44話 ユキユキ、ご懐妊
あの日から一ヶ月ほどの時間が過ぎた。ユキユキは必ず誰かと一緒にいるようになり、言い付け通り一人になることはなかった。よく街にも一緒に出掛けたが、あれ以降あの男とは再び会うことはなかった。そんなある日のこと。
「ねえ御主人様。私、最近身体の調子がおかしいウサ。病気ウサか?」
ユキユキが深刻な表情で私の部屋を訪ねてきたのだった。
「具体的にどのようにおかしいか分かるか? 些細なことでも良いから言ってほしい」
「んー……なんか身体がだるいウサ。疲れるようなこともしてないのにウサよ。あとは、お腹が痛くなったり、おっぱいが張って痛かったりウサ」
「ふむ……。それだけでは何ともな……。他に何か変わったことはあるか?」
うーんと悩んでから思い当たることがあったのか手を叩き合わせる。
「そういえばあれが来てないウサ! 普段なら一週間くらい前にはもう来てる筈ウサ!」
「あれとは……まさか」
「生理ウサ!」
ユキユキの言葉を聞いた私は急いでシュメットの街へとユキユキを連れて行くのだった。街に着いてすぐに医者に診てもらうと……。
「妊娠していますね。ご懐妊おめでとうございます」
ユキユキが妊娠したことを伝えられた。
「え……? 私、妊娠してるウサ? 赤ちゃんがお腹にいるウサ?」
「はい。およそ一ヶ月ほどでしょうか。貴女のお腹の中にちゃんといますよ」
女性医師からのその言葉にユキユキは喜び私に抱きついてくる。私はそんな彼女の頭を優しく撫でた。
「やった、やったウサ!! 御主人様! 私たちの赤ちゃん、出来たウサ!!」
「ああ、よくやったユキユキ。こんなに早いとは思わなかったが……本当にありがとう」
「御主人様……これも御主人様がいっぱいいーっぱい愛してくれたからウサ。御主人様大好き!!! ねえ早くみんなにも報告しなきゃウサ!」
嬉しさのあまり興奮しているユキユキに苦笑しながら、医師に礼を述べて塔へと戻るのだった。
塔に戻ると、全員をリビングに集めた。ユキユキは私の膝の上に座って胸に頬を擦り付けながらすごくにこにことしている。その様子を見てココノハたちは不思議がっていた。
「ホシミさん、何かあったんですか? ユキユキがいつにも増して甘々なんですけど」
「そのことだが……。先ほど、ユキユキと共に医者に診てもらってきた」
医者という単語を聞いて三人の表情が真剣になる。私はゆっくりと口を開いた。
「ユキユキが妊娠した。およそ一ヶ月ということだ」
沈黙が訪れる。リビングにはユキユキの「御主人様〜」という甘い声だけが響いていた。
「それは、つまり、ユキユキが、あんたの子どもを?」
一番初めに立ち直ったシィナが恐る恐る尋ねてくる。私はただ、頷いた。
「……はぁ。いつかはこうなるとは思ってましたが、びっくりするくらい早かったですね」
ココノハは呆れたような口調だったが、その眼差しは優しかった。
「ユキユキの努力の賜物でしょうか。隙あらば昼夜問わずでしたからね。何とは言いませんが」
「それ全部に応えきる方もおかしいのはこの際置いておきましょう。リア、リア? ねえリア大丈夫?」
シィナはため息をついてから、先ほどから一言も発しないリアの前で手を振る。リアはおもむろに立ち上がると、私とユキユキのところまでやってきて、優しく抱擁するのだった。
「ウサ? リア、どうしたウサ?」
リアは不思議がるユキユキの頭を優しく撫でる。
「おめでとうございますユキユキちゃん。正直とっても羨ましいのですけれど、素直に祝福致しますわ。ホシミ様との子……とても可愛らしいのでしょうね」
「リア……ありがとウサ。この子はしっかり産んでみせるウサよ。だから、この子が産まれたら、最初に抱いてあげてほしいウサ」
「わたくしが?」
「そうウサ。リアが子どもを欲しがってるのは私も知ってるウサ。種族的に出来にくいことも……知ってるウサ。だから───」
ユキユキはリアに何かを言おうとするが、リアが途中で遮る。
「ありがとうございますわ。でもそんなに気を遣って頂かなくても大丈夫ですのよ。ユキユキちゃんが母親なんですもの、貴女が初めに抱くべきですわ」
リアはユキユキに微笑みながら言った。そして私に妖艶な笑みを向けるのだった。
「ホシミ様……わたくし、これから少しだけ面倒臭い女の子になりますわ。ユキユキちゃんがとても羨ましいですの。だから、お覚悟、してくださいませ?」
「お手柔らかに頼む」
これからは暇があればリアに襲われることになりそうだ。流石に苦笑いが漏れる。
少し離れたところではココノハとシィナがこちらの様子を眺めながら会話していた。
「あらら、リアさんが対抗心を燃やしていますね。これは近いうちに新しい子どもが増えるんじゃないんですか」
「と、思うでしょ? あたしたちの場合、余程の幸運に恵まれないと難しいわね。ここに来てからの最初の時期───あたしは魔の五十年って呼んでるんだけど」
「何ですかその仰々しい名称は」
「まあそこは流してよ。こほん、で、その五十年の間は、リアが今よりももっと積極的でね。毎日朝から晩までは当たり前、夜から始まれば朝まで……とずーーーーーーーっとヤりまくってた時期があったのよ」
「えぇ……。それはかなり引くんですけど。普通そんなに出来ないってそういえばホシミさんは普通じゃないんでした。……もしかして、その時避妊していなかったんですか?」
シィナはこくりと頷いた。
「リアったら一度も避妊してなかったのに妊娠しなかったのよ。で、色々調べてみた結果、龍人が妊娠出来るのは百年のうちに一度しか機会がないんだって。リアはその期間から外れてたから……」
「全部無駄だったと。ただ快楽を享受しただけになっちゃったんですね」
「そういうこと。だからあたしはそう呼んでるのよ」
「……ということは、もしかしたらわたしもリアさんシィナさんと同じくそういう周期があるんですかね」
「多分ね。純森精種のことはよく分からないけど、龍人と同じく機会はかなり少ないとだけは言えると思うわ」
ココノハは深くため息を吐いた。
「いつかは子どもを、とはわたしも思っていましたけど、現実はままなりませんね」
「リアみたいになれれば楽なのかもしれないけど……やっぱり、その、恥ずかしいし」
「ですよねぇ……。まあ、時間だけはまだまだありますからゆっくり考えるとして、今はユキユキを祝福しましょうか」
「そうね。ふふっ、ユキユキからどんな子が産まれてくるのかしら。楽しみね」
ココノハとシィナからも祝福の言葉を貰ったユキユキは嬉しさのあまり泣き出してしまうという事件が起きたが、とても幸福そうだったのが印象的だった。




