↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/180

22話 山小屋

 街の正門を抜けて街道に入らず直ぐ脇に逸れる。シィナが示した山は、街のすぐ側だった。


「さて、今から山に入る訳だが目的地はあるのか?」


 目星は付いていると言っていたからには、怪しいと思われる候補があるのだろう。


「ええ、あるわよ。この山の中腹には泊まりがけの狩りで使う山小屋があるの。……と言うか、山小屋しかないわ。そこまでの道程で一応魔獣が出るけど、問題無いわよね?」


「魔獣程度に遅れを取る者はいないだろう」


「ですわね。全然問題ありませんわ」


 はっきり言って魔獣を相手にするのならば戦力過剰である。ここにいる皆、一人でも問題にならないだろう。


「もし危なくなってもホシミさんが守ってくれますし、大丈夫ですよ」


「それもそうね。じゃ、行きましょうか」


 そうして私たちは山を登り始めた。道は整理されておらず草木が生い茂っていたり凸凹だったりするが、直近で人が足を踏み入れた形跡があった。


「ふむ、誰かが出入りしているのだろうな。雑草が踏み潰されている。何度も何度も通っているのだろう」


「やっぱりそのライゼルって人が出入りしてるんですかね」


「可能性は高いだろうな」


 周囲を観察しながら奥まで歩を進めると、古い木造の建物が見えてきた。


「あれがその山小屋よ」


「結構ボロボロですねえ」


「昔からあるそうだからね。最近じゃ利用者もあまりいないみたいだし、近いうちに取り壊すか建て直すかしなきゃいけないかも」


 シィナとココノハが建物の外観について話している間に、リアが近くに寄って耳打ちしてきた。


「ホシミ様……。あの中から何か良くない気配が致します」


「分かった、少し見てみよう」


 魔力の多いリアは魔力の反応に敏感だ。それが例え残滓であっても感知する。熟達した魔術師が経験を積んで身に付ける魔力の感知を自然に出来てしまう所に彼女の規格外さが伺える。

 そんなリアが『良くない気配』と言ったのだ。何かがある可能性が高くなった。


「山小屋を透視してみよう。入るのは少しだけ待ってくれ」


 全員が頷いたのを確認して、山小屋の中を透視する。

 床に散らばるあれは……何だ? その他に何やら鉱物のような物が見える。基本的な家具の類いはあるが、中央に空間が出来るように退かされているように感じた。


「何かの儀式をしていたのか……?」


「何か見えたの?」


「ああ」


 先ほど見た物を皆に伝える。リアとシィナは考え込むように黙ってしまった。


「中に危険は無いんですか?」


「罠や魔術の類いは仕掛けられてはいなかった」


「じゃあ見に行きましょうか。ここでジッとしてても来た意味がありませんしね」


「それもそうだな。リア、シィナ。行こうか」


「はいですの」

「え、ええ…」


 一応警戒しながら扉を開く。中は先ほど透視したままだが、床には魔方陣が敷いてあり、その上から何やら輝く粉を振りかけていた。


「シィナ、これは……」


「リアもそう思う?」


「おそらくは、ですけれど」


 私は初見だったが、二人は何か心当たりがあるようだった。


「これを知っているのか?」


「確証は無いけどね」


 そう前置きしてから、この魔方陣について話し始めた。


「これは龍人(ドラゴニュート)の王族に伝わるものでね。今では失われてしまったある物を創り上げる儀式なの」


「六色の先天守護属性を表す六芒星、中央に龍の骨を捧げ、その上から金剛石を細かく砕いた破片を振りかけることにより発動する古の禁術ですわ」


 龍人(ドラゴニュート)に伝わる古の禁術……。かの種族が禁術とまで指定したものとは……。


「これは何が起こるんだ?」


「いいえ、これは何かを引き起こすことはありませんの。出来ることは創り上げることだけですわ」


「ただ、これから出来上がるものが厄介な代物でね。ねえ、あんたは『龍石』って聞いたことある?」


 私は首を横に振る。龍石という言葉すら今初めて知った。


「これは『龍石』を創り出すもの。そして……」


龍人(ドラゴニュート)をかつてのわたくしたちの祖先、大いなる祖龍へと変化させることの出来る石なのです」


 大昔、それこそ数万年前のこの世界には、『龍』がいたらしい。強大な力と巨大な体躯を持つ、世界の支配者。いつしか歴史の表舞台から姿を消した謎の存在だったのだが……。


「『龍石』を用いて変化することを、わたくしたちは『龍化』と呼びますの。龍人(ドラゴニュート)に眠る真なる力を呼び覚ます石と伝えられているのですわ」


「正直、予想外だったわ。龍石が完成されて使われたりなんかしたらどれだけの被害が出るか分かったもんじゃないわよ」


 二人の発言から、相当やばい物を創っていたようだ。ただでさえ強力な龍人(ドラゴニュート)が更に強大な存在になるのである。


「……戦って勝つのは絶望的な可能性が高いな」


「ハッキリ言うわ。無理よ。あたしたちに出来るのは龍石を破壊するかもしくは使わせないことだけ」


 龍のことはそれなりの知識があるのだろう。シィナは断言した。


「じゃあ、この魔方陣を壊して妨害するくらいしか無いってことですか?」


 今まで話を聞いていたココノハが次善案を挙げる。


「そうね。それしか無いわ。……ここ以外にも用意しているだろうから完成を遅らせるだけの気休めにしかならないけれど」


「気休めでも良いさ。相手の企みは分かったのだ。私も対抗策を考えてみよう」


「対抗策なんてあるのかしら」


「さてな。だが歴史は龍を排斥した。ならば何かしらの手段は残されているだろう」


「龍殺しの剣なんてあればいいんですけどねえ」


 あったらいいな、と言うココノハの軽い言葉だったが。


「龍殺しの剣……有りますわよ」


 リアからまさかの情報がもたらされた。


「あるのか? そんな物が……?」


「ええ。北の大地の最北に、遥か昔から存在する祠がありますの。その中には、かつて古の勇者が用いて龍を倒したと言われる剣が納められているのですわ」


 元々人が立ち寄ることのない北国の更に北とは……。おそらく、北国の王族にのみ代々伝えられていたものなのだろう。場所が場所だから荒らされていることもあるまい。


「転移を使っても往復二日か……。しかし本当に実在するのならこれ以上はない武器だ」


「守護者が中を守っているなんて話もありますの。行くのでしたら全員で向かった方が良いかと思いますわ」


「だ、そうだ。二人ともどうする?」


 私の問いかけに二人はすぐに頷いた。


「行くわ。可能性があるのならそれに賭けてみても良いかもね」


「わたしも行きます。というか置いて行ったら後で酷いですよ!」


 やる気は充分のようだ。シィナが一年間こちらで色々やっていたようだが、龍石のことは今まで知らなかった。ならば龍石が完成するまでの時間はあまり無いと考えて良いだろう。行動するなら急いだ方が良さそうだ。


「一度赤龍庵に戻って準備を整えよう。北国へ行くからなるべく暖かい格好をしないと凍死してしまうからな」


 南国とは気象が真逆である。今の薄着で行ったらすぐに寒くて動けなくなってしまうだろう。

 私たちは山小屋から赤龍庵へと戻り、しっかりと準備を整えてから北国の最北端にある祠へと転移したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。