56話 それはある寒い日の一日
季節は冬も深まった頃だった。
大陸中央部に位置する呪いの森と塔周辺では雪が降ることは無いのだが、数十年に一度降雪に見舞われることがある。
どうやら今年は降る年だったようで、森の木々や地面の上に白く雪化粧がされていた。
雪は今もなおこんこんと降っており、止む頃には積もっているだろうことが予想される。
室内───リビングでは、あまり稼働しない暖炉に火をつけている。暖炉前に設置されたソファーの上には、ユキユキとリアが双子を抱っこしながら暖を取っていた。
双子はすやすやと眠っており、その様子を見ては微笑んだり揺りかごのようにゆっくりと揺らしていたりする。
私はココノハとシィナと共に、もう一つの別のソファーに座っていた。
暖炉前にあるソファーは後から設置したもので、今私たちが座っているのが元からあったものである。
その上にいるココノハは、毛布を頭から被りながらぷるぷると震えていた。
「さ、さむ……さむい……」
「寒いのなら暖炉前のソファーに行くと良い」
寒いのも当然だろう。ココノハは今までと変わらない半袖のワンピース姿なのだから。ココノハはここに来てからワンピースを好んで着るようになった。だからといってこんな雪も降っている日に着ることはないと思うのだが。正直言って、露出している腕や足が見ていてとても寒い。
「ホシミさんが冷たい……。『私の身体で暖めてやろう……ほら、おいで』って言われてそのままあんなことやこんなことになっても良いんですよ?」
「何を言っているんだまったく。ほら、くっ付いていればまだマシになるだろう。もっと近くに来い」
手招きすると、私の左膝に乗って身体を寄せてくる。その上から再び毛布を被って、頭以外はすっぽりと覆われてしまった。何処と無く嬉しそうなココノハの様子を見てシィナはため息を吐く。
「あんたね、そんな薄着でいるから寒いのよ。何か羽織るものとかないの?」
そう言うシィナは暖かそうな格好をしていた。普段はあまり履かない黒色のロングパンツ、上には毛糸で編まれた赤色のセーターを着ており、その上から膝丈まである黒のカーディガンを羽織っていた。今日は髪を結わえているリボンの色も黒色になっている。服に合わせたのだろう。
「一応あるにはありますけど、わたしとしては人肌が一番好きなので。シィナさんも入ります?」
ココノハは毛布の隙間から手だけを出して手招きをした。シィナは少しだけ考え込む。
やがて顔を赤らめながら立ち上がった。
「し、仕方ないわね……。ココノハが寒そうだからあたしも暖めてあげるわ」
そしてするりと毛布の中に入り込む。私の右膝に座って、ココノハと同じように身体を寄せてきた。
「素直じゃないんですから。ホシミさんとくっ付きたかったって言いましょうよ」
ココノハはシィナを見て苦笑する。シィナは目をそらすように私の肩に顎を乗せてきた。
「ふん……。だって、恥ずかしいじゃない。もう子どもじゃないのにベタベタするなんて」
「そうですか? ホシミさんはどうです?」
「私か? そうだな……」
急に話を振られたので少し考える。そして思ったままを言った。
「ココノハもシィナも私にとって大切な女性だ。甘えてくれるのは正直嬉しい」
私がそう言うと、二人の顔が耳まで真っ赤に染まった。さっきよりも身体の密着度が上がった気がする。
「あー、これは卑怯ですね。卑怯です。卑怯ですよ」
「うー……ホシミ様……」
ココノハはずっと卑怯と言うし、シィナは二人きりの時にしか呼ばない名で呼んでくれた。しかし、足に触れるのは何故だろう。
「どうした二人とも、私の太ももを触って。男の足なんて固いだけだぞ」
二人の表情を見てみると、瞳には色欲の炎が灯っていた。二人の手は太ももからさらに上に上がってくる。
「おい待て二人とも、向こうにリアとユキユキが……」
「あら? わたくしたちがどうか致しまして?」
「私たちを呼んだウサ?」
止めようとしてリアたちの名を呼んだのだが、丁度移動してきた二人に聞かれたようだ。すぐに返事が返ってきた。
リアとユキユキはすぐに状況を理解したようで、楽しげに唇を歪める。
「楽しそうなことをしていますわね。わたくしも混ぜて欲しいですわ」
「ミーちゃんとノーちゃんはお昼寝中ウサ。だから心配は要らないウサよ。さ、パパ……いや、御主人様。私のことも、たーっぷり愛して欲しいウサ」
「……」
リアとユキユキまで来てしまったらもう逃げられない。逃げる必要も無いのだが、のんびりとしていただけなのに何故こうなったのだろう。
私に出来ることは、腹を括って四人を受け入れることだけだった。
その日の夜。
私たちは全員でベッドに横になっていた。ユキミとユキノが楽しそうに笑っている声だけが部屋に響いている。
