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57話 双子ちゃんは大人気

 私たちが北国へとたどり着いたのは、冬祭り前日のことだった。


 年中雪の降り止まない北の大地は、家々も地面も全て真っ白な雪で埋まっていた。街の人々は除雪をしながら明日の冬祭りに向けての準備をこなしているようだ。

 街の外には氷像に布が被せられ、明日のお披露目の為に整然と並べられていた。

 対して街の中は広場を中心に屋台の場所取りが為されている。冬祭りの期間だけは市場だけではなく広場にも出店して良いことになっているのだ。中央は催し物で使用する為に端にしか出せる場所はないのだが、人の集まる場所であるのでなるべく良い場所を確保しようとするのだそうだ。


 そんな浮かれ気味の街中に転移してきた私たち。リアは街の様子に驚いているココノハとユキユキの手を取って、優雅に微笑んだ。


「ようこそ、我が故郷北の雪国へ。わたくしは姫として皆様の来訪を心より歓迎致しますわ」


 薄青の髪と同じ色のドレスと、その上から藍色のコートを着たリアはお忍びで視察に出てきたお姫様のようだった。実際に姫なのだが。


「おー、リアのお姫様っぽいところを初めて見たウサ! 凄い似合うウサ! 綺麗ウサ!」


 ユキユキは初めて見るリアの優雅な振る舞いに興奮しているようだ。ユキユキに抱かれたユキノもきゃっきゃっと楽しそうに笑っている。


「やっぱりリアさんはそういう仕草が映えますね。すぐにホシミさんに抱きついてなければ完璧だったんですけどね……」


 ココノハは残念なものを見るようなため息を吐く。リアは優雅に挨拶をした後、私の右腕を豊満な胸で挟んで抱きついてきていたのだった。


「リアの優先順位はブレないからね、仕方ないわよ」


 苦笑するシィナは抱いているユキミの顔を見つめながら優しく揺らしている。時折ユキミの耳がピクピクと動いているのが気になって途中から耳を目で追っていた。


「わたくしの一番はホシミ様ですもの。これだけは何があっても変わりませんわ」


 腕を抱きしめて満面の笑みで答えるリア。こんなに愛されるなんて私も果報者である。


「ありがとうリア。礼の言葉だけでは足りないが、私も大切に想っているよ」


「はい、存じ上げておりますわ! わたくしの生涯はホシミ様の為にあるのですもの……」


 リアは恍惚とした表情で抱きしめた腕に頬を寄せるのだった。その後リアは意識を別のところに持っていってしまった為にシィナと私の案内で街を歩くことになる。

 軽く街中を見回ってから王宮へと足を向けた私たちは、リアの姿を見た衛兵によってすんなりと中へ通されるのだった。


 北国の王宮内部は全体的に白い。雪に覆われているとかいう訳ではなく、調度品が白や青系色が多いのだ。

 薄黄色の床の上、道に敷かれた絨毯は白い羽毛仕立てで、縁をオレンジ色の刺繍で飾りを付けている。壁は白塗りで、上に吊り下げられたシャンデリアは銀で作られている。

 薄青の花瓶が等間隔に並んだ白い木の台の上に置かれ、中には薄紫色の花が咲き誇っている。

 セントポーリアやアネモネ、ラナンキュラスといった紫の花々が生けられている。一つだけトリカブトがあったような気がするが気のせいだろうと思いたい。

 勝手知ったる何とやら、私たちはその足でヴァンの執務室へと向かったのだった。


 ヴァンの執務室の扉を開けると、こちらの───主に私の姿を確認して、若干嫌そうな顔をしたこの北国の王が出迎えてくれた。


「何しに来たんじゃ。今度はこの王宮をぶっ壊すつもりか?」


「何も起きないのに壊す筈が無いだろう。冬祭りがあるから家族総出で遊びに来ただけだ、もっと歓迎しろ」


「新しく人が増えとるとは思っておったが……。まずはお帰り、リア、シィナ。森精種(エルフ)の娘と獣人(ビースト)の娘は初めてじゃな。儂は氷龍皇ノーズヴァンシィ。リアの父親じゃ」


