第7話 恋の行方は運命に・・・
私、なにやってるんだろ……
好きな人の恋の相談にのって、恋の応援して。
好きなのは幼馴染のまもる君と勘違いされて。
完全に、恋愛対象外に思われて……
武にはあんなこと言ったけど、私の恋は諦めるしかないのかな。奇跡でも起きないと、私の想いが届くことはなさそうに思えて、どんどん弱気になっていく。
この恋の行方はどうなるのかしら……武との運命につながるのかしら。
無理よね――いろいろ考えて、そう結論づける。
※
七月になり、課題の締め切りや前期試験が目前まで迫っていた。
河原さんと福井さんの喧嘩を目撃してから、一ヵ月が経つ。二人がどうなったのかは知らないけど、河原さんが部室に来ることはぱったりとなくなり、その代わりに、武と河原さんが二人でいるところはよく見かけるようになった。
二人はもしかしたら、付き合い始めたのかも知れない。武には、怖くて確認できないけど……
その日も講義に出て、空いてる時間は図書館で課題をやり、試験にむけて勉強していた。お昼を少し過ぎた頃、やっと一段落したので、遅い昼食にしようと食堂に向かった。
昼休みの食堂は、大勢の学生でごったがえして空いてる席を見つけるのがとても大変な混雑だが、今はすでに午後の講義がはじまり、食堂にはほとんど人がいなかった。
私は入り口のショーウィンドウで今日のランチを確認して食券を買って、カウンターで食堂のおばさんからランチを受け取り、どこに座ろうかと食堂を見渡した。日当たりの良い窓際の席がお気に入りで、窓際の空いてる席へ向かう。
その時。
窓際の席に、武が一人で座ってるのを見つけたの。
最近は、食堂で河原さんと一緒にいる武を見たくなくて、お昼休みには食堂に来ない様にしていた。部活や授業でもすれ違ってて、とても久しぶりに武の姿を見た気がする。一瞬、声をかけようかどうしようか迷ったけど、武の後ろ姿に元気がないように感じて、私はそっと武の座ってる席に近づいた。
「武?」
私は覗きこむようにして声をかける。武はぼーっとしてたみたいで、ビックリして私の方をあおぎ見た。
「あっ、あれ、うーちゃん……」
そう言った武は、瞳に精彩な輝きがなく、見るからにしょんぼりとしていた。ちょっと前に見た武は、あんなに幸せそうだったのに、一体ここ数日の間に何があってそんな寂しそうな顔をしているのだろうと、私は眉間にしわを寄せて、聞かずにはいられなかったの。
「どうしたの? なんか元気ないみたいだけど?」
「そうかな……」
武はそう言って、小首をかしげて苦笑いして、窓の方に視線を向けた。武に何かあって落ち込んでるのは分かったけど、武が話してくれないのを無理やり聞きだすのはよくないと思って、私は武の向かい側の席に座って、無言でランチを食べ始めた。
ランチを半分くらい食べ終わった時に、ふいっと武を覗き見る。
武は、窓の外をどことはなしにながめていて、時々、はぁーっとため息をついて、目を閉じた。
私が武を見たまま再びごはんを口に運んだ時、閉じてた目を開いた彼と目が合った。武は苦笑して俯いた。
「俺、振られちゃった……」
えっ?
私は、一瞬、なんて言われたのか分からなくて、ぽかんと口を開けて、口の中に入ってたご飯を一気に飲み込んで、聞き返してしまったの。
「えっ、振られたって誰に?」
私があまりに大きな声で聞き返したものだから、武はちょっとビックリして、それから瞳にせつなさを宿して言った。
「河原さんに」
「うそ……」
付き合い始めたって言われた方が、まだ納得できる気がするのに。
「だって、あんなに仲良さそうにしてたじゃない……」
「俺も……最近ずっと一緒にいたし、いい感じだと思って告白したんだけど、振られた」
そう言った武は、今までに見たことがないくらい綺麗でせつない顔をしていた。
「今でも福井さんの事が好きだって、河原さんは言ってた。それ聞いて、俺、河原さんは福井さんと一緒にいるのがいいと思ったんだ。俺が彼女を想う気持ちと、彼女が福井さんを想う気持ちでは、ぜんぜん想いの強さが違うんだって、客観的にそう思ってる自分がいてさ……俺のは恋なんかじゃなかったのかも」
そう言った武は、苦しげにふっと笑った。
「そんな! 恋じゃなかっただなんて、自分で否定したら駄目だよ。誰が認めてくれなくたって、自分だけは、自分の恋を信じて……認めてあげないと!」
私は、夢中で喋ってた。まるで、自分の恋が否定されたように感じて……みにつまされて。そんな私を、武が目を見開いてじぃーっと見ていたけど、私は止まらなかった。
「人を想うことに、大きいとか小さいとか比べることなんてできないでしょ! この恋が運命につながるように、ただ頑張るしかないじゃない!」
そこまで言って、私は肩ではぁーはぁーと息をした。いつの間にか立ちあがって机に手をついて大声で叫んでいた。
食堂にいた周りの人が、ちらちらっとこっちを振り返る。たくさんの視線に見られて、私の顔がどんどん真っ赤になっていくのがわかった。私は、空気のぬけた風船のようにくにゃくにゃっと椅子にへたり込んだ。
うぅ……恥ずかしい!