私の部屋のベッドは、リアによって大改造が施された。その結果、部屋の大部分を占めるほど巨大になり、全員で横になってもまだ余るほどの大きさを手に入れたのだ。
───正直、邪魔である。
ユキユキだけはまだ余裕があるようで双子を撫でていた。それ以外の面々───ココノハ、リア、シィナは手足を放り出すようにして一糸纏わぬ姿で脱力していた。
室内は魔術により室温を調整しているので凍える心配はないが、一応毛布を掛けていく。
「ホシミさん……ユキユキにだけは手加減していましたよね」
「当然だろう。ユキミとユキノが居るんだから無理はさせられない」
「あはは……。本気の御主人様を相手にしたら私もその日は立ち上がれなくなっちゃうウサよ。いつだったか性豪って言ったウサけど、全員相手にしてまだ余裕があるとは思わなかったウサ……」
「違うわよユキユキ、この人は余裕があるんじゃなくて、余裕を作っているのよ。疲労を全部治癒魔術で治してるの。片手間でやってのけるのが本当に恐ろしいところなのよ」
「わたくしも……片手間では使えませんわ……。いくら魔力量が多くても使えなければ意味がない……精神集中が必要な魔術の行使とは、相性が悪いのですわ」
ただ、リアには魔力放出が出来るほどの量があるので、攻撃することはいつでも可能なのだ。しかし集中が必要な魔術の行使は難しいらしい。その為毎回へとへとになっている。
「人間離れしているのは知っていましたけど……そんなところまで人間離れしなくても良かったんじゃないですかね……」
「そんなことを言うココノハは後で更に追加だ。さて、軽く食事を作ってくる。皆は休んでおくといい」
ひゃー! と言うココノハの若干嬉しそうな悲鳴とリアとシィナの笑う声を聞きながらキッチンに向かうのだった。
作って来たのは本当に簡単なものだった。
三角に整えたおむすびに、卵焼きとベーコンを焼いたもの、茹でたキャベツ。飲み物は暖かいココアである。朝食かと言わんばかりの軽い食事だが、何の準備もしていないのだ。短い時間で手の込んだものは作れなかった。
そんな食事を取りながら、リアがふと思い出したように話し出した。
「そういえば、北国ではそろそろ冬祭りの時期ですわ。ミーちゃんとノーちゃんも産まれたことですし、みんなで見て回りませんかしら?」
北国は年中雪が降っているような地域で冬祭りも何もないと思うのだが、昔まだ四季があった時の名残だそうだ。
今では世間も冬になったことを知るのが冬祭りであり、冬祭りがあってようやく冬だと実感するようになったらしい。
「そうだな。悪くないかもしれん。ヴァンの奴もそろそろストレスで胃に穴が開いているかもしれんからな、気分転換させてやらなければ」
「お父上もお喜びになられると思いますわ」
リアはそう言って笑う。なお、ヴァンこと氷龍皇ノーズヴァンシィのストレスの大半はリアとホシミが齎す結果の副産物のせいである。直近での最大のストレスは、南国でやむを得なかったとは言え王宮を氷漬けにした挙句ぶっ壊したことだった。
見舞いと称して北国から南国に援助があったのだが、そんなことは置いておく。
「北国ですか、割と長く旅をしてましたけどわたしはそこには行ったことが無いんですよね。寒いのが苦手なので避けていたってだけなんですけど。でもお祭りですか……行って見たいですねえ」
「北国の冬祭りは凄いわよ。色んな氷像が作られて街の周囲に並べられる様は見ていて飽きないわ。前に行った時はリアの氷像まであったわね」
「あれは恥ずかしかったですわ。でも、ホシミ様と居るために国を離れたわたくしのことを慕ってくれる方がいる……。こんなダメな姫ですが、とても嬉しかったですの」
リアは嬉しそうに目を細めるのだった。そんなリアにユキユキは疑問に思っていたことを尋ねる。
「でも北国って寒いんじゃないウサ? ミーちゃんとノーちゃんが霜焼けしちゃうウサよ」
ユキユキが心配するのも分かる。しかし、リアは問題無いと言うようにユキユキの手を握った。
「大丈夫ですわ、シィナと一緒なら寒さに震えることはありませんの。シィナは移動式の暖房機になれますからミーちゃんとノーちゃんが凍えることはありませんわ」
「それあたし頼りじゃないの!! まぁ、小さな子どもを震えさせる趣味はないし……何よりホシミ様の子どもだし……仕方ないわね、今回だけだからね」
途中の言葉は誰にも聞こえなかったが、シィナは承諾してくれた。シィナの双子を見つめる眼差しがとても優しいので心配はしていない。しっかり護ってくれるだろう。
こうして私たちの北国行きが決まったのだった。
小話は冬祭りです
もう時期的には春なんですが、まだ寒いのでいけるかなって
ということで何話か続きます
やけに爛れた一日ですが、だいたいこんな生活してるんじゃないですかね爆発するといいのに




