ、えへへへへ」
そう言ってココノハは背中によじ登り更に胸を押し付けてくるのだった。
「ホシミ様は胸で女性を判断なんかしませんもの。当然ですわ」
「私は好きで大きくなったわけじゃないウサ。でもパパ───御主人様の寵愛を受けるのに胸の大きさは関係ないウサね」
「あんたたちがココノハにそれを直接言うのはダメよ。巨乳のあんたたちが言うと嫌味にしか聞こえないから」
向こうで小声でリアたちが話している内容がココノハに聞こえていないことを祈ろうと思った。
街の門を潜り外に出ると、外壁に沿ってある程度の距離を置いて氷像が並べられているのが目に付いた。
外周全てを覆っているのか? と思ったが、さすがにそこまでは無いらしい。あって半分しか埋まらないのだとか。それでも十分な数だが。
「右と左。どちらから見ていく?」
皆に尋ねると、どちらでも良い。と言う意見しか出なかったので門を出て右側から見て回ることにした。
「あ、これ剣ね。氷の剣かぁ。あたしの身長の倍くらいあるのね、よく作るものだわ……。うーん、後でリアに作ってもらおうかな?」
「これは何ですの……。犬? のようなものが小屋っぽいものの上で布団のように干されて居りますわ。いったい、何をモチーフにしたのでしょうか……」
「筋骨隆々とした男たちが組み合っている氷像とか誰が作ったんですかね……。何で組み合いながら見つめあってるんですか、わたしにはちょっと理解出来ません」
「これは亀ウサね。大きいウサ〜。何故か私の本能が亀は敵だと騒いでるウサけど、いったい何でウサ?」
それぞれ見たいものを自由に見て回る。皆、楽しんでいるようだ。独特な氷像が多い気がするが、楽しければ良いのだろう。例外もあるが。
「……」
私の目の前には、一本の棒と、棒の両脇に控える二つの球の氷像があった。
説明書きを読んでみると、そこにはシンプルな一言が載っているだけだった。
「燃やすか」
こうして、人知れず一つの氷像が姿を消した。一つだけ空白になった場所に人々は疑問を覚えたが、納期に間に合わなかったのだろうという結論に達したようだ。
残ったのは「男の象徴」とだけ書かれた説明書きだけだったが、氷像が溶けて消えた際に水浸しになっていつの間にか消えていたのだった。
右側をある程度見て回ったので今度は左側を見て回ることにする。見終える頃には昼食に丁度良い時間になっているだろう。
氷像を見て回っていると、シィナが何かを見つけて駆けていく。
「あ! 見て、リアの氷像があるわよ!」
「本当です! わぁ……氷で出来ているとは思えないくらい精巧ですね。でも、今よりも少しだけ幼いような……?」
ココノハはリアの顔と氷像を見比べる。確かに、今よりも少しだけ幼いような気がする。
「それはわたくしがモデルになったのが百年前だからですわ。それ以来ずっとわたくしを作ってくださっているんですの」
「そうなんですね。それにしても良く出来ていますね」
「ドレスの皺とかも本物見たいウサ! これが職人技ウサか……」
私たち以外にもリアの氷像はかなり好評なようだ。多くの人が感嘆の息を漏らしている。
氷像のリアは何処と無くアンニュイな表情で、頬に手を当ててため息を吐いているように見える。リアの整った顔でのその仕草はとても似合っており、「美姫の憂鬱」という名のタイトルに沿った素晴らしい出来だった。
街の門に戻ると、私以外はアンケートに答えていた。それぞれ気に入った氷像があったのかもしれない。
私は皆が投票を終えるまで待つことにするのだった。