私ったら、感情に任せてなんかとんでもなく恥ずかしいことを口走っちゃったような……
そう思って、目の前に座る武を、そーっと見ると、武は相変わらず私を見つめてぽかんとしてた。
えっと、さっきまで、なんの話をしてたんだっけ。私は一生懸命、さっきまでの会話を思い出そうとして、頭をフル回転させた。その時。
くすっ。
て! 武が、クックッ……て笑いを必死に堪えようとして、耐えきれずに声を出して笑い始めた。
「あはははは」
今度は私がぽかんっと武を見つめる。そんな私に気がついて。
「あっ、ごめん。うーちゃんがまったく迷いもなく言い切るからさ、びっくりして……というか、さっきまでずっと悩んでた自分が馬鹿らしくなっちゃってさ」
「えっ?」
「いいなぁ、友近さんは」
えっ?
まもる君?
「こんなにまっすぐな気持ちでうーちゃんに想われてて。正直、妬けるな」
そう言った武の顔は眩しくて、つい見とれてしまったけど。
私は、はっと思い出す。
そーいえば、武は私がまもる君を好きだと勘違いしてるんだった。あの時は否定してもどうしようもない気がしたけど、誤解を解くのは今なんじゃないかしら!
「ちっ、違うよ」
私は、俯いて言った。それからぐいっと顔を上げて、まっすぐに武の瞳をみつめる。
「私が好きなのは、武だよ。友達としてじゃなくて……私が恋してるのは、武なの!」
どうか、今度はちゃんと伝わりますように、そう心の中で祈りながら。そう言った喉の奥が、氷を飲み込んだみたいにヒュッと冷たく感じる。
ドキンっ、ドキンっ。
脈が尋常じゃない早さで打っているのがわかった。穴があったら隠れたいくらい恥ずかしかったけど、武の目をしっかりと見ていた。武の顔からすっと表情がなくなって、真剣な瞳で見つめてくる。
うぅ。
ドキドキが止まらないわ。
それから、真剣な瞳の中にやさしさを宿して、ふっと笑って言ったの。
「うれしいな。俺、うーちゃんに惚れそうだ」
って!
魅惑的な瞳でじぃーっと見つめられて、そんなことを言われて、顔がかぁーっと赤くなって、あわてて目線をそらした。
そんな私を見て、武がにこにことうれしそうに笑う。その笑顔は、初めて交差点で出会った時と同じで、私は胸がくすぐったくなった。
あぁ、私はこの恋を諦めるなんてできない……
2度目の告白をして、私の恋の行方は運命に少し繋がったような気がした。
それぞれ、一目惚れした私と武だったけど。
私は、この恋を諦めないと決めて、武は今、一つの恋を終えて。
この先、この恋がどうなるのかはキューピッドしか知らない……ううん、きっと私たち次第なんだと思う。
だって、キューピッドは気まぐれだから。
きっと、恋を頑張ってる人の背中をそっと押してくれるはず。
私は破裂しそうなほど高鳴る胸を押さえて言った。
「あの、今度の休み……一緒に出かけない?」
声が震えてるのが自分でもわかる。
武はそんな私をみつめて、無邪気な笑顔を向ける。
「いいね!」
そう言った武に私は微笑み返す。
この恋を頑張る私を見たら、気まぐれなキューピッドも、微笑みかけてくれるかもしれない。
これにて「気まぐれキューピッド」は完結です!
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