「只今戻りましたわお父上」


「お久しぶりです」


 リアとシィナが挨拶を返し、ココノハとユキユキが二人に続く。


「初めまして。わたしはココノハです」


「私はユキユキって言うウサ。で、シィナが抱いてるのがユキミちゃんで私が抱いてるのがユキノちゃん。私とパパ───ホシミさんの子どもウサ」


 ココノハとユキユキの自己紹介を聞いて二人に目を向けた後、ユキユキの娘に目を向けた。ユキミとユキノはヴァンをじーっと見つめながら首を傾げている。

 その様子を見て、ヴァンの顔がだらしなく緩んだのだった。


「おお、おお。こんな()い子がおったのか。見たところ産まれてからまだ半年も経っていないと見える。将来は母親に似て美人になりそうだのぅ」


「私にそっくりウサからね〜。はい、ノーちゃん。リアのパパさんウサよ〜」


 ユキユキはユキノの手を軽く握ってひらひらとヴァンに向けて振る。

 その光景を見て更にだらしなく顔を緩めるのだった。


 ヴァンに限った話では無いが、龍人(ドラゴニュート)族は子が生まれにくい種族の為、子ども好きになる割合がとても高い。

 リアもシィナも子ども好きであるが、叱るべきところは叱り褒めるべきところは褒める。

 しかしヴァンは甘やかしまくるのだ。例えるなら、初孫が生まれて可愛くて可愛くて仕方のないお爺ちゃんが甘やかしまくるのに似ている。


 リアも結構甘やかされて育ったらしいが、母親がしっかりと躾けてくれたので怠惰なダメダメ姫に成らずに済んだとのこと。

 最も、リアは百年間ほど感情を失っていたのだが。


「何でしょう……思っていたのと違いすぎます」


 ココノハがそう言いたくなるのも分かる。リアとシィナも双子を眺めてだらしない笑みを浮かべるヴァンの姿に苦笑いをしていた。

 それはさておき。


「冬祭りの期間はここで世話になるが構わないか?」


「ああ、自由に使うと良い。この国は寒いからの、こんな幼子を寒空の下に放り出すなぞ儂には出来んからな」


「恩に着る。礼と言っては何だが、西方の果実酒を持って来た。後で二人で飲もうか」


「うむ。そうじゃ、部屋はどうする? 皆で纏まるか?」


「どうする?」


 全員に尋ねると、ユキミとユキノに視線が集まる。初めにユキユキが口を開いた。


「私としては誰かと一緒がいいウサね。でも全員が一緒だと、ミーちゃんたちも夜泣きとかがあるから眠れなくなっちゃうか心配ウサ。だから二部屋くらいが良いと思うウサ」


「ならば私がユキユキと一緒にいよう。私なら寝なくても身体に問題はないからな」


「では、ココノハちゃんとシィナはわたくしのお部屋で一緒に、ホシミ様とユキユキちゃんはミーちゃんとノーちゃんのお世話もあるから別部屋で、ということですの?」


「ならリアの隣の部屋を借りましょうよ。前にあたしが使ってた部屋だし、あのフロアはその二つしか部屋もないし丁度いいんじゃない?」


「隣なら何かあってもすぐに手伝えますしね。それで良いと思いますよ」


「……とのことだ。今から向かっても問題は無いか?」


「大丈夫じゃ、いつ戻って来ても良いように掃除はさせておるからの。晩餐の準備が出来たら使いを呼びに向かわせるからそれまではゆっくりしていると良い」


 礼を言ってヴァンの執務室を後にし、王宮の最上階に位置するかつてリアとシィナが過ごしていた部屋のあるフロアにたどり着いた。

 荷物を置いてからリアたちがこちらの部屋へと遊びに来て、晩餐まで思い思いに過ごすのだった。


 なお晩餐では、ヴァンが双子を抱っこして感涙に咽び泣くというアクシデントこそあったものの、終始和やかに終わったのだった。

 ヴァンの奥方にしてリアの母親───名をフィリアスィーザと言う───も双子を抱っこして嬉しそうに微笑んでいるのが印象的だった。

 メイドたちにも囲まれていたので、改めて龍人(ドラゴニュート)の子どもへの愛情は凄まじいと思った。不思議なことに、二人とも泣き出すことは無かった。色んな人に囲まれて嬉しそうに笑っていたので楽しかったのだろう。もしくは、自分たちに愛情が向けられているのを無意識に感じ取っていたのか。


 そんなこんなで北国での一日目はこうして賑やかに終わるのだった。


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