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彼氏(?)視点。

 気が付けば、幼馴染の家を助けに来てから一月ほど経過していた。

 必死になって動き回っていたため、全く気が付かなかったのだ。

 そろそろ幼馴染の家も安定してきたし、何よりも大切な彼女に会いたい。一月も触れていないなんて、気が付けば耐えられそうに無かった。

 だから気が付いた翌日には、幼馴染一家に挨拶して、二人で暮らしていた家に帰った。



「ただいま」

 扉を開け、中に入る。

 いつもだったらすぐに聞こえるはずの、彼女――リシルの「お帰りなさい」と言う声は聞こえない。

 買い物にでも行っているのだろうか。疑問に思いながら、自室へと歩き出す。

 その時、ふとテーブルの上に紙が置かれているのに気付いた。きっとリシルからの伝言だろう。いつも彼女は出かけるときには書置きを残していくから。

 コップに紅茶を注ぎ、それを飲みながら紙に手を伸ばした。


 しかし、その書かれていた内容を読んだ瞬間、彼は部屋を飛び出した。


――これを読んでいる頃にはもう私は死んでいるかもしれません。

  私は国王陛下のご命令に従い、この能力を使うことに決めました。

  能力者の事は貴方には前に話したと思うけど、このご命令に従えば、私はきっと心を失う。

  ……でも、貴方にとっては都合がいいのかもしれない。

  貴方は幼馴染さんが好きなようだから、心置きなく二人で暮らして下さい。

  こんなことをお願いして申し訳ないけれど、この家にある私の荷物は棄てて下さい。

  急がなければならないので、処分する時間が有りませんでした。

  どうか貴方が幼馴染さんと幸せになれますように。

  最後にこんなことを言ってごめんなさい。

  ずっと愛してた。

  ばいばい。



(リシル…………ッ!)

 こんなことになるなら、幼馴染の家の手伝いに行くのではなかった。

 幼馴染は妹のような存在でしかないのだ。

 最初からリシルのことしか見えていなかったのに!

(どこだ、リシル…!!)

 幼馴染と幸せになれ?

 リシルじゃないと俺は幸せになれないんだ。

 愛してた?

 俺もずっと愛してる。リシル以外はもう誰の事も考えられないんだ。


 何故、何故……!?

 どうしてあの時、幼馴染の頼みを引き受けてしまったんだ。

 頼みさえ引き受けなければ、いや、もっと早く帰って来ていれば、リシルを止められたかもしれないのに。


 どうか、無事でいてくれ―――リシル!!!











 必死に町中を駆け回り、漸く彼女の居場所を見つけ、向かった時にはすべてが遅かった。


「リシル!!!」

 ベッドで上体を起こして過ごしていた彼女は、名を呼んでも反応しなかった。

 ただ、焦点が定まらない瞳はぼんやりと外を眺めている。

 彼女に似つかわしくない、人形のような姿に、唇をきつく噛み締めた。


「何者だ?」


 声が聞こえて、振り返るとそこには騎士が一人立っていた。

 何故騎士がこんなところに?

 そういえば、彼女の書置きには、“国王陛下のご命令に従い”と書いてあった。きっと関係者だ。

「アンタがリシルに命令を持ってきたのか」

 低く問いかけると、騎士はじっと俺の顔を見てきた。

「…………お前が、彼女の…?」

 騎士は小さく何事かを呟いたがよく聞こえなかった。

 騎士がリシルをこんな風にした原因の一端であることは分かりきっている。だから、俺は騎士に掴みかかった。

「なんでリシルにそんな命令を持ってくるんだよ! 優しいリシルが引き受けないわけないだろ!!」

「そうだな」

 頷いたが、騎士は俺を睨み付けてきた。

「騎士は王命に逆らえないからな。だが、お前が彼女を捨てなければ、彼女は心をなくさずに済んだんじゃないか」

 騎士の言葉に、彼女の書置きを思い出し、苦々しい思いが駆け上ってくる。

「…………俺は…ッ、リシルを捨ててない!!」

「お前が捨てたつもりがなくとも、彼女は捨てられたと思っている。だからこそ、一人でこんな無茶をしたんだ」

「……………ッ…」

 俺は騎士から手を放した。

 ベッドでぼんやりとしているリシルを見る。


 彼女がこんな風になったのは俺のせい?

 俺に、捨てられたと思ったから?

 だから、どうでもよくなって、なりふり構わず力を使って心を失くした?

「…………リシル……ッ」

 リシルに近付こうとして――――騎士に阻まれた。

「彼女に近付くな」

「邪魔するなよ……」

 騎士は嘆息して、俺を見た。

「今後、二度と彼女に会いに来るな」

「…ッ……何でお前にそんなこと言われなきゃならない!」

「誰のせいで彼女がこうなったか、よく考えろ」


 騎士に部屋から追い出された。

 動くこともできなくて、俺はぼんやりと入り口に立ったままだった。


 部屋の中では、騎士が不器用に笑顔を浮かべ、リシルに優しく話しかけている。

 じっと見ていると、一瞬リシルの表情が柔らかくなった気がした。

「…………………ッ…!!!」

 他の男といる彼女の姿を見たくなくて、逃げるように部屋を後にした。





 リシル。


 俺の、大切なリシル。


 ごめん。


 俺は君が大好きだ。愛してる。


 出会った時から、ずっと君だけを愛してる。



 時を巻き戻せるなら。


 君を不安にさせないようにするから。



 どうか俺を捨てないで。


 戻って来てくれよ――――リシル。


